Training camp – in Irupinet Hotel -:Disuguise 1 - 4/5


借りた部屋に到着して楽器を運び、セットが終わると後は練習。
当然だ、その為に来たんだから。

取りあえず一回通しでということで、3人は演奏をしてみた。

「どお?どお?」

「いや良いんじゃ「おいクソ兄貴、走ってんじゃねえ。」
「ごめんなさいー!ぶっちゃけ苦手ー!この曲調苦手ー!」
「えー?良い感じだったと思うけどなー?」
「紀伊梨も走ってんの。まあドラムがそもそも走ってるから引きずってる所あるけど。」
「そこまでー?紫希ぴょんどーお?」
「そうですね・・・私は、走ってる事そのものより、Cメロ直前で急に元に戻るのが気になります。走ってしまうなら、開き直って走りっぱなしの方が纏まりとしては良いのでは・・・」
「おい。」
「もめんなない・・・」

「いやでも十分「それはそれとして千百合ちゃん、なんだかサビの部分が弾きにくそうですけれど大丈夫ですか?お怪我とか・・・」
「え!?千百合っち怪我してるの!?」
「してない。大丈夫、ちょっと新しい弾き方してるだけだから。一条先輩に習ったやつ。」
「でも今からそれして間に合うわけ?ぶっちゃけお前今そこそこもたついてるぞ。」
「間に合わす。」

「そんなに「それと俺気になったんだけどさ、2番の出だしがどうも気に入らないんだよね。編曲の時も悩んだんだけど、ここの音無い方が良くね?」
「あ、それは私も思ってた。無くす?」
「えー、紀伊梨ちゃんはあった方が好きー!ここがあった方がさ、こう、ダダーン!って感じするっしょ?」
「まあ今からなくすってなると歌詞の都合もあるしね。」
「それは気にしないでください。やっぱり曲調に違和感がないのが優先ですから、無いなら無いでどうにか変えてみます。」


「・・・どうしましょう、思いのほか本格的でびっくりだわ。」
「うん、口が挟めないなこれは!」
「俺達素人だからねw」


なんとなく成り行きで見ていた大人勢は、言っちゃなんだが無意識のどこかで「たかだか中学生のバンド」と思っていた。
だから高校生レベルの完成度には既になっている事に大層驚いた。少なくとも自分たちが中学生の時、同い年のバンドでここまでやれてるグループは見たことがない。
もう十分聞けるレベルだし全然良いじゃないか、何をそんなに直す所があるんだ、と思う3人の目の前でビードロズ達は粛々と作業をしている。

「・・・じゃあ、一曲目の見直しはこのくらいで。」
「うんうん!じゃー次の曲いっきまーす!」
「あんたらも見てるだけじゃなくてどうせなら何か言ってくんない?」
「遠慮なくどうぞですwここ聞き苦しいとか、もっとこうしたらとかwご希望に添えるかはわからないけど。」
「いや全然良いと思うよ!何も注文とか思いつかないよ!」
「凄いじゃないの!こう言っちゃなんだけど、普通中学生のバンドってもっとガタガタなもんよ?」
「皆あれなの?昔から楽器とかやってた感じなの?」
「うーうん!しょーっがっこー2年生の時から!」
「此奴がバンドやりたいって言い始めましてwそれでまあ成り行きでw」
「成り行きでここまで出来るもの?」
「最初は確かに成り行きでしたけど、楽しいですから・・・」
「楽しいとある程度出来るようになるもんでしょ。好きこそなんとやらって奴。」
「ふうん・・・

・・・ねえ、それって幸村君も?」

ピク、と千百合は片眉を歪めた。

「お前またそんな自分の飯の種をさー!」
「良いじゃないのよ!これはちゃんとした取材よ取材!」
「ちゃんとしたって事はいつもは「小口君はいちいち細かいのよ!良いでしょこの位は!」
「いやでも、あいつこそその典型っしょw」
「ゆっきーテニス大好きだよねー!うーんとちっちゃい頃からだし!」
「おはようからおやすみまでテニス、っていう感じですものね。」

「どうかな。」

「「「「「「え?」」」」」」

思いの外静かな声音の千百合に、皆そっちを向いた。

「え、そうっしょー?だってさ、毎日あんなにテニステニスってーー」
「いや、テニスで頭パンパンっていうのはその通りと思うよ。真剣だし。でも、好きか楽しいかって言われると・・・」
「・・・違う、って感じるの?千百合ちゃんは?」
「うん。何か、じゃあ何って言われるとわかんないし、全然好きじゃないのかとか楽しくないのかとか言われたら、それも違う気もするんだけど。紫希さ、一学期の時柳に会った時の事覚えてる?」
「え?ええと・・・確か廊下でばったり会って・・・」
「そ。その時さ、好きこそものの上手なれって言ってたでしょ?あの時からちょくちょく考えるようになったんだよね。精市ってテニス楽しいのかなって。」

好きこそものの上手なれというのは、例えば千百合にとっては紀伊梨が正にその体現者。
上手くなろうとわざわざ思わなくても、楽しくて楽しくてやってる内に勝手に伸びているような、そんなイメージ。
それに加えると立海テニス部は、楽しくてと言う響きにそぐわない鬼気迫るような迫力があると思う。
義務とか使命感とかそういうのともちょっとニュアンスがずれるような。

そう。敢えて言うなら。


「・・・勝ちへの、執着、的な・・・」


小鳥遊はそれを聞いて、あー、と声を出した。

「まあ彼も、女の子のような顔とはいえれっきとした男子ですものねー。」
「ゆっきーって負けず嫌いだよねー!」
「普段は特別そうでもないですけれど、やっぱりテニスとなると話が違いますよね。」
「特にスポーツの世界はなwプライドのぶつかりあいみたいな所あるじゃん?」
「まあ初めは混じりっ気なしの純粋な楽しさだったとしてもねw」
「うむ!男たるもの、勝敗のつくことに対して、勝ちたいなーって思うのはある種当然なんだよ!な、少年・・・じゃないや、少女!」

ぽん、と塩飽から肩を軽く叩かれる千百合。

負けず嫌い。
プライドのぶつかり合い。
勝敗には勝ちたいもの。

そういうと、凄く普通の事に聞こえるが。

(・・・そうかな。)

どうも、幸村のそれは人より数段上の方に思えるのだが。
気のせいなんだろうか。自分は腐っても女子だし、別に誰かと競る世界に身を置いてるわけでもないから、わからないだけ?

「まあその辺の話は後にして、2曲目いきやしょーぜw」
「あ、はーい!紀伊梨ちゃんこれ好きなんだよねー!1曲目も好きだけどー!」
「走るな、引っ掛けるだろ。」
「紀伊梨ちゃん、転ぶと危ないですよ!」

音響が肝のホール。
冷房の効いた窓のない部屋で、ビードロズはまた音楽を奏でる。