Summer greetings - 1/7


8月に入った。

まだ上旬だというのに、連日暑い。
日差しがカンカンと照りつける中、今日も立海テニス部は練習に勤しむ。

「休憩ー!昼休憩でーす!」

マネージャーの合図で、皆練習を一旦止めて部室に戻る。
冷房は勿論ガンガンだ。ああ、汗引いていく。涼しい。

「おし、弁当弁当!あー、暑いと腹減るぜ。」
「逆じゃないんか。」

仁王は丸井の感覚が不思議で仕方がない。
自分はもう、最近昼はおにぎり1個あれば良いやな勢いなのに。

「今日も気温が高いな。」
「ああ。俺のデータによると、今日の日中の最高体感温度は40度近くなる。」
「こまめに休憩を取らないといけないね。・・・と。」

幸村は弁当をロッカーから出し、ついでに紙の束も出す。

「はい、真田。」
「む?」
「はい、柳。」
「?」

当たり前のような顔をして、幸村ははがきを二枚づつ差し出す。

「ええとそれから・・・ああ、そこか。柳生!」
「はい?」
「はい。それから桑原と・・・こっちが丸井。で、こっちが仁王の分。帰り際だと、誰か渡しそびれそうだから、今渡すことにするよ。」
「これ何?」

「暑中見舞いだよ。俺と春日から。」

丸井はちょっと目を見開いて、手の中のはがきをまじまじと見た。
暑中見舞い。まじか、そんなのまめに書く奴がまだ居るのか。

「これはご丁寧に、有難うございます。」
「なんだか懐かしいな・・・去年は学校の先生から来たな、そういえば。」
「ああ、小学校の担任は送ってくるの。」
「ふふっ。本当は家に送ろうかと思ってたんだけどね。春日が、住所を知られたくない人が居るかも知れませんから、差し支えなければ渡してくれませんかって頼んできたんだ。だからどうせ配るならと思って、俺もついでに。」

そんな奴居るか?と全員が一瞬思った。一瞬だけ。
次の瞬間には、居たことに思い至った。それ、そこの銀髪の。

「丁度良い。幸村、春日に伝えておいてくれ。俺は残暑見舞いを出す。」
「俺もそうするつもりだ。大会が終わるまでは、落ち着いて手紙を書く気分になるのは難しいからな。」
「お前さんらも出すタイプか。」
「な、何か悪かったな・・・俺、何も準備してなくて・・・」
「あはは!良いんだよ桑原。俺も春日も、別に返事が欲しくて書いてるわけじゃないんだから。習慣なんだよ。柳も、別に返事が礼儀だとかそういう事は思わなくても良いよ。」
「いや、俺も習慣なんだ。とはいえ、今まで残暑見舞いにした事はなかったんだが。」
「それ以前に、そもそも普通は出すものだろう。」
「いや、流石にそれは・・・」
「今時は廃れつつある文化ですからね。風流で良いと思うんですが。」
「ちゅうか、そもそも紙の見舞いなんぞ要るんか。その気になれば電話でもメールでも何でもあるじゃろ。」
「そういうものではない!」
「仁王君、こういうものは気持ちですから。」

「・・・・・・」

会話に花を咲かせるチームメイト達の話し声を聞きながら、丸井は右手に箸、左手にハガキを持ってなんとなくそれを見つめる。

今見てる方がハガキの表面。
幸村のが上。日誌で見慣れた綺麗な字で、暑中お見舞い申し上げますと印刷された隣に軽いメッセージが書いてある。

(これの後ろ。)

2枚目が紫希の。
重なってて、今見えてないやつ。
指をちょっとズラすと、重なっていたハガキが滑って、2枚目も見えるだろう。

「・・・・・・良いや。」

丸井は辞めた。

「ブン太、見ないのか?」
「ああうん。何か今見る気分じゃねえから。」
「・・・なんとなくか?」
「そ。」

またいつものか・・・とほぼ全員が思う中、柳は言った。

「良い事だな。」
「え?何が?」
「今見ないのだろう。それは良い事だと言ったんだ。」
「良い事なわけ?これが?」

「手紙を味わうなら、一人の方が良い。そこに書かれている言葉は、相手がお前だけに時間を割いて当てた言葉だ。」

だから俺も今は遠慮する、と言って柳はすぐにはがきをロッカーにしまいに立った。

そう。
そう。
言われると、急に。

(・・・うわ、)

何か、ふと視界に入った、ハガキの裏面の丸井ブン太様という宛名を見るのもなんだか緊張する。見慣れない字。というか、紫希の字なんて初めて見た気がする。こんな字なんだ、知らなかった。

「そういえば、五十嵐と黒崎って暑中見舞いとか・・・」
「ああ、棗は送れば返事をくれるよ。五十嵐は書く気はあるんだけど忘れてしまって、結局送ってこないタイプかな。千百合は・・・」

千百合は。

「・・・・・」
「む。どうした幸村。」
「・・・ごめん、何でもないよ。千百合もそうだね、くれた人にだけ返事をくれるタイプかな。とはいっても俺と春日からは来るってわかっているから、俺達2人にはいつもすぐくれるけれど。」

いつもならね。
いつもなら。

例年通りならそろそろ千百合から来る筈だが、今年は。

「・・・ところで、真田。話を変えてしまうんだけれど、今日のこの後のストローク練習について、ちょっと良いかな。」
「ああ、どうした?」

幸村は頭をテニスモードに切り替えた。

あまりこの事は深く考えない。

考えても仕方がないし。
考え続けると深みにはまるとわかっているし。
そもそも、自分には考える資格もない。

自分で蒔いた、種。