明るい空の下、暑いながらも日の差さない屋根の下で、宍戸は網代と並んでイルカショーを見ていた。
「皆さん、こんにちはー!」
「こんにちはー♪あら?宍戸君、こういうの挨拶返さないタイプ?」
「え?ああ・・・・まあ・・・」
「ふうん、そうなんだ。」
ステージでは調教師のお兄さんが開幕の挨拶をしているが、正直宍戸としてはとてもイルカに集中する気分じゃない。
「それでは、今日皆に素敵なショーを見せてくれるイルカさん達の紹介でーす!先ずはー・・・」
「・・・なあ。」
「ん?なあに?」
「・・・・・」
「宍戸君?」
忍足を行かせて良かったのか。
と、宍戸は聞きたかったが踏みとどまった。
だって、網代が何も思ってない可能性もあるわけだし。もしそうなら、良かったのかと聞かれても、良いも何も別にとしか網代も答えられないだろう。
(・・・つうか、そもそも網代って・・・)
「・・・お前ってよ。」
「はい、なあに?」
「誰か好きな奴居るのか?」
網代は目を丸くした。
恥ずかしいとかというより、心底びっくりした顔だったし、事実網代この時心が驚き一色で染まり切っていた。
一方、宍戸は言ってしまった後で焦りだした。
そもそも網代に忍足以外の好きな男子とかが居たら余計なお世話でしかないと思い、純粋に確認を取りたかっただけなのだが、言った後でこれだと自分が網代を好きみたいにしか聞こえない事に気づいたのだ。
搦手が苦手で真っすぐな性格ならではのミス。
「・・・ごめんなさい、あの。それは・・・」
「ち、違う!違うからな!俺がお前のこと好きみたいに聞こえるだろうけど、絶対違うからな!」
「・・・そう。違うの。そうなのね?」
「そう!ああくそ、激ダサだぜ・・・!」
もう激ダサというのも温いくらいのダサさ。穴があったら入りたい。
真っ赤になって俯く宍戸の隣で、網代はほっと息を吐いた。
ああ良かった。怖かった。
「・・・ん?」
宍戸はまだほんのり赤い顔を上げた。
「なあ、今何か言ったか?」
「え?」
「気のせいか・・・?何か、怖かった、とか聞こえた気がするんだけどよ。」
「・・・・えー?私何も言ってないわよ?空耳じゃない?」
「そうか?」
「多分そうよ。それよりほら、ショーの方を見ましょ?今からジャンプよ、ジャンプ!」
なんて言って前方を指さす網代に、宍戸はやや釈然としないながらも意識が段々逸れ出した。
(まあ確かに、今の状況で「怖い」って出てくる理由がねえからな。)
仮に自分から言い寄られたんだと勘違いされたとして、それが嫌であったとしても、普通は「嘘でしょ」とか「嫌」とかそういう言葉になる筈だ。「怖い」は意味がわからない。
じゃあやっぱり自分の気のせいか。
そう納得して、すっかりリサーチする気が失せた宍戸は今度こそ集中してイルカショーを見始めた。
「・・・・・」
網代は横目で宍戸を伺った。
前を向くその眼にはもうショーしか写っていない。
宍戸はそういうタイプだ。考えてることは顔に出るし態度に出る。
誤魔化さないし嘘も言わない・・・というより、誤魔化せないし嘘もつけない。
そうした方が良い状況になってもそれが出来ない典型的なタイプ。
これは頭が悪いとか馬鹿だとかいうよりも、単純に心根の問題。
相手に対して真摯であるべきという性格からそうなってしまうのだ。
網代はそれを知っている。
好きとか嫌いとかじゃなくて、友達としての理解からそれを良く知っている。
知っているから、怖い。
(・・・本当に良かった、私が好きとかそんなんじゃなくて。)
網代は宍戸の事は基本的に好きである。
とても良い友人だと思うし、これからもずっと友達付き合いしていきたいと思っている。
でも。
恋愛対象としての宍戸は、凄く凄く大嫌いだった。