そんなわけで、可憐は休日に思いがけず水族館に行く事と相なった。
皆で・・・とは言いつつ何分急な事だったので、実際に声をかけて良いよ行けるよと返事をしたのは、後2人。忍足。それから宍戸。
「どの列でも良いので並んでくださーい!係員が、順番に再入場スタンプを押しまーす!」
入口ゲート前のスタッフに誘導されつつ、水の匂いを嗅ぐと俄然「水族館に来たのだ」感がして気分が上がってくる。
「わあ・・・中広いねっ!」
「そうね、それにやっぱり綺麗だわ♪あ、ロッカーもあるじゃない!ポーチ以外預けちゃおっかな?」
「芥川、中入ったら起きや。レポートの材料のうなるで。」
「zzz・・・・」
「はあ・・・」
宍戸は小さく溜息を吐いた。
「代わろか。」
「え?」
「疲れたんやろ。」
「い、いや!違う、そうじゃねえからな!大丈夫だ。」
「?そうなん。せやったらええねんけど。」
でもしんどかったら言いや。
と言う忍足に有難うと返事をしつつ、宍戸はまた内心で溜息を吐いた。
忍足は良い奴だと思う。
信頼できる友達だ。
・・・だから、今日は。
(どうにかして、忍足と網代を2人にしてやった方が良いんだよな?)
宍戸は頭がプレッシャーでぐるぐるしていた。
忍足は友達だから手伝ってやりたい気持ちは本物だけど、同じくらいこういうの苦手なのも本当なのだ。
宍戸の男らしい性格は、言い方を変えるとド直球のムーブ以外出来ないという事でもある。
向日が居ないというのも輪をかけて辛い・・・と思う宍戸だが、実を言うと向日は、行こうと頑張れば今日は来れた。
面子聞いて、うわ疲れそうと思ったから無理せずパスしたのだ。
手を貸せそうなら貸す。でも、無理してまでは手伝わない。
人の恋路なんて、手伝うとしてもその程度の嘴の突っ込み具合で良い・・・と向日なんかは思うのだが、宍戸はそういう匙加減がとても下手だ。
それこそ今だって向日がこの場にいたら、プレッシャー感じるくらいだったら断れば良かったんだよと言うだろう。
感じなくてもいい心労を感じている宍戸を他所に、可憐は今日は少し落ち着いていた。
というのも、可憐的には今日は「出来ることがあまりない」と踏んでいたからである。
先日沖縄に行った際、可憐は向日と宍戸と結託して忍足と網代を2人にした。
だが、あれはあくまで街の散策だから出来たことだと思う。
今回の水族館は、別行動しようとしても別行動に至る理由付けが難しいのだ。
遅れるから先に行っておいて戦法は、今回のように目的地が順路のある屋内の場合やり辛い。どこまでも広い町と違って、合流しようと思ったら簡単に出来てしまうから。
それから、そもそも論になるが芥川の存在。これが大きい。
基本眠っているこの男を水族館で連れまわそうと思うなら、おんぶできる男子が必要だからだ。
しかし仮に忍足と網代を切り離すと、宍戸が一人で全面的に芥川を引き受けなくてはいけなくなってしまう。それは流石に、恋路の手伝い以前に色々と辛い・・・と、可憐も宍戸も思っているし、忍足も多分そう思うだろう。
だもんで、可憐は今日はそんなに手伝えないと頭から思っていたし、それ故にとても気楽だった。
要は、普通に友達皆で水族館に来ただけなんだから。
「スタンプ、どこに押しますかー?」
「あ、ええとじゃあ手の甲でっ!」
「はい・・・はい!じゃあこれでオッケーです、行ってらっしゃーい!」
可憐は気負いなく、笑顔で行ってきますと返事をした。