そしてその真田は、幸村と柳と3人用の部屋で驚きに目を見開いていた。
「・・・ということは!あれはーーーーーー」
「真田、隣に聞こえるぞ。」
「!ゴホン・・・あれは、黒崎だったのか。」
「そうだよ。」
夜になり、もう後は自由時間という時になって、幸村はようやく種明かしをした。
確かに口は鉄のように固いが、真田という男は、なかなかどうして紀伊梨レベルにポーカーフェイスが下手なのである。物事を誤魔化せない男の短所。長所でもあるけど。
「しかし、恐らく兄の黒崎の方のプランだろうが、かなり完成度の高い変装だった。見破るとは流石だな、幸村。」
「あははっ!そこはまあ、恋人だからね。」
「では、歩きながら携帯を見ていたのも・・・」
「俯いて顔を隠すためだと思うよ。千百合は、歩きスマホはしないタイプだから。」
「・・・そうか。」
真田は少しうつむいた。何も知らなかったとはいえ、かえってバレるような方向に事態を持っていこうとしてしまったわけだ。
「しかし、思っていた以上に目撃されてしまうね。」
「ああ。仁王と柳生も感づいている。」
「何!?」
「ホールで五十嵐らしき人物を見かけたらしい。声が非常に似ていたと言っていたな。」
「俺も、それは聞いたよ。棗が上手く躱してくれたらしいけど。」
ただまあ、時間の問題のような気もする。
丸井・桑原コンビからはまだ何も聞かれていないし、感づいてもいないようだが。
「丸井は、丸井だからね。」
「同意見だ。」
「?丸井がどうかしたのか?」
「いや、気にしないでくれ。ところで、それはそれとして。幸村。」
「うん?」
「丁度良い・・・というのも妙な話だが。黒崎に会わなくて良いのか?」
幸村は、驚きに目を丸くした。
「それは、どういう意味だい?俺はあくまで合宿に来ているんだからーーーー」
「公私を混同するような真似はしない、とお前は言う。それもわかる。お前は性格上、そう言うだろう。だがここ最近、お前と黒崎の関係にやや陰りのような物が見えるのは、俺の穿ちすぎか?」
「何だと?」
真田が、まさかそんなという目をして振り返る。
幸村は苦笑いを口に浮かべた。本当にこの友人は敏い。
「・・・そうだね、その見解は正解だ。」
「本当か!?一体いつの間に。」
「この前少しね。俺が一方的に悪いことをしてーーーーそれで、ちゃんと謝る時間が取れないまま、結構長引いてしまってるんだ。」
「お前に非があるだと・・・?それは一体、」
「真田、止せ。理由を問い詰めるのは野暮だ。」
「む・・・」
「それよりも、これからどうするかの方に話を戻そう。というより、お前がどうにかする事はわかっているから、いつにするかという話だが。」
「それを、今日か明日・・・つまり、あっちの合宿中に片付けろという事かい?」
「そうだ。」
「しかし、幸村の言う通り線引きはせねばならんだろう。」
「俺もそれはわかっている。ただ、時間がないんだ。」
柳の言う時間がない、とは三重の意味を持っている。
先ず、全国が近いから、練習のない日など最早無いという意味。
そして次に、全国が近いけどそれまでに何とか出来るのかという意味。
そして何より、僅か5日後に、もうレインボーフェスが接近しているという意味だ。
この頑としてテニスと恋人を混ぜたがらない男は、もし仮にこのまま全国に突っ込んだとしてもいつもと変わらないパフォーマンスが出来るだろう。
ただ、千百合に同じような事は多分出来まい。というか、出来ないのが普通だ。幸村が少数派なのだ。
そして、そのせいで千百合がフェスで満足いくパフォーマンスが出来なかったら。幸村だって後悔するのではないのか。
柳は、半分テニス部でなくてただの友人としてそう言い出してみたのだ。
だが、幸村は全くいつもと変わらない穏やかな顔で言った。
「しない。」
「・・・それは、合宿中に解決しないという事か。」
「そう。」
「では、いつ謝るつもりだ。」
「そうだね・・・きちんと謝りきるのは、少なくとも全国の後になるかな。」
「・・・それで、遅くはないんだな?」
「あいつ等のバンドの催しの後という事になるが・・・」
「ああ、そうするつもりだよ。というより、他にどうしようもないんだ。あまり細かくは言えないけれど、時間だけがあればそれで良いというわけでもないから。」
そう。
それこそこれが本当にただの他愛のない喧嘩(まだした事ないけど)で、謝って話し合いしたらそれで済むのなら、練習の後でも何でも千百合を尋ねれば良いのだ。
それをしなかったのは、それで終わりきる事じゃないと思っていたからである。
「ただまあ、解決とまではいかないけれど、今日はちょっと連絡をしてみようかと思っていたんだ。」
「そうか。それなら、お前に任せよう。」
「うむ。それが良いだろう。」
「有難う。悪いね、気を使わせて。」
「何、大した事じゃない。」
幸村はちら、と時計を見た。
まだ早い。