Training camp – in Hyoutei gakuen -:Type of assent 2 - 5/5


夕食後。
可憐は入浴を終えて、夜の校舎を歩いていた。

もう夜だから外は暗い。
でも、まだ消灯前なのでこの辺は廊下に電気が点いていて明るい。

(どこか考え事出来そうな所ないかなあっ?)

それをさっきから探して徘徊しているのだが、どうも体の良い所が見つからない。
暗い所で一人は怖いし。
かといって明るいところは限られているから、人がそっちに集まるので一人になり辛いし。
まあそもそもそこまで真剣ではなく、軽く散歩がてらなんだけど。

「・・・えっ?」

ふと視線を上げると、3年マネジの落合が誰かに詰め寄っている光景が見えた。
相手は忍足。
というか、もっと正確に言うと、忍足の背の後ろに隠れている3年の部員。

「どきなさい、忍足君。これ以上庇うなら貴方も共犯よ。」
「犯も何も、まだ先輩も何もしてませんよ。まあするだけの思想があるのんは否定出来ませんけど。」
「おい忍足・・・!」
「それは認めて貰わな。思うてるだけならまだしも、口に出したらこうもなりますよ。」
「あのー・・・」
「あら?桐生さん。」
「何してるんですかっ?」
「何してるも何もないのよ、桐生さんも言ってやって頂戴。そこの1年の陰に隠れてる情けない渋谷君はね、女子のお風呂を覗こうとしてたのよ。」
「ええっ!?」

反射的に半歩下がる可憐。

「ちっ、違う!そんな事してない!」
「嘘おっしゃい!見たいって言ってたのを私はこの耳でしかと聞いてるのよ!」
「だから!それはその、したいなあっていう願望がぽろっと出ただけであってさ、」
「ほらみなさいよ、したいっていう願望はあるんでしょ?」
「う・・・・」
「するつもりなんでしょ?」
「しませんよお、勘弁してくれよ・・・」

泣きそうな声の渋谷を背負いながら、忍足は可憐と目が合うと苦笑してちょっと肩を竦めた。

「先輩、もうその辺にしといたって下さい。」
「でもね、」
「渋谷先輩もほんまにはしませんよ。嘘言うてるとまでは言いませんけど、テスト直前に職員室行ったら答案ちらっと見られへんかなくらいの軽い気持ちですから。叶わへん事が前提というか、ちょっと思っただけというか。」
「ううん・・・」
「それに、もし万が一本気やったとしても出来ませんて。跡部印のセキュリティが目を光らせてるんですから。」
「そうなのっ!?」
「せやで。監視カメラ置いてるわけやあらへんけど、シャワールームとかその辺はサーモがあって、妙な動きの奴が居ったら機械の判断でブザーが鳴んねん。」
「知らなかった・・・!」
「ふうん。」

落合はどうもまだ納得していないらしい。
しばし釈然としない顔で渋谷を見ていたが。

「・・・まあ良いわ。そこまで言うんなら、今回は見逃す事にするわ。」
「本当か!?」
「言っておきますけど、私は忍足君に免じて見逃すのよ!自分が許されたと思って調子に乗ってんじゃないわよ!」
「う、は、はい・・・」

ふん!と、やっぱりまだ納得いってない感じの鼻息の荒さで場を後にする落合。
それを見て、渋谷ははああ・・・と大きなため息を吐いた。

「有難う忍足・・・」
「いえ。やけど、それはそれとして今度同じことがあったら流石に庇えませんよ。」
「はい、気を付けます・・・」
「後、さっきも言いましたけど、やっぱり内心で一瞬思うのと口に出して言うんは話違いますから。本気で覗く気やと思われてもしゃあない所があるんで、それはもう辞めた方が。実際聞いた女子側は、間違っても愉快にはなりませんよ。」
「はい、ごめんなさい・・・」

どっちが先輩だか分からないようなやり取りをして、渋谷もぐったりしながらとぼとぼと向こうへ去っていった。

「はあ。」
「な、なんだかお疲れさまっ!」
「おおきに。完全に巻き込まれただけやけどな。」
「ああうんっ、それは見てたらなんとなくは・・・」

忍足は無口な方だが、別にぶっきらぼうだとか心が冷たいとかそういうわけではないので、今みたく通りすがりから助けて忍足!みたいな感じで当てにされてる事はちょくちょくある。同学年は兎も角、先輩勢は良いのかそれで・・・と思わなくもないけど。

「大体わかるけど、結局何があったのっ?」
「大凡は落合先輩の言うてはった通りやで。渋谷先輩が女子の生着替え見たいなとかぼやいた所に、たまたま落合先輩が居合わせたらしいわ。まあ万が一ほんまにやられたら取り返しがつかへんから、落合先輩も無視は出来へんかったんやろうけど。」
「あはは・・・でもそうだよね、本当に本気で覗かれたら大事件になっちゃうしっ。」
「どっちにしろ、口に出すのはあかんな。悪い事ほど。」

その忍足の言葉に、可憐はふと思った。

(・・・忍足君も思ったりするのかなっ?)

