ホテルで変装(棗も鬘を被って軽く着替えた)をした後、車に戻る。
後部座席には楽器がそのまま置いてあるので、そのまま発車して車で15分程の借りてあるホールに移動だ。
「しかし外は暑そうね~!もう嫌だわ、見るのも嫌。」
「あれ?ひたきおねーちゃんお外嫌い?紀伊梨ちゃんは好きなんだけどなー。」
「若いわね~。おばさんはもう駄目だわそういうの・・・って!誰がおばさんよ!」
「言うてませんやんw」
「でも、こんな暑い中テニス部の皆は練習してるんですよね・・・」
「マジでよくやるわ、信じらんない。」
「お。噂をすれば。」
「え?」
「ほら、見えない?あれ立海テニス部ではw」
「あー!本当だ、あの黄色ジャージ!」
「え、どこどこー!?」
「危ないから身を乗り出さないでw大丈夫だよ、丁度信号で止まるから・・・っと。」
そもそもテニス部にしろビードロズにしろ、宿から欲しい施設がほど近いという事で宿を決めたので、普通に用事のある所を行き来するだけですれ違いがちになる。
今だって、ホールへ向かう途中でうっかりテニスコートの隣接道路を通ったり。
そして停車したり。
「おー・・・はっ!もしかして見つかる!?蹲った方が良い!?」
「大丈夫よ紀伊梨ちゃん!車っていうのはね、中から外のことはよく見えるけど、意外と外から中をじろじろ伺う人は居ないものよ!」
「おー!なーんだ、じゃあ大丈夫ですな!」
「ほ、本当に大丈夫でしょうか・・・?」
「まあ、向こうも中に知り合いが居るとは思ってないから良いんじゃないの。」
止まっているのを良いことに、一同は車中からテニスコートを見る。
流石に距離とか位置の関係もあって、数人しかまともに見られないけれど。
「おー・・・」
「皆真剣ですね。凄く気合が入ってるというか・・・」
「勝ってるんだからちょっとくらい緩んでも良いと思うけどね。」
でも、それはしない。
勝ったから練習に手を抜くとか、立海テニス部はそういうのが大嫌いなことを4人は部員じゃなくても知っていた。
「いやあ青春だね!」
「もう真似は出来んなあ、こんな鈍った体じゃ・・・あ。発進しますよ皆さーん。」
「「「「「はーい。」」」」」
「ちょっと待って、まだゆっきー達見れてないー!」
「見られるって限ったわけじゃないんだよ、諦めろw」
「えー!」
「あのね、そもそもあんまり見ちゃいけないんだって。」
「会いたいのは山々ですけど、頑張りましょう?お互いのために良くないですから、特に部活中は・・・」
「うー・・・」
「はい進みますー。」
ぶろろん、と音を立てて全員を乗せた車は走り去った。
その頃練習場の片隅で、丁度小休止していた幸村はタオルで汗を拭いながら道路の方を見つめていた。
「・・・・・・」
「なあ、幸村君・・・って、後にする?」
「聞いてるよ丸井、なんだい?」
「お。いや、大した事じゃねえんだけど、明日のストローク良かったらペア組んで貰えねえかと思って。」
「ああ、構わないよ。午前と午後どっちが良い?」
「じゃあ午前で。」
「わかった。明日はよろしく。」
「おう、シクヨロ。で?」
「うん?」
「外見てたけど、何かあんの?」
「・・・いや、何でもないよ。後で時間があれば、コンビニでも行こうかなと思っていただけで。」
「お!良いな、俺も何か買いに行きてえ!」
「ふふっ!夕食の後は自由だからね。」
いかにストイックな立海の合宿といえど、流石に泊りがけで自由時間0というわけではない。長いとは言えないが、フリータイムはちゃんと用意されている。
ただ、これが吉と出るか凶と出るかは幸村にもわからなかった。結局のところビードロズだって外出はするだろうし夜は普通にホテルで寝るだろう。行動スケジュールが土台似通っているので、蓋を開けてみないと結果が出ないのだ。
「そうだ、丸井。話が変わるんだけど、少し聞きたいんだ。良いかな?」
「俺に?何?」
「もし、ビードロズの4人を喜ばせてあげてと言われたら、丸井ならどうする?」
