さて、向こうの3人。
やっとゼリーを食べ終える幸村。
を、見ている千百合。
を、更に見ている真田。
「はあ・・・御馳走様でした、千百合。」
「ん・・・」
「美味しかったよ。」
「・・・そう。」
「又作ってくれる?」
「・・・気が向いたらね。」
真っ赤な顔をしてふいっと目を逸らす千百合。
可愛い。
一挙一動がいちいち可愛い。
「じゃあ、はい。」
「・・・何よ。」
「カップ。千百合の分も持って行くから、貸して。」
「良いわよ。自分で・・・」
「まあまあ。待ってる人が居るから。ね?」
「待ってる・・・?」
幸村が指差した方向。
「真田・・・」
「貸して、弦一郎。それも俺が持って行くよ。」
「む?い、いや、自分で、」
「良いから。それより、なるべく早めに俺の彼女を返してくれると助かるな。」
「・・・そうだな。礼を言う。」
「ふふ。礼には及ばん!・・・なんてね?」
悪戯っぽく笑って、3人分の空容器を持って行く幸村。
千百合は真田の発言を待った。
何か言いたい事があるのだろう。
それがなんなのかは分からないけれど、今は真田を相手にかつてないくらい心が落ち着いている。
「黒崎千百合。」
「うん。」
真田はゆっくり息を吐いた。
「・・・悪かった。」
言った。
とうとう言った。
「どれに対して?」
「それは色々だが・・・まず、小さい事から上げるに、俺は努力を怠った。」
「努力・・・?」
「ああ。お前と関わり合う努力だ。」
紀伊梨に怠けていると言われ。
ゼリーの手を借りて会話してみて思った事。
「はっきり言おう。俺はお前と認め合う気などなかった。正確に言うと、そんな事は出来ない、と決めつけていた。」
「・・・・・・」
「五十嵐から言われた後も、俺は半信半疑だった。相容れられん事を確認するだけに過ぎない・・・そう思っていた。」
「さっきまででしょ。」
「ああ。」
今は違う。
もう認め合えないなんて思わない。
相容れられないなんて感じない。
「次だが・・・俺はお前が何を考えているのか分からなかった。」
「うん。」
「薄々だが、俺とお前は似ているのではないかと思っていた。」
「そうね。それは私もそう。」
「やはりか。だが、お前は何時も何処かで、俺ならば絶対にしない判断をしていた。
俺はお前のそういう所が気に障って仕方がなかった。
今迄会ったどんな人間よりも、お前は俺に近いと感じた事が何度もある。
それなのに、思い出したように真逆の事をされる。
その度に、お前という奴がどんな人間なのか分からなくなった。」
「・・・そりゃあそうよ。」
さもありなん、である。千百合からすると。
「む?」
「後で言うから、先に続けて。」
「そうか。話を戻すがしかし、今となってはそんな事は関係なかったのだ。お前が俺に似ていようが居まいが、お前を認めない理由になどならん。」
似ているからぶつかるのかもしれない。
似ていないから分からないのかもしれない。
でも似ているとか似ていないとか、そんなの後付だった。
本当は。
本当は。
「それから・・・俺の一番大きな過ちは・・・」
千百合は真田が何を言うか、なんとなく分かっていた。
だって、自分も多分同じ事を思っていたから。
「・・・俺は、怖かった。何時の日か、お前が幸村を、俺の手の届かない所へ連れて行ってしまう気がした。」
真田の言葉が。
渦を巻いて千百合の心に広がっていく。
そう。
そう。
自分だってずっと。
「・・・幸村がお前に話したかどうかは知らないが、俺達は約束した。必ず天下をーーー日本の頂点の栄光を、立海にと。その為に、幸村の存在は必要なのだ。だが、幸村の傍には何時も・・・」
「・・・私が居るでしょ。」
知ってる。
分かってる。
形は違えど、自分にとって一番なくてはならない存在の傍らに、自分の知らないその人を知っている者が佇んでいる、なんとも言えない感覚。
「今迄は、俺達は居る場所そのものが違っていた。俺はスクールで、お前は学校だった。だから、お前の事を気にしない様にしようとしたら、それが出来ていた。」
「でも、出来なくなった。」
「そうだ。」
同じ学校どころか、同じクラスになってしまった。
間に幸村が居ない状態で。
「いきなりそんな状況でお前と関われと言われても、俺には出来なかった。いや、する気もなかった。だからお前に対して俺は必要以上に情の無い対応をしてしまった。」
「・・・で、一度それをやると、次からは態度を変えるわけにいかなくなるのよね。」
「矢張りお前は俺の発想が良く分かるようだな。その通りだ。一度した事を軽々しく翻すものではない。それは俺にとって間違った事だからだ。
