ホテルで夕食を摂った後、テニス部は入浴。
とは言っても、旅館ならまだしもホテルは部屋にバスルームがくっついているので、別に順番とか時間とか気にしなくて良い。
だから丸井と桑原が風呂から上がって廊下を歩いている中、他の部屋で他の部員が風呂に入っていても全くおかしくはないのだった。
「あ!丸井!桑原!」
「うん?」
「何だ?」
「ちょっとちょっと、こっち来い!」
廊下の真ん中で話し込んでいた(まあこの辺はテニス部しか居ないと言えば居ないから良いけど)数人のグループに、丸井と桑原はやや強引に引き込まれる。
「な、なんだなんだ?」
「長くなるんだったら、先自販機行きてえんだけど。喉乾いたし。」
「取り敢えず聞け!というか、聞きたい事がある!」
「「?」」
「ズバリ聞く。今女子が風呂に入ってると思うとドキドキしないか?」
は?と、声にならないような小さい声が、丸井の口からも桑原の口からも漏れた。
「こう、なんかこう・・・してはいけない想像をしてしまうというか・・・」
丸井と桑原は顔を見合わせ。
そしてまた前を向く。
「「別に。」」
「えーー!」
「何でだよ!」
「おかしいだろお前ら・・・」
「これだからモテる奴らわよー。」
「言いたい放題じゃねえか・・・」
呆れたような桑原の声に、丸井はおかしそうに笑った。
「え、見たいと思わないわけ?素で?」
「思わねえよ・・・罪悪感がでかすぎて、とてもじゃないけど。」
「へー、ジャッカル真面目。」
「丸井は?」
「一切見たくないわけでもねえけど、そこまで別にって感じ?」
「お前、色気より食い気か・・・」
「というか、こいつ等はあれだろ。見ても別に文句言われないタイプの人種だろ。」
「あー、そうだったそうだった。見てもビンタ貰うんじゃなくて、きゃーって言われて終わりのタイプ。」
「良いなー、モテる男は。選り取りみどりだなー。」
「お前ら、俺らの事何だと思ってんだよい。」
何か凄く御大層な人種だと思ってないだろうか。
確かに正直な話をすると、そこそこ女子人気はあるとは丸井も桑原も自覚してるけど、だからって別に女子に何しても許されるとか選べる立場だとか、そんな偉そうな事考えた事ないぞ。
「大体、モテるって言ってもな・・・」
「幸村君に比べたらなー。」
「あれと比べるな!あれと!比べ!るな!」
「学校一モテてる男と自分を比べてどうするんだよ?」
「ははは!まあな。」
なんて会話をしつつ、2人が・・・特に丸井が自販機に行きたくて、段々気がそれていってるのを部員の男子達は明確に感じた。
「引き留めて悪かったな。」
「な。さして興味もない話題に。」
「いや、そこまでじゃ・・・というか、この手の話は廊下でしない方が良いぜ?」
「ああ確かにな。マネジも同じフロアだし・・・」
「じゃ、なくて。真田の雷が落ちても庇ってやんねーぞ、って事。」
「ああ、まあ・・・」
「肝に命じとく・・・」
そういえばそうだったね、と言わんばかりにトーンダウンするチームメイトに、丸井と桑原は苦笑して手を振って、当初の予定通り自販機へ向かった。
これが後になって自分の首を絞めることになるが、丸井はまだそれを知らない。