一方その頃、ビードロズ4人。
紫希は今日は図書館。
紀伊梨は親と買い物。
棗は散歩。
と、いうことにしていた。表向き。
「はい、それではこれよりうちの妹についての会議を始めまーすw」
「おー!」
「お、おー・・・」
ライブハウスプリズムにて、千百合を除く3人は秘密裏に集まっていた。
勿論千百合には内緒だ。
「えー、本日の議題はですねwまあ率直に言うと、うちの妹が何かどっかおかしいんですわw」
棗はアイスコーヒーを飲みながら言った。
「具体的に言うと、どうも口数少ないねwまあ元々そんなべらべら喋るキャラじゃないんだけどさw」
「でも、それでも最近の千百合ちゃんは無口ですよね。こちらから話しかけないと何もお話してくれませんし・・・」
「うんうん!最近の千百合っちは何かずーん・・・って感じしますなあ!」
「お前気づいておったのかw」
「む!紀伊梨ちゃんだって、千百合っちがいつもと違うくらいはわかりますー!んでもさー。」
紀伊梨はオレンジジュースを一口。
「暑いからしんどいんだなーって思ってたんだけど、そーじゃにゃいの?」
「違うなーw」
「違う?」
「彼奴、夏バテなら自分でそうと自覚して対策取るからねw今回はそれしてる気配すらもないのよw」
「ですけど、千百合ちゃんの行動としては夏バテにそっくりですよね?」
紫希のアイスティーが、カランと音を立てた。
「ご飯の時もあんまり食べてませんし、なんだかぼんやり気味で怠そうですし・・・睡眠に関しても、見てるわけじゃありませんけど欠伸が多いので、多分眠れてないんじゃないかと・・・」
「でも、彼奴家じゃ最近凄いさっさと自室に引っ込むのよw部屋の電気も消えてるしw」
「えー?じゃー千百合っち、お部屋行って電気消してるのに暗い部屋でずーっと起きてるって事ー?」
「暗い部屋で起きてるというより、ベッドの中で横になったまま起きてるんじゃないでしょうか?眠ろうと頑張ってはいて、でも眠れないみたいな・・・」
「そうね、俺もどっちかというとその線と思うわ。」
そして、あまり考えたくなかった線でもある。
寝る意思があるのに眠れない。しかも状況的に眠れる筈なのにそれが出来ないというのは、もう高い確率で悩み事なのだ。
それも深刻である可能性が非常に高い。
千百合は確かにダウナーな性格はしているが、あまりいつまでもうじうじと思い悩むタイプではないし、問題があってもそれと知覚していつも通り振る舞える事の方が多い。自分のことを自分でよくわかっているから、自分をコントロールするのが上手なのだ。
それが出来なくなっているという事は、つまりそれ相応の事が起こっているからという事になる。
「お前ら何か相談されたりした?」
「ぜーんぜん!です!」
「私もです。実はちょっと、何か悩んでないか聞いてみたりしたんですけど・・・」
「おー!どだった?」
「それが、大した事じゃないし心配されるような事でもないからって・・・変なのは自覚してるからごめん、と謝られもしたんですけど。」
「ダメかー。紫希でもダメか・・・」
千百合が何かもし誰かに相談事をするとしたら、この3人の中でなら先ず最初に紫希が候補だ。口が堅く、気遣ってくれるし、おちょくってきたりしない。
次点で紀伊梨。聞いてはくれるが、デリカシーがなく、お喋りなのでつるっと他の人にこぼしたりしがち。
勿論棗になんて原則相談しない。
「お前がダメってなるとーーー」
「ってゆーかさー!
