Summer greetings - 7/7


夜。

Tシャツと短パンのパジャマスタイルで、自室に戻って丸井は長い溜息を吐いた。

「はー・・・」

帰宅したら待ち構えていた弟から遊んでと強請られ、夕食まで遊び通して食べ終わったらランニングして、帰ってきてシャワーを浴びて、今ようやっと落ち着いた。

隣室で母が弟2人の寝かしつけに難儀している声をBGMに、丸井はベッドに座って鞄から今日もらった暑中見舞いを出した。

「・・・・・・」

幸村の方は、貰った時表が見えていたからもうさっと目が通っていた。
夏休みに入っていよいよ大詰め、全国に向けて頑張ろうという事。それから、五十嵐から聞いてるけれど、あんまりアイスばっかり食べるのも良くないから気を付けてと書いてあった。
彼奴余計な事を。今度会った時に言っておかないと。

それから、もう一枚。
紫希からの分。


『お疲れ様です。暑い日が続く中忙しいと思いますが、体調は大丈夫ですか?
全国も近いですし、ささやかですが、もし私に出来ることがあれば何でもおっしゃって下さい。
今度のフェスには来てくださると聞いています。嬉しいです。私はステージに上がりませんけど、皆で精一杯頑張るので見ていて欲しいです。
私も全国には応援に行きます。どんなに暑くても必ず行きます。頑張ってください。』


敬語で暑中見舞いを書かれると、それこそ担任の先生か誰かから来たみたいに見えて、丸井はちょっと噴き出した。でも中身はいかにも紫希が言いそうな事だ。

比較的女子と関わる方とはいえ丸井も男子だから、あんまりこうして友達から小さいものでも手書きの手紙を貰うとかそういう事は少ない。
だから新鮮だ。まるで目の前で喋られてるかのよう。

「・・・さて、と?」

丸井は一度それを横に置いて、ベッドの上に放り投げていたコンビニの袋を手に取った。
そう。
実はさっき、ランニングの時にコンビニの前を通りがかって。

はずみで買っちゃったのだ。
暑中見舞い用のかもめーるのハガキ。

「何書くかなー。」

まあ絵柄は適当に印刷するとして。
まさかわざわざ買っておいて手書きメッセージ0も無いので、何かしら書こうとは思う。

思うけど。

(まあ、基本は返事なんだよな。前もって貰ってるわけだし、これにリアクションする感じで・・・)

そう例えば、幸村からは全国見据えて頑張ろうと言われたから、そっちもS1頑張れみたいな事を書いたり。アイスはほどほどにしとけと言われたから、美味しいもんだからついさあ、みたいな事を書きつつおすすめのアイスを書き添えておいたり。

これに倣って考えると。

(まあ先ずは体調の事言われてっから、元気だって書くだろい?それからまたお菓子作ってっていうのと、後はフェスと・・・全国・・・)

フェスと、全国。
いや、簡単だ返事なんて。フェスも行くからって書いて、全国も暑いと思うから気を付けて来いよ的な事を書いたら、それで終い。
そう、それで終いだ。立派な暑中見舞いが出来上がる。
                                       
出来上がる、けど。

「・・・・・・」


「にいちゃーん!」


はいはい、と言いつつ苦笑して丸井は立ち上がる。
扉を開けると、案の定寝かしつけられていない準太と、疲れた顔の母、直美。

「兄ちゃんと寝るって聞かないのよ・・・」
「お?よしよし!じゃあ一緒に寝るか!」
「やったー!」
「お願いね・・・あれ。暑中見舞いなんか書くの?珍しいわね、何時ぶり?」

丸井がベッドの上に暑中見舞いを散らばしているのを、直美は扉の向こうから見つけた。

「あ!そうそう、ちょっと聞きてえんだけど。」
「ん?」
「暑中見舞いって何書くもん?」

そう尋ねると、直美は丸井にそっくりなあっけらかんとした顔で笑って言った。

「いやねえ、何馬鹿な事聞いてるの?そんなの、相手に言いたいことを書いたら良いのよ。」

だよな。

丸井は内心で返事をした。
そう、自分もそう思う。実にそう思う。

「なあに、書くことが見つからないの?でも何かはあるでしょうよ、暑中見舞いを送るような相手なんだし。先生とかじゃないんでしょ?」
「ああ、違う違う。先生でもねえし、別に書く事見つからないとかそういうわけじゃねえんだけどさ。」

でも。
もし貰った文面に忠実に返事をしようとして、フェスがどうたら全国でなんたらみたいな話を書いたとしても、それは自分の言いたい事とは何かズレがある気がするのだ。
別にフェスや全国の話をしたくないとかそういうわけじゃないけど。

でも、もっと言いたい事は他の所にある気がする。

「ねえにいちゃーん!早くー!」
「よし、寝ような!兄ちゃんちょっとだけ片づけたらすぐ行くから待ってろい、な?」
「うん!」

こうして購入された暑中見舞いは、この日は何も書かれることなく引き出しに仕舞われる事になるのだった。