丸井は目を丸くした。
「あいつら?を、喜ばせる?」
「そう。」
「それって4人一度にって感じ?それともバラバラ?」
「何でも良いよ。取りあえずアイディアが欲しいんだ。精査とか取捨選択はおいおいで。」
「何で急に?」
「・・・まあそうだね、強いて言うならお詫びかな。スケジュール的に、思いがけず寂しい思いをさせてしまう事になったから。」
「ふうん。じゃ、あんまり金かかるのとかはNGって感じ?」
「うん。あんまりお金がかかるのは、非常識になってしまうし。」
「んー、俺なら食い放題とかって思ったんだけど、金額的に無理あるしな。」
「・・・いや。」
「え?」
「食事を4人に奢るくらいなら・・・」
「マジ!?4人分だぜ4人分!幸村君も一緒に行ったら5人分になるだろい、厳しくねえ?」
「いや、実は俺一人が払うわけじゃないんだ。真田と柳も、もしお金がいるなら幾らか出すって言ってくれてる。スケジュールを決めたのに一枚噛んでいるからね。」
「ああ、そういう・・・確かに、3人で7人分払うなら一人頭2人分ちょいになるから、いけそうだな。」
幸村は教えないがもっと言うと、実は部長の佐川と副部長の東雲も、費用が居るならポケマネからちょっと出すと言ってくれている。
佐川は宿借りれないよの一報を聞いて、動転して直ぐ副部長である東雲とデータマンの柳に相談して、宿をさっと決めてしまったので、ブッキングに責任を感じているのだ。柳を当てにしがちな話題とはいえ、先に幸村に聞いておけば避けられたかもしれなかったのに。
とはいえ、別にビードロズ側に気を使って貰わなくても、お互い普通にしていれば・・・とかそんな悠長なこと言ってられないのは佐川も東雲も柳も分かっている。
こう言うのも手前みそだが、立海テニス部は今や全校生徒の注目の的になりつつある。でも、目立つのはトラブルの種にもなるのだ。
特に幸村は目立ちますからね、という柳に対して、お前も大概だぞと佐川と東雲が苦笑したのは少し前の話。
「だから、あまり高額なのはなんだけど多少高いくらいなら平気だよ。食事に連れていくか・・・」
「ま、今のは俺がされたら嬉しいって事で。後はそうだなー、1人1人バラバラでも良いっていうんなら、それぞれにプレゼントとか?まあそういうのより、単純に全員でどっか遊びに行くのが一番喜びそうな気もすっけど。」
「時間がね。ある意味お金よりも捻出が厳しいよ。」
「だよなあ。本人に聞くってのは?」
「それは最終手段かな。基本的にこっちに非があってのお詫びだから、本人に選ぶ手間を取らせるのもね。」
「ふうん・・・」
「ああ、もう休憩も終わりだね。そろそろ行こうか。」
幸村は、何とか嘘を言うことなく話を終えた。
元より嘘が嫌いなのもあるが、こういう時は嘘を言うより本当のことを言わない方がボロが出にくい。
それでも少々不自然な所はあったかもしれないが、まあ少々程度なら丸井は気にすまい。という幸村の見解通り、丸井はちょっとだけ覚えた違和感を無視した。まあよくわからないが、幸村が詫びたいと言うなら好きにすれば良いと思う。
(お詫びねえ。黒崎はデートの方が喜ぶかもしんねえけど、それだと他の3人には別な何かをって事になるし。寂しいことへのお詫びっていうんなら、難しいけどやっぱ時間の捻出の方が良いような気するんだよなー。)
とはいえ、その時間の捻出が難しいのだということは丸井にもわかっている。
ある意味お金より難しいという幸村の言葉はとても正しい。
「・・・ちょっとで良いんだけどな。」
もし自分が詫びられる立場ならと考えて、丸井はそう思った。
別に何も、丸一日遊んでくれなくたって良い。半日。いや、数時間だけでも良いから、会えたらそれで良いんじゃないだろうか。
少なくとも自分なら嬉しい。0より絶対良いじゃん。
そう考える丸井の脳裏には今一人の女の子しか過ってないのだが、丸井は気が付かなかった。