だが・・・確かに態度というのは変える物ではないが、そもそもの考えが間違っていると、それにつれて行動も間違ってしまう。俺は初手を誤った。そして誤ったまま、今日まで過ごしてしまった。」
謝るくらいなら最初からするな。
撤回するくらいなら最初から言うな。
真田の基本スタンスである、鋼鉄のように固い一本気な性格は、時にこういう袋小路に真田自身を迷い込ませてしまう。
千百合のように、バシバシ言い返してくる相手には特に。
「誓って言う。これは俺の身勝手な恐怖心が招いた事だ。お前が居るから悪影響がなどとは、一切言うつもりはーーー」
「私も同じ。」
「・・・なんだと?」
千百合は深呼吸を一つした。
「・・・あのね、真田。あんたのその、頭の固すぎる所とか、融通効きにくい所とか。予想外の事が起こると上手く考えられない所とか、私とそっくり。」
似ているなんて分かっていた。
「でもね。言っておくけど私、そういう自分が好きじゃないの。」
「・・・そうなのか?」
「そうなの。良くない事だと思ってるし、直そう直そうと思って今でも頑張ってるし。」
だから。
「だから私、あんたの事大嫌いだったわ。」
「・・・それは、俺が間違った事をしてるように見えるから、という事か?」
「それもあるし、あんた自身がそれを直そうとしてないじゃない。正論はいつだって通されるべきだし、それに異を唱える奴は間違った奴なんだ、で片付けて。
それなのに精市の1番近くに居るとか、すんごく苛々するのよ。」
真田は天を仰ぎたくなった。
なんてこったい。
真逆お互い嫌いあってた理由まで似てるとは。
「だから言ってるじゃない、私も同じだって。」
不安だ。怖い。
自分の知ってる幸村が、自分の知らない所で、自分じゃない誰かの存在の所為で変わってしまったら。
そしたら、どうしたら良い。途方に暮れてしまう。そんな怖い事考えたくない。
「そういう意味か・・・」
「そう。でも今は、ちょっと考えが変わってるから。」
「む?」
「あんたはそのままで居たら良いと思う。」
これは皮肉でも嫌味でも諦念でもなんでもない。
本当にそう思っている。
「だが、」
「似てるだけよ、私達。同じじゃあないから。だから私は私の性格直さないとなって思うけど、あんたは多分そのままでも良いの。」
千百合が自分を変えたいと思うのは、変わらない自分は自分のなりたい自分じゃないから。
そういう自分に魅力を感じないから。
だから同じように、真田は甘えてるのだと思ってた。
これが自分の性格だからという言い訳を印籠のように振りかざして、開き直ったようなその態度が気に入らなかった。
本当は良くないって思ってるくせに、変わる事を諦めているのだと思っていた。
でも、そうじゃないのなら。
今の真田が、本当に真田自身がなりたい真田の姿なら。
これから先、その性格が裏目に出てもそれでも尚曲げたくないと言うのなら、自分はそれで良い。
「だから別に、合わせろとか変われとか言う気はないわよ。」
「むう・・・」
「その代わり、私も合わせないし変えないからね。当分、あんたの言う「良くわからない意味不明な女子」のままで居るから、覚悟しときなさい。」
「・・・分かった。腹を括ろう。」
「そうして。私も頑張るから。」
まだまだ、お互い鼻につく所が山程ある。
これから先も「何だ此奴」と思いながら過ごすのだろう。
でも良い。
それで良い。
多分、自分達はそうやって一緒にやっていくのだ。
「取り敢えず、私も突っかかり気味だったのは謝るわ。ごめん。」
「いや・・・」
「でも紫希を起こそうとした事とかは私が正しいからね。」
「な!」
「あったり前でしょ、あれは謝らないわよ。」
「なんだと!」
「後こないだの歴史の授業の時、新海先生に突っ込み過ぎた事も。」
「あれは俺が悪いわけではないだろう!ただ質問をしただけだ!」
「あんなマニアな事、幾ら社会の先生でも知らないわよ。」
「たるんどる!社会科教師として生徒の質問に答えられないようでは・・・!」
「はいはい。」
「うんうん!仲良くなっとるようですな!」
「やー良かった良かったw」
「穏やかに、とは流石に行かんようじゃがのう。」
「元々が元々だ。大きな進歩だろう。」
「でも本当に良かったよ。」
「・・・幸村。」
「うん?なんだい?」
「いや、気の所為かもしれないが・・・なんだかちょっと機嫌悪、あだ!」
(馬鹿、ジャッカル!余計な事言わなくて良いんだよ!)
「?」
「な、なんでもありませんから!」