「ふっふふーん、ふーん♪」
大の男にして鼻歌を歌うのは黒崎雄一。
千百合と棗の親であり、同時に写真家でもある彼は、珍しく業務が早く終わりそうでご機嫌さんなのだ。
「・・・よし!じゃあ編集長、今日はこれで!」
「おう、お疲れさーーー「あ、待って黒崎~。」
待ったをかけたのは彼の取引先の上司。
「何です?」
「いや、ひっじょーーーに言いにくいんだけどさー。」
「?」
「・・・わり!先方がどーしてもって言うんで、来週からのロケ有り撮影、お前を寄越すって事になっちった♡」
「・・・・は?」
こういうことは今に始まった話ではない。
とは言いつつ他の日に代休はちゃんと貰うし、職業柄こういう飛び入りは避けられないので、なんだかんだマジかよしゃあないなあ・・・で済ますことが多いのだが。
だが。
「・・・・待ってくださいよ、無理ですよ!無理無理無理!」
「え、嘘、」
「無理ですって!それは本当に無理なんです!言ったでしょ、俺来週から子供とその友達連れて旅行行くんですよ!合宿!バンド合宿!親の付き添い!」
「えええええ!?」
「えええじゃないんですよ、どうしてくれるんですか!」
ただの休みじゃない。動かせない休みなのだ。
だから懇々と今回の休みはちゃんとくれと言っておいたのに、こいつと来たらまた右耳から入れて脳を通さずに左耳から出したのだろう。
「中学生ですから保護者居ないとダメなんですよ!あああどうしよう、今から他の人に休み取ってくれなんて・・・純子は遠出させられないし・・・」
「え~・・・まあほら、そこをなんとか、」
「うるせえ!」
「うるせえ!?お前クライアントに向かって・・・ねえ編集長!」
「いや、今のは君が悪いよ。」
「え~!?」
「あのー。」
「へ?」
「俺が行きましょっか?」
向こうのデスクにいた青年が軽く片手を上げた。
「行くって・・・」
「いやまあ、信用っていう意味では無理にとは言いませんけど。カメラは腕があるから変われませんけど、保護者を変わりましょうかって事で。俺ちょくちょく話聞いてましたけど、合宿の監督でしょ?別に連れまわして楽しませろとかじゃなくて、危ない目に遭わないように見て、大人の手がいるときにだけ助けてみたいな感じなら出来ますよ。」
「ああそうか。君も休み取ってたっけ。」
「そうなんです、大学の友達と旅行行こうかって話してて。どうせ方向同じですし。」
「いやでも、そっちも旅行が目的じゃ・・・」
「いや、良いんですよ。後2人連れていきますけど、どーせ二人とも酒ばっかり飲んでろくに観光しないんだし。」
「う・・・それなら・・・いやでも、女の子が多いし、」
「1人は女ですよ。それでも心配だったら、朝昼晩と1回づつ子供だけで連絡させます。」
「・・・・・・」
「どうです?」
雄一が首を縦に振るのに、そう時間はかからなかった。
一方その頃。
湘南の一角のある家で、電話が鳴った。
ブー!ブー!
「はいはい・・・?誰の電話だ?」
知らん番号である。
いや、見覚えがある気もするけど。
「もしもし、佐川ですけど。」
『もしもし。そちら、立海大付属中等部、男子テニス部代表の佐川様でよろしかったでしょうか?』
「はい、そうですけど・・・」
『私、住良木旅館の者ですけれども。申し訳ありません、連絡がございまして・・・』
「・・・・え。」