レギュラー選抜ももう終わり。
そんな時、とうとうその試合は始まった。
「・・・第5試合!3番コート、佐川邦夫対幸村精市!」
その瞬間。
静寂が広がる。
「・・・棗君、確か佐川さんという方は、」
「そ。部長さん。」
「おおお!つーよそー!」
紀伊梨の感想が、全てを物語っていた。
強そう。
でも、「そう」なだけ。
強い。まずい。どうしよう。負けるかも。
そんな気が全然湧いてこない。
誰の胸にもだ。
「よろしくお願いします。」
「ああ。よろしくな。」
挨拶。
サーブ決め。
真田の試合の時にあれだけざわめいていたギャラリーは、今やすっかり静まり返っていた。
他のコートでは、もう試合は無い。
これが最後の試合であり、勝ち星の上位順にレギュラーの枠は埋まっている。
詰まる所もう、この2人がレギュラーである事は確定していた。
だから本来、試合などする必要は無い。
だが、佐川は思ったのだった。
けじめを付けねばならない。
自分と、幸村と。
果たしてどちらが強いのか。
「・・・・・」
無言で見つめる千百合。
分かっている。
幸村はきっと勝つ。
(・・・でも。)
勝つ事と、応援する事は全然別な話なのだからして。
皆が固唾を飲んで見守る、耳が痛いほどの静寂の中で、千百合は1人すうと大きく息を吸った。
「・・・頑張れ!」
(・・・ああ。)
幸村は思わず微笑んでしまった。
何時だってあの子の声は。
自分を包み込んで背を押してくれる。
「プレイ!」
審判のコール。
プレッシャーなど吹き飛んでしまった。
視界は何時もよりクリアに。
頭が冴えかえって、ボールを上げた感触も、ラケットの重みも、ハッキリ伝わってくる。
「・・・ハッ!」
ドシュ!
という音と共に決まる、サービスエース。
「・・・佐川部長が。」
「は・・・反応出来てない・・・」
「言っちゃいけないって分かってて言うけどさー。」
「・・・気の毒ですよね。」
「今のゆっきー無敵だもんね!」
「ちょっと、油断は駄目。」
「いや妹よ、無敵ってそういう意味じゃない。」
「は?」
「今の幸村君は・・・ほら。」
「千百合っちがついてるもんね!」
「わ・・・1-0!幸村!」
戸惑い気味の審判の声。
負けない。
負けない。
今の自分で。
君が居るなら、俺は。
(ーーー絶対に、勝てる)
その後。
審判が3-0にて幸村の勝利を告げるまで、凡そ10分。