Training camp – in Hyoutei gakuen -:Extream heat 1 - 5/5


「あ”づい”・・・・・!」

誰も聞いてないけど、独り言を言って青木は犬のように舌を出した。

昼食を食べ終わり、午前と同様テニス部に張り付いているわけだが、現在午後二時。
一日の中で一番暑い時間帯である。

「お茶がぬるい・・・くそう、あいつら良いなあ・・・あいつらのが暑そうだけど・・・」

勿論、テニス部とギャラリーでは待遇が違う。
ギャラリーは動かない働かないで見ているだけだが、代わりに冷たいスポドリなんて出てこないし、冷やしタオルも無い。

羨ましがればいいのか気の毒に思えば良いのか微妙だな、と思いつつ、汗でちょっとぬるついた手でまたカメラを構える。

(・・・・ん?)

青木はカメラを外した。

目線の先には可憐。

「・・・あれ?まずくないか?何かあいつフラついてね?」




その通りだった。

昼食後暫くして、余りの暑さに可憐は時折目眩を起こしかけていた。

「ええと、ええと、次のダッシュメニューの目標タイム・・・が・・・・」

ぐうっ、と遠近感が一瞬無くなるような妙な感覚がして、そしてまた直ぐ元に戻る。
さっきからこれを何度か繰り返している。

(どうしよう・・・ちょっとまずいかな・・・)

なんて思う可憐はわかっていない。
ちょっとまずいかなと思う人間というのは、大抵まずい事になりすぎていて判断力が低下しているから「ちょっとまずいだけ」とか思ってしまうのだ。

(これだけやったら、日陰に行こう・・・それで、通りがかった人にちょっと休みたいからって話して、茉奈花ちゃんか跡部君に連絡、を・・・)

「あ、桐生さん。ちょうど良かったわ、後で新しいボールのセットを・・・桐生さん?」
「・・・・・・・」
「桐生さん?ちょっと、桐生さん!」
「・・・あ・・・あの、私・・・」

ちょっと休みたくて。

そう言いたかった筈なのに、何だか声が出ない。
いや、もう出てるのか出てないのかもよくわからない。なんだか急に耳が遠くなったような気がする。

(目が、見えなーーー)

「桐生さん!ねえ、しっかりして!桐生さん!」
「結月?どうしーーーー」
「誰かを呼んで!桐生さんが倒れたの、急いで!早く!それからスポーツドリンクと、保冷剤と冷やしタオル!」
「えええっ!?わ、わかった!ちょっと待って!」
「桐生さん!?聞こえる!?保健室まで行くわよ、聞こえてる!?」


必死になって自分を呼ぶ声。
それは先輩マネジである落合のものだと分かっているのだが、暑さで朦朧としている働かない思考の中で、可憐の唇は無意識に動いた。


ーーー忍足君、助けて






「可憐ちゃん!」

可憐が倒れたのを遠目で見た忍足は、即練習を中断して可憐の元へ駆け寄った。

「誰ーーーああ、忍足君!助かったわ、手伝って!」
「はい。運ぶんで、ちょっと退いてもらえますか。」
「ええ、お願い。私は跡部君と網代さんに連絡するわ。」
「はい、お願いします。」

言いながら可憐を横抱きにしようと、肩に腕を回して抱き起こすが。

「・・・・!」

熱い。
体温が上がっている。これはまずい。

「なあ、そこのーーー青木!」
「え!?俺!?」

フェンス越しに青木は忍足に話しかけられ、狼狽えた。
ありゃりゃえらい事だぞとか傍観者気分で見ていたのに。

「保健室行って、扉開けといて。先生にも事情話しといて、開いてへんかったら職員室行って鍵貰うて冷房つけてーーー」
「ちょ、ちょ、ちょっと待ておい!なんで俺!?」
「フェンスの外居んねんからそっちのが近いやろ、こっちは今から回り込まなあかんねんから。」
「いや、そうだけど、それにしても、」
「行ってくれへんのんやったらもうええわ、誰か他に頼むさかい。ほんならそこのーーー」
「わわ、わかったよ!行かないって言ってないだろ、行くよ!」

怖っ。人使い荒っ。と言いながら駆けて行く青木だが、勿論忍足はわかっててやっている。
一刻を争うのだ、立っている者は親でも使え。

「可憐ちゃん、聞こえてる?ちょっと揺れるで、堪忍な。」
「うん・・・・」

本当は走って行くことになるのでちょっとの揺れでは済まないだろうが、もう仕方がない。
せめてちょっとでも揺らさないようにと、ぎゅっと自分に引き寄せるように抱きかかえて、忍足は立ち上がった。

「お・・・て・・・・」
「うん?どないしたん。」

何か言ってるが、声が小さすぎて全然聞こえない。
耳を近づけると、もう殆ど囁きのような声で可憐が言った。


「忍足君・・・助けて・・・・」


もし可憐が今朦朧としていなければ、この至近距離なら忍足が息を飲む音が聞こえただろう。
全てを迅速に判断・行動しなければいけない今の状況で、忍足は一瞬だけ意識が逸れた。

一瞬だけ。
次の瞬間には、もう元に戻ったが。

「・・・任せとき。」

そんな事。
言われなくたって。