Training camp – in Irupinet Hotel -:Unravel night - 3/8


午後19時を回った辺りだった。
女子3人が泊まっている部屋