『・・・・・・・』
「どうですか?忍足君・・・忍足君?」
『かっこええ・・・』
「え?」
『むっ・・・・・ちゃかっこええな!凄いわ、尊敬すんで!予想以上やわ!』
忍足はタブレットの向こうでスタンディングオベーションをしてくれていた。
勿論ビードロズ4人も悪い気はせず、千百合でさえもちょっと微笑みを浮かべる。
「えっへへー!ブイ!」
「どう?なかなかっしょw」
『いや、なかなかとかいうレベルちゃうで!高校生並みやん!いやそれ以上かも・・・あ!』
タブレットの向こう、教室で拍手していた謙也の向こうで、扉が開いた。
『やっと来たな、一氏!』
一氏、と呼ばれた少年は、ああ、とどことなくぼんやりした返事をしてこちらを見た。
『一氏ユウジや。よろしゅう。』
「ひとうじ・・・じゃーひと君ね!五十嵐紀伊梨ちゃんです、よろしくー!」
『・・・・・・・』
「お?」
一氏はじいっ・・・と紀伊梨を無言で見つめた。
『・・・自分、可愛いな。』
『へ?』
「「「「え?」」」」
『あ、いや!ちゃうからな、そうやなくてその、顔がっちゅう話で・・・なんというか・・・』
『一氏、お前ほんまに大丈夫か?』
一瞬いつもの、紀伊梨が一目ぼれされるパターンかと思ったが、どうも違う。
そんなうきうきしたような、照れくさくてしどろもどろな感じじゃない。
可愛い、なんて口にしてる言葉はポジティブなのに、様子というか纏う空気はどう見てもダウン方向だ。
だからこそ、謙也も囃し立てたりしないで、どうしたんだ大丈夫かと心配している。
『心配あらへん。』
『いや、どう見ても普通とちゃうで!やっぱりお前、前自転車で転んだとか言うてた日に、どこぞ怪我でもーーー』
『何でもあらへんて言うてるやろ!』
一氏の大声に、相対していた謙也は勿論、タブレット越しに様子を伺っていた4人も肩を震わせてびくついた。
というか、さっきから取り込んでるようだが、見てて良いんだろうか。
だからといって一方的に切るのもどうかと思うし、無視しようとしてもどうしても気になるし。そもそも、一氏君とやらと全然話が出来ていないし。
『・・・一氏、』
『・・・あかんわ、堪忍。今日はもう帰るわ。そっちの東京の人も、すまんな。』
「紀伊梨ちゃん達は別に良いけどさー。」
『さよか。ほんならーーー』
「でもさー、ひと君そんなに調子悪いのにバンド出来るのー?」
ぐ、と一氏が黙った。
痛いところを突かれた顔をしている辺り、ちゃんとやりたいとは思ってるらしい。
『・・・・・』
『せやで。俺は最悪構わへんとしてもや、何をそんな暗いんか知らへんけど、このままずっとそうしてられるわけやないやろ?白石や・・・皆も心配してんねんで。』
『・・・・・はあ。』
一氏は椅子を一つ引いてどっかりと座った。
『堪忍な。俺もこのままでええわけあらへんて思うてんねんけど、どうしても気が散ってまうというか・・・』
「ちょっと待って。」
棗がストップをかけた。
「気が散るって事はさ、おたくの不調の原因は心理的な話なの?」
『え?ああ、まあ・・・』
『そうなん?やったら、テニスとかドつき漫才には支障ないわけやな?』
『そらそうや!それに支障なんか出てみい、どえらい事やで!』
(だからなんでそこにいちいち漫才挟み込んでくるんだよ。)
「よし、じゃあ折角だw協力して貰おw」
「お?」
「何に協力して頂くんですか?」
「そりゃあ勿論w気が散ってる人に対して、演奏でどれだけ夢中に出来るかの実験ですよw」
笑いながらえげつない事を言う棗に、紀伊梨は気持のいい笑顔である。
「良いねー!やってみよやってみよー!」
「お前らマジで面倒くさい事考える天才だわ。」
『出来るん?そんな事?』
「ううん・・・でも、出来なくはないんじゃないかなあ、と・・・」
『マジか!?』
『願ったり叶ったりや!もうここ最近、同じ事ばっかり頭に浮かんできてイライラしとってん!』
「よおっしゃー!」
紀伊梨が愛用のギターをかき鳴らした。
「見てなよー、ぜーったい紀伊梨ちゃん達の音楽で頭をいっぱいにしちゃうんだかんねっ!」
『おう、やってみい!』
「お前は沈んでたいのかそうじゃないのかどっちなんだよ。」
「まあまあ、なんだか少し元気になれたみたいですから・・・」
『せや!こいつが完全復活出来るように頼むで!』
「頼まれたー!よーし、行くよー!1、2ーーーー」
今から数分後、一氏はしっかり目を輝かせてタブレットを見つめる事になる。