忍足が出て行って、5分程経った頃だろうか。
妙にそわそわしていた青木が、可憐の方を向いた。
「・・・よし!そろそろ遠くへ行った頃だな!」
(遠く・・・?)
「いやいや、実は聞きたいことがあってな?忍足が居なくなるのを見計らっていたのだ!と、いうわけでー。」
青木はスマホを取り出した。
「突撃インタビューだ!マネージャーのお嬢さん、氷帝学園新聞部のこの青木二葉に、協力してくれないか?」
「・・・え?」
「いやさー、ずーっとインタビューしたかったんだよなー!あ、心配しなくても、病人に無理はさせないぞ!「うん」か「ううん」か、もしくは「何とも言えない」の3択で答えてくれるだけで良いからな!」
「えええ・・・・・」
そんなこと言われても困る。
確かにべらべら喋るのも辛い今だから、うんとかううんとかで話が進むのは配慮されてるなあと思うが、そもそもインタビューとか今乗り気になれる気分じゃない。
遠慮してくれないかと思い、黙って目を逸らして嫌ですアピールをすると、青木はああー・・・とがっくり肩を下げた。
「せーっかく、今なら時間あると思ったのになあ・・・お前もか、そっか・・・」
「・・・え?」
「え?何?」
「お前「も」って・・・」
「もう何人もアタックしてるんだけどさー、みーんな断るんだよー。部員もマネジも、男も女も、1年から3年まで軒並み。」
「ど・・・どう、して・・・?」
「え?いや、どうしても何も、お前だって現に今嫌そうな顔してーーー」
「わ、たしは、今疲れてるからっ。」
「あ、そういう感じ?そっちの理由?」
寧ろその理由がこの状況では第一候補だと思うのだが。
いや。それよりも。
「他の皆は・・・どうして?」
「あ、いや・・・ううん、そのー、えー・・・」
言っても良いのかな、と小さく呟く青木。
「・・・実は、その・・・インタビューで聞きたい事っていうのがさ。
・・・対立海大附属中学への所感というか、個人の気持みたいなものをさ・・・」
(あ・・・・・)
一気に合点がいった。
可憐を含め、今その話題を積極的にしたい人など部に居るまい。
跡部の鼓舞で皆半分以上立ち直ってはいるが、それでも愉快な話とはとても言えない。インタビューを断る人が大多数でも、それは全く無理のない話だ。
「・・・あの、うち、負けちゃって・・・」
「ああうん、負けたのは知ってるんだ。っていうか、俺双子の姉ちゃん居るんだけど、そっちは立海だし。よく知ってる。」
「あ、そうなんだ・・・」
「うん。いやでもさ、正直ここまで重い空気になってるとは思わなくてっていうか・・・もっと、いやあ油断しちゃった失敗失敗てへぺろ☆な感じかと思ってたんだよ。練習中も皆元気だし、別に塞ぎ込んでそうな奴も居ないし・・・」
青木は。
多分運動部というか、競争の世界に身を置いたことがないんだろうな、と可憐は思った。
少し前の自分に似ている。小学生の時の可憐なら、青木と同じような事を今のテニス部を見て考えたかもしれない。
でも今は違う。
可憐は分かるようになったーーーなってしまった。
レギュラーを下された者。それを目の前で見ていた者。
振り切ろうと思ってもフラッシュバックが未だに起こる者。
必死にやっていないと不安に押し潰されそうな者。
皆多かれ少なかれ、どこか自分で自分を無理やり奮い立たせている。
無理やり笑って、無理やり普段通りにして、無理やり大声出して部活に来ている。
今歩みを緩めると、立ち止まってしまうかもしれないから。
そして、立ち止まっているようなその暇は自分達にはないから。
「・・・ねえ、青木君っ。」
「ん?」
「私、今インタビューなんてされても、正直全然しっかり答えられる自信が無いんだけど。」
「ああいや、それはもう諦めて・・・」
「でも、その代わり私が話すよりもっと良い方法があるんだ。うちのテニス部の事を知りたいなら・・・」
「え、マジ!?それは教えて!どうしたら良い!?誰に話をーーー」
「試合を見にきて。きっと、今までわからなかった事がわかるよ。」
次は全国大会。
立海と当たると限っているわけじゃないけれど、でも対立海戦でなくても良い。
勝負の世界に身を置くテニス部を知りたいのなら、勝負の世界に自らも触れなければいけない。
自分が関東大会で、やっとそれが出来たように。