その少し前、宍戸と網代はまだ水槽のブースに居て件のオオサンショウウオを見ていた。
「そろそろだけど、あいつ等戻って来れんのか?」
「大丈夫じゃない?侑士君も居るし、トラブルがなければ戻って来られるわよ。」
「トラブルがなければ・・・?」
「あ!やだ、こういうのをフラグって言うんだわ。」
いけないいけない、と言いながら網代はカラカラと笑った。
「・・・・・・・」
「?なあに?」
「あ、いや・・・」
宍戸が今持ってる情報は、忍足が網代を好きであるらしい、という事だけ。
網代側の情報は一切持っていない。
だからこういう時、宍戸はつい忍足の側に立って要らない気を使ってしまうのだ。
網代は忍足が居なくて全然気にしてないのかな、とか。
今完全に別行動してるけど、何とも思ってないのかな、とか。
(まあ別行動っつっても、もう合流するくらいのちょっとの間だしな・・・)
「ご来場の皆さんにお知らせしまーす!間もなく、イルカショーを開催しまーす!順に並んで、押さずに通路をお通りくださーい!」
「あ、開いたわね?」
「あいつらどの辺だ?今の内に一応、時間だぞって、連絡・・・」
宍戸がLINEを開いた時、忍足から着信が入った。
『・・・・は?』
「せやから、逆走出来へんねんて。」
『なんでだよ?』
「混雑緩和らしいわ。」
『・・・・おい、じゃあまさか、』
「戻られへんさかい、イルカショー2人だけで見てくれへん?」
可憐はぐったり疲れた笑いを浮かべた。
多分宍戸は内心で、怒ってはいなくても呆れてるだろう。
何やってるんだよ何を!と思われてるに違いない。自分でもそう思う。
いやでも、しょうがなくないか。
まさか施設内で順路逆走禁止なんて、今までそんな事言われた事なかったのに。
「ねーねー、桐生ちゃん!ほら、コウテイペンギンだってさ~!」
「ああ・・・うん・・・」
「あれ?桐生ちゃん、どーしたの?疲れてる?」
「うん・・・体力的には大丈夫だけど、ちょっと心理的に・・・」
「?ふーん?」
芥川にはわかるまい。事情を知らないんだから。
いや、芥川の場合事情を知ってたとしても、この場面で気に病むかどうか。やっちゃったな~、で流すかもしれない。そっちのがありそう。
「あ!」
「?」
「もしかして、桐生ちゃんイルカ好き?イルカショー見たかったの?」
「えっ?」
「そっか~、残念だったね。あ!でも、お土産屋さんとかにもイルカは居るんじゃないかな~?」
「あ、い、いやそのっ、」
「あ!見て見て桐生ちゃん、ほら!こっちからでもイルカのとこ見られるって!良かったC!俺もちょっとイルカ見たかったからさ~!」
「あの・・・・」
聞いてねえや、という気持ちと。
それからここまで明るく居られると、なんだか考える気が失せてきて逆に楽になってくる気持ちと。
「あ、忍足君!電話終わったっ?」
「ああ、言うといたで。あっちはあっちで、2人でイルカショー見てくるて。」
「ねーねー!忍足もイルカ好き?」
「イルカ・・・まあ、嫌いやないで。普通に好きやわ。」
「そっか~。じゃ、忍足もイルカショー見られなくて残念だったね~。」
忍足はそう言われて目を丸くした。
残念。
イルカショー見られなくて。
「・・・まあ、見られるもんやったら見たかったけど、どうしても見たかったいうわけでも。」
「A?そーなの?」
「ごめんね忍足君・・・」
「いや、ペンギン先行こ言うたんも俺やさかい。というか、遊びに来てショーが見られへんかったとかお土産買われへんかったとか、そういう事はある程度はある事やから。そない気にせえへんで、こっちはこっちで楽しんでたらええと思うで。」
「だよね~!折角来たんだC!」
「芥川はそう思うんやったらもうちょっと起きときいな。」
「あ、あはは・・・恥ずかC!」
「楽しむ・・・でも、」
良いんだろうか。
楽しむといって、自分や芥川は良いかもしれないけど、忍足は今網代と一緒にも居られていない。
というか、網代は網代で他の男子(とはいっても友人である宍戸ではあるけど)と一緒なんだし、忍足的には考えうる限りのケースでも結構悪い方を今引いてしまってるのではと思うんだけど。
(・・・とか思ってそうやな。)
忍足は苦笑した。
まあ、可憐がそう思うのもこの場合無理はないけれど。
「大丈夫やって。これでもちゃんと楽しんでんねんで。」
「けどーーーー」
「前も言うたけど、俺四六時中そういう事で頭パンパンなわけやあらへんで。そういうのん苦手やし。」
(忍足君・・・)
確かに前にも、網代は好きだがその事ばっかり考えたり他の事はどうなっても良いなんてそんな事は思わないと言っていた。
「?ねえねえ、さっきから2人とも何の話してるの?そういう事って何?」
「茉奈花ちゃんとか宍戸と一緒に居られへんのが寂しいんちゃうか、て心配してくれてんねん。せやからそんな事あらへんていう話や。」
「へー!変な桐生ちゃん。」
「変っ!?」
「A?だってさ~。
桐生ちゃんも俺も居るんだし、寂しいなんて事なくない?」
芥川は、本気で素直にそう思って言った。
だって、皆友達だもん。
そりゃあ4人と1人に別れてしまったら流石に1人の方は寂しいかもしれないけど、そうでないのならどういう人数比で誰と一緒になったって、普通に楽しく過ごせると思う。
芥川には可憐の危惧がわからない。
本気でわからない。
忍足が自分達とあっちの2人とを引き比べて、あっちが良かったのになんて思うわけがないと本気で考えている。
「ね!忍足もそうでしょ?」
「せやで。」
「ほら、そうだって!」
そう言う2人から笑いかけられると、可憐としてはもう納得するしかない。
「ね!よし、じゃあ次行こ次!あ!あっちクラゲだって~。」
「待った。クラゲは辞めとき、あっち先見よ。」
「えっ?どうしてっ?」
「今暗い所戻ったらもう一回寝るやろ。」
「あ~、そうかも!」
「芥川君・・・・!」