紫希ぴょんもなっちんもさ、ゆっきーに聞いた?紀伊梨ちゃん一番にゆっきーに聞いたお!」
「そ・・・・それは、私はまだ・・・」
「何でー?」
「いやだってさあ・・・」
「千百合っちの事いっちばん知ってるのはゆっきーじゃーん!そのゆっきーに聞かないなんて変だよ!」
そう、紀伊梨はデリカシーに欠ける。
それは大抵良くない事であるが、今のように核心にいきなり近づく足がかりとなる事もある。
紀伊梨にそんなつもりは全くの0だが、今回の紀伊梨の行動は、千百合が悩んでるらしき事を解決する為にはかなり効果的だと言えるのだった。
「お前は逆に幸村に聞いたわけw」
「うん!千百合っちが変なんだけど、ゆっきー知ってた?って聞いた!」
「幸村君は、どうおっしゃってましたか?」
「えっとねー、知らないって!」
「そうですか・・・」
幸村でも知らないのか・・・と、紫希と棗が追加の溜息を吐きかけた時だった。
「そんでねー。」
紀伊梨が追加の爆弾を投下した。
「会った時とかに聞かないのって聞いたらさー、最近会ってないし電話もLINEもしてないって!」
「げほ!」
棗は噎せた。
紫希はアイスティーに添えていた両手から力が抜けて、目を驚きに見開いた。
「・・・連絡を取ってないんですか!?会ってないっていうだけじゃなくてですか!?」
「そー!」
「そんな、どうして・・・いつからそんな、」
「えーとねー、プールの時が最後だったって言ってたっけかな?」
「「プール・・・・」」
紫希と棗は同時に目線を伏せた。
プール。
「・・・そういえば、千百合ちゃんが今みたいになりだしたのは・・・」
「・・・プールの日の後からだった気がする・・・いや!」
「棗君?」
「待て待て待て、プールの後じゃねえわ。プールの日そのものだわ。」
「え?そだっけ?」
「そうだったんだよ。バタバタしてたけど、帰りの辺りから変だったんだよ彼奴。親父が迎えに来ててさ、帰りの準備できてるかって聞いたらさ、ああそうとか何か、そんな変な返事して・・・」
棗は言葉を切って黙った。
「・・・・・・・」
「およ?なっちん?おーい!」
「まあまあ紀伊梨ちゃん、今何か考えてらっしゃるみたいですから・・・それより、幸村君は他に何かおっしゃってました?」
「あ、そーそー!そいでね、ゆっきーと会ったら元気になるかもだから、会いに行ってあげてよって言った!そしたら、今は辞めておくってさ!」
「今は辞めておく・・・」
そんな返事があるだろうか、幸村に限って。
違和感を覚えた紫希が考えを詰める前に、棗が言った。
「原因は彼奴か。」
「彼奴というと・・・」
「幸村だよ。」
「え?でもゆっきーは千百合っちの事苛めたりしないお?」
「いや、俺も幸村が酷いことするとは思ってないけどさ。酷い事じゃなくても、何か悩みの種になったりとかはあるじゃん。」
紫希はぴたりと動きを止めた。
酷いことじゃない。
でも悩みの種。
「・・・・・・」
それってなんだろう、と紫希は考え出した。
何か答えに心当たりがある気がしたのだ。しかも、幸村由来となると更に考える材料が増える。
紫希が深く考え込みだしたのをよそに、棗と紀伊梨は話を進める。
「それってどんな感じのやつー?」
「いや例えばって言われると俺も困るけどさwほらこう、それこそ・・・そうさね、転校を考えてるとか?」
「え、嘘!?」
「いやだから例えの話だってばw」
「あ、なんだ・・・もー!びっくりしたよー!」
「さっきからもしも話だって言ってるじゃんw」
「・・・紀伊梨ちゃん。」
「んお?」
「幸村君から聞けたのは、それで全部でしたか?」
「うん!あ!えーと、いちおー紀伊梨ちゃんもいっこ聞いたんだけどー。でもそれは関係ない話だから!良いです!」
「ちょっと待ってそれも聞かせてよw」
「えー?でも本当にかんけーないお?」
「それはこっちで決めるからw取りあえず教えてw」
「んー、ゆっきーがさー。会ってないしLINEとかも全然やってないってゆーから、紀伊梨ちゃん心配になっちゃって聞いちゃったんだよにー。」
「何てw」
「千百合っちの事好きー?って。」
そう。紀伊梨は真っ先に、もしかして破局の危機なのではと疑ったのだ。
逆に、あの幸村が会わない連絡も取らない状態で平気な理由が思いつかなかった。
「お返事はどうでしたか?」
「勿論だよってー。」
「ああ良かっ・・・良かったというか、それはそうですよね。」
「ねー?紀伊梨ちゃんもびっくりしたから聞いちゃったけど、よーく考えたら、ゆっきーが千百合っちと別れるなんて絶対ないもんねー!」
紀伊梨がこの件に関してどこか安穏としてるのは、正にこの質問が理由だった。
千百合が何に思い悩んでいるのかは知らないけど、少なくとも幸村は千百合が好き。
それなら大丈夫だと思った。
紀伊梨は抜群に長い付き合いから、ある意味では誰より幸村を知っているし信用している。
だから、幸村が千百合の味方で居てくれるなら、いつかは解決するだろうという安心感がある。大丈夫だ。未だかつて、幸村に解決できなかった問題などない。
