オフザウォール棗。
彼はそのあだ名の通り、「来た道が悪路だったから」という理由で、平気な顔をしてフェンスの上を疾走し、一足先に倉庫に戻ったら後続の3人用にパイプイスを窓際に置いといてくれた。
だから3人が凸凹砂利道をどうにかこうにか倉庫まで引き返し、周囲を伺いながら元居た校舎に辿り着いた時には、棗はもうゼリーから通学鞄から何からを用意しておいてくれてた。
「ほーれ、ひえっひえー。」
「あ、有難う御座います棗君!」
「・・・・・・」
「千百合っちー!バレたものはしょーがないよー!」
「うん・・・分かってる・・・うん・・・」
どうしてくれようか、ただでさえ渡すのが不安なゼリーなのに、この兄にバレた事で不安が加速する。
「しっかし、紫希は今回頑張り過ぎじゃないのw幾つあるんだよw」
「ええと、予備を入れて10個・・・」
「重いわけだよw」
「ごめんなさい!」
「いや、それは良いけどさw俺が勝手に運んだんだし。」
クーラーバッグの中には、アイスノンとカップに入れたゼリーが10個。
ビードロズ4人、丸井、真田、柳、仁王、桑原で9個。プラス予備で10。
幸村の分は勿論要らない。
「紫希ぴょん!次は私が持つよ!」
「「お前は駄目。」」
「なんでー!?」
「転んだら洒落にならんw」
「飴じゃないのよ紀伊梨、ゼリー。落としたりぶつかったりしたら駄目なの。」
「紀伊梨ちゃん、お気持ちはありがたいですが、私が・・・」
「俺がやるからw」
「それは駄目ですよ!」
「良いから良いから。此奴にやらせたら良いのよ。」
千百合に止められている間に、棗は軽々とゼリーを持ってしまう。
まあ棗なら何があっても崩す事は無いだろうという信頼はあるが。
倉庫の扉をきっちり閉めて、4人はテニス部の方向へ歩き出した。
「さーて、次なる問題は人の入りよw」
「どうなるかしらね。」
「人の入り?ってなーに?」
「同じ事を考えて居られる方は、大勢いらっしゃるという事です。今頃、テニス部の周りは人だかりでしょうから・・・」
近づけるか。
待つならいつ迄になるか。
「うーん・・・あ、でもブンブンは絶対大丈夫!ゼリーって言ったの、多分聞こえてたよね!」
「彼奴食い物の事は外さないしね。」
「良かったじゃんw紫希は丸井君大好きだしw」
紫希はキョトンとした顔で棗を見上げた。
「・・・私、皆好きですよ?」
「そーじゃないよw友達になって、って言ってオッケー貰ったんでしょ?」
「「ええええ!?」」
紀伊梨は勿論、千百合でさえも大声を上げた。
「・・・マジ?」
「嘘ー!すごーい!やるなブンブン!」
「でしょ?俺もびっくりしたわー。」
「え?え?」
紫希は元々の性格が大人しく、人見知りする。女子相手でも馴染むのにそれなりに時間がかかるし、男子となると尚更。
それに、紫希は「友達」という響きに敏感な所がある。
いつか棗が言ったように徐々にマシになっているとは言え、紫希が。
あの紫希が男子に向かってそんな事を。
「まあ、丸井が良い奴なのはなんとなく分からないじゃないけど。」
「ねーねー!なんて返事貰ったのー?良いよって?」
「え、ええと、ええと・・・」
思い返すが。
あれは返事を貰ったというより。
「・・・言い返されました。」
「へっ!?」
「友達になってくれって・・・」
「あ、言い返したってそっち?」
(ふうん?)
棗はちょっとニヤついた。
紫希に友達になってくれと言われて、逆に友達になってくれと切り返すとは、なかなか良い返答だ。
「私、恐れ多くてもう・・・」
「おそれおーい?」
「恐れ多くないから。」
「でも・・・」
なんだか、返す返すもちょっと信じられないのだ。
丸井はなんというか、男子の中でも自分とは縁遠いタイプだと思っていた。
いや、思う。今でも思ってる。
明るいし、人当たりが良いし、それだけではなくてなんというか、男子っぽい。
棗や幸村みたいに穏やかな性格と言うよりは、活発でグイグイ進む、強気な所がある。
紫希はそういう人が嫌いなわけではない。
でも逆に向こうは、紫希のような物腰が弱くて静かなタイプをそんなに好きにはならないと、紫希は経験からなんとなく思っていた。
だから「居ると楽しい」とか、まして「友達になって」とか言われると、それは本当に自分に向かって言ってるのか?と確認したい気持ちでいっぱいになる。
(・・・駄目です、何度考えても分かりません。丸井君って、私と居る事の何処に、どういう楽しさを求めてるんでしょう?)
そういう事を此の期に及んで考えるから「怖い奴」扱いされる事に、紫希はいっかな気がつかないのだった。