女子の生着替え見たい、という願望については、可憐はある程度は許容が出来る。
そりゃあ実際されるとドン引きするし軽蔑するし、言葉に出されたら不愉快だけど、思春期の男子なんだから思うところまではまあ内心しょうがないというか、思ってても不思議じゃないなという感じ。女子の着替え見たいなんて、普通そんな事思わないわよ!このど変態!とまで責める気はない。

寧ろ軽い願望として思う所までなら普通といえば普通と思っているので、じゃあ逆に忍足も思ってたりするのかなあ・・・なんてちょっと思ったのだ。

「どないしたん?」
「えっ!あ、ううんっ!ちょっとあのっ、考えちゃってっ!そのう、誰でもちょっとは悪いこと考えたりするものかなあ、なんてっ!」
「そらまあそうやな。別に着替えの話に限らへんけど、せえへんだけで悪い考えが一瞬過るとかいうのは、多分誰でもあるもんやさかい。」
「・・・忍足君もあるのっ?」
「普通程度にはあるで。次のバイオリン教室どうにかしてサボれへんかなとか、自習になった時はこっそり教室抜けて図書室籠ってられへんかなとか。」
「・・・因みに着替えはっ?」
「そんなに考えた事あらへんなあ。」
「そうなのっ?」
「俺の場合、覗きなんかしてどうすんねんて思う気持ちの方が大きいさかい。」
「そ、そういうものかなあ・・・・っ?」

この手の話は本人の性格によって意欲(というのも変な言い方かもしれないが)が変わってくるものである。
忍足はどっちかというとこういう話にもロマンと雰囲気を求めたい派。
まあはっきり言うと、好きな子の着替えなら見たい。そしてどうせならもっと大人になってから、それなりの雰囲気の中で同意の上で見たい。
他は別に見たいと思わないので良いです。そんな感じ。
もっと言うと、覗きという形式では決して見たくない。罪悪感にかられるし、見た瞬間だけは嬉しいかもしれないが、そこから後は悪いことしたという自責の念にかられそうだし。
だからどっちにしろ、女子の着替え覗きたい?と言われるといや全然としか言いようもなく。

「そういえば、可憐ちゃんは?」
「えっ?」
「なんでこんな所居ったん?ここ、大分端っこの方やけど。」

今2人が居るのは長廊下の真ん中。
丁度この辺りから借りている教室の方向へは電気が点いているが、向こうはもう消灯している。
この辺をうろつくのは丁度一番近い位置に寝泊りの部屋がある3年生か、もしくは忍足のようにちょっとだけ暗がりゾーンに入った所にある自販機に用事の生徒くらい。
ただ、可憐は今見たところ手ぶらで財布を持っている風でもないし。

「あっ!あのね、私はちょっと考え事をっ!」
「ああ。ぶらつきながら考え事しとったん。」
「じゃ、じゃなくてっ!ちょっとそのう・・・考えたいことがあって、落ち着ける場所を探してたんだけど、なかなか見つからなくってっ。賑やかだと気が散っちゃうし、でも明るい所では皆固まってるからっ。」
「ああ・・・そら難儀やな。イギリス行けてたら多分自分の部屋貰えたやろうからそれで済んだやろうけど、こうなってまうと。」
「うん・・・でも、そもそも合宿中にそんな事するなっていうのはその通りだし、出来ればそうしたいなくらいの感覚なんだけどっ。」
「でも、それはそれとして気になるもんは気になるやろ?」

何を考え事するのかは知らないが、今考えるべきでないとわかっていても気になって考えてしまってしょうがないという事はある。
自分はあんまりないけど、そういう人だって沢山居ることを忍足は知っている。

「特に可憐ちゃんは、性格的に後回しに出来へんタイプとちゃう?無理やり後回しにしても、気にしてもうていつもの調子はなかなか出されへんような気がするわ。」
「は、はい、おっしゃる通りっ・・・!」

そうなんだ。突き詰めるとそういう事だと思う。
考えまいとして後回しにしてたから、ここ最近調子が狂っていたのだ。
まあもっとも、考え込んで結論出たら調子が戻るのかと言われたらそうじゃない気もなんとなくするけど。

「でもせやなあ、場所の問題となると・・・」


『男子テニス部に連絡です。間もなく消灯、消灯です。各自自室に戻り、休息を取ってください。繰り返します、間もなく消灯・・・』


警備員の声がスピーカーから聞こえてきて、2人は目をそちらへやった。

「ああっ、時間過ぎちゃった・・・」
「ちょっと俺も探してみるさかい、明日にせえへん?」
「えっ!?いや、良いよっ!私の都合だしっ!」
「まあそう言わへんで。じっくり考え事したい気分いうのは、俺にも分かるさかい。」

忍足もどちからというと考え込むタイプなので、落ち着ける場所で物思いに耽りたいという気持ちはよく分かる。
まして今のように、考え事があると言いつつ、相談に乗ってと言わない・・・つまり、自分だけで深く考え込みたいと思ってる時は、やっぱり納得いく環境でないと集中しづらい。

「ええとこ見つかったらええな。」
「あるかなあっ?・・・あふ。」
「どっかしらにはあると思うねんけど。」

会話しながら、可憐は小さく欠伸をした。

明日もある。
明後日もある。

合宿は始まったばかりだ。