「でも、安心しました。少なくとも、別れるとかそういうお話じゃなさそうで。」
「むーん・・・」
「およ?なっちんどったの?」
「えー、だってさー。俺的にはそれも何だかなーと思うわけよ。」
棗は複雑な顔をして、氷が溶けだして薄まりつつあるアイスコーヒーをまた飲んだ。
「えー?何がー?どこがー?」
「いや何かね、困った時の幸村頼みみたいな事をあんまりしすぎるのもなって気になってるんですよ俺としてはね?勿論頼ってないことも沢山あるけどさ、殊あの妹の事に関してってなると、俺達どうしても助けて幸村ーって飛びついちゃって、」
「えー、良いじゃんそれでー!ゆっきーは千百合っちの為なら何だって出来るんだからさ、助けて貰ったら良いんだよー!」
「いやだからそれが、」
「別に良いんじゃないかと思うけどねえ。」
オーナーの小田桐が、サービスのスナック菓子を出してくれつつ口を挟んだ。
「どうぞ。」
「有難うございます。」
「おっちゃんもそー思うー?」
「えー、でもさあ・・・」
「棗君はあれだね。良いお兄ちゃん過ぎるね。」
「えw何の話すかw」
「棗君は、千百合ちゃんと精市君の間に何かが起こると、すぐ何とか解決しようとしてるでしょ。しかも、なるべく千百合ちゃんの非を認めさせる形で。」
ぐ、と棗は素で言葉に詰まった。
図星。
「棗君にとっては千百合ちゃんは妹だからねえ。どうしても身内が他所様に迷惑かけてるみたいな図に見えて焦るんだろうけど、それはそれでこれはこれだから。あんまり自分の事として捉え過ぎるのもね。」
「あー・・・それGWに紫希にも言われた奴ー・・・」
「ってゆーかなっちんはさー!千百合っちに意地悪過ぎるんだよー!」
「いや、俺だってこういう時はおちょくったりしないしーーー」
「そーじゃなくてさー!何かあったら、なっちんってすーぐ千百合っちが悪いんだって感じになるじゃん!なんでー?ゆっきーが悪いことだってあるかもしんないじゃんか!」
これも図星。
小田桐はうんうんと深く頷いている。
「えー!だってそれは思うじゃん!それは千百合がっていうかさ、幸村はそもそも悪い事なんかしないのであってさ、」
「するよー!ゆっきーだって悪いことはするもん!こないだの林間の時だってさ、ご飯失敗して爆発させちゃってたしさー!」
「そういう事じゃなくてえ!」
「でも棗君、私も幸村君が悪い事をしたり失敗したりするとは思えませんけど、」
「ほら!ほらー!」
「えー!?」
「で、ですけど!だからってじゃあ、千百合ちゃんが無条件に悪いのかって言われたら、それはそんな事ないと思うんです・・・・上手く言えないんですけど、両方悪くなくてもすれ違うことだってあるんじゃないでしょうか?」
「・・・うー。」
不満げな顔の棗。
納得がいってない・・・というよりは、納得したくないのだ。
「おっちゃん!おっちゃんは千百合っちの味方だよね!」
「私は皆の味方だけど。ただねえ、味方する事と妄信する事は別だから。」
「もーし・・・?」
「妄信です。妄想を信じると書いて、ええと・・・そうですね、兎に角何かをひたすら信じてばかりで、自分ではあまり考えてない、みたいな意味です。」
「えー?俺って妄信なんかしてるー?」
「してるよ。確かに私だって、精市君はスーパーマンに近いとは思うけどね。」
小田桐はぽんと棗の肩を叩いた。
「覚えておいで、皆。」
「「「?」」」
「恋をする男はね。みーーーーーんな、馬鹿。」
そんなもんだよ、と小田桐が言い終えた所で、別の客に呼ばれて小田桐は行ってしまった。
「へー!そーなんだー!」
「いやあ、俺は例外が居ると思う・・・」
「・・・でも、それはそれとしてどうしますか?千百合ちゃんの事・・・」
「取り敢えずもーちょい放置で良いんじゃねー?幸村が原因だとして、今こっちもあっちもばたつきまくってるでしょ。合宿で。」
「そーそー!合宿だよー!」
そう。合宿。
今、合宿が刻々と迫っているのである。
立海テニス部もだが、この度晴れて親の許可が出たので、なんとビードロズも強化合宿をして良いという運びとなった。
とは言っても流石に2泊3日親の付き添い付きが限界だったが、誰かの家に皆で行く「お泊り会」とは全然別のシチュエーションに、実はメンバー全員多かれ少なかれ期待にそわそわしてたりするのだ。
「確か、テニス部の合宿とも期間が被るんですよね。」
「そー!バラバラだったら皆で行けたのにー!」
「いやおかしいでしょwバンドの練習なんだから、皆で行った所であいつ等は暇じゃんw」
「そーだけどー!」
「寧ろ被ってることを喜ぼうぜwスケジュールが重なってるわけだから、休みがその分被せやすい筈だしw」
「でもー!それはそれとして寂しーじゃーん!」
「まあまあ・・・秋になって、今よりは少し落ち着いたら、お泊り会が出来ますよ。皆でお泊りは、その時のお楽しみにしましょう?」
「そーだけどさー!秋まで長いんだもん、まだまだじゃーん!」
「あっという間だよ、心配すんなw」
そう、きっとあっという間だ。
入学してから今日までがそうだったように。