Summer greetings - 5/7


一方の紫希は、本屋に寄っていた。
平積みされている新刊のラインナップが変わっているのを見て興味を惹かれ、ちょっとだけ・・・と思って奥まで行って色々見てしまう。実によくあるパターン。

(今月の新書が、これとこれと・・・あ!『南風』シリーズの新作です!わあ、何年ぶりでしょうか・・・!)

夢中で見ている紫希は、通路の向こうに自分を見つけた人が居るのに気づかない。

「春日。」
「え?あ・・・柳君!」

話しかけて来たのは柳だった。
手にスポーツ科学の本と月間プロテニスを持っていて、実に「らしい」と思った紫希は思わず微笑んだ。

「お疲れ様です。練習の帰りですか?」
「ああ。お前は一人か?」
「はい。今日は少しだけ・・・ええと、ライブハウスへ行って。そのまま帰るつもりだったんですけど、新書が出ていて、つい・・・」
「よくある事だ、気にするな。」
「そう言って貰えると・・・」

意志の弱いやつとか思われるかな、と思った紫希は少し安心した。
基本的に、自分は文字の前では節制が難しいのだ。自覚してる。

「話は変わるが、春日。」
「?はい。」
「今日暑中見舞いを受け取った。有難う。」
「あ、はい!そうか、幸村君が配って下さったんですね。」
「ああ。帰宅してから読むつもりで、まだ目は通してないが。貰えると思っていなかったからな、思いがけず嬉しかった。」
「いえ、そんな・・・全然大したものじゃないんですけれど。でも、喜んでくださったなら良かったです。」

ホッと胸を撫で下ろす紫希。

「実は、少しだけ心配だったんです。邪魔に思われたらどうしようかと思って・・・」
「邪魔。暑中見舞いがか。」
「はい。何かこう・・・電話でもメールでも、いくらでもやり取りの方法があるのに、わざわざハガキなんて。って思う人も、もしかしたら居るかな、って・・・」
「仁王はそんな事を言っていたな。」
「ああ・・・」
「ただ、仁王も別に迷惑だとかそういう意味で言ったわけじゃない。まめだとかそういったニュアンスで発言しただけだ。気にしなくていい。喜んでる奴が大半だ。」
「そうですか?それなら良いんですけど・・・」

男子と女子で傾向が違うことというのは世の中に沢山あるが、手紙に対するハードルの高低もそれに該当することに紫希は想像がついていた。
大した用事がなくても手紙を回して遊ぶ女子と違って、手紙のやり取りなんてただただ怠いだけと思っている男子は多い。
幸村と棗は該当しないけど、そもそも幸村も棗も色々特殊な人種である事も紫希は知っていた。

幸村からも大丈夫だからと太鼓判を押して貰ったけれど、こうしてちゃんと意見を聞けるとやはりホッとする。

「ああそうだ。」
「はい?」
「あくまで俺の推測だが、丸井は特に喜んでいたぞ。」
「・・・え?」
「あいつも帰宅してから読むと言っていたからな。流し読みするのが勿体なかったんだろう。」

そうなのか。
いやでも、それはちょっと都合の良い方に考えすぎなんじゃないか。
でもでも、柳がそうだと言ってるんだからそうかな。そうなんだろうか。

(もしそうなら、嬉しいです・・・)

日頃は特にお世話になっているから、間違っても邪魔に思われるような事だけは避けたかった。
喜んで貰えたなら本当に良かった。大したことは全然書いてないけど。

「それから、此方の都合で悪いが俺は大会が終わってから書くつもりでいたんだ。残暑見舞いになるから、もう少し待ってくれ。」
「えっ!?いえ、良いんですよそんな事!そういうつもりで書いたわけじゃ・・・」
「そうじゃない。元々俺も書くつもりだったんだ、別に貰ったから仕方なくと考えたわけじゃない。」
「ああ、それなら・・・あ、でも、」
「俺はそうでないとしても、もしかしたら誰かわざわざ返事を書くかもしれない。か?」
「はい・・・」
「そうだな、真田は俺と同じく残暑見舞いにするつもりがあったようだから、気にするな。仁王は書かないだろう。桑原と柳生は返事をするだろうな。あの2人は律儀だ。」
「えええええ・・・!」
「まあ、そんな大した手間でもない。それに、幸村も出しているんだから、お前一人のためにする事でもないんだ。あまり気に病むな。」
「それはそうですけど・・・」
「それから、丸井は五分五分といったところだな。基本的にやりたい事しかやらない性格だから、おそらくその時々の気分次第という事になる。」

他の者ならいざしらず、柳が五分五分というとそれは本当に限りなく50:50に近いのだろう。

そうか。五分五分か。

(・・・いえ、貰えなくて当たり前ですよね。そもそも皆、お忙しいでしょうから・・・)

テニス部ではないけどテニス部に近いビードロズは、夏のテニス部のスケジュールを知っている。ひいては、どれだけ多忙かも。
構ってもらえないからといって寂しく思える状況じゃないし、そもそもこうなると夏の前から分かっていたはず。

「・・・・・・」

寂しさが顔に出ている紫希に、柳は何も声をかけられないでいた。

というか、何を言ったところで紫希は遠慮して引っ込むに違いないのだ。
寂しいならそう言えばと勧めても、絶対に言わないだろう。

まあただ。丸井が出すにしろ、出さないにしろ。

「結局、どこかでは差し引きで+になるだろうな。」
「え?」
「ああ、すまない。こちらの話だ、忘れてくれ。」

最終的に丸井は多分上手くやってくれるだろう。
この前の夏祭りの時もそうだった。なんだかんだで丸く納めていたから、多分今回もきっとそうなる。

スケジュール的に厳しい事はわかっているが、丸井は運が良いからおそらくどこかで巻き返すだろうと柳は踏んだ。

この予想がアクロバティックな形で当たるのは、もう少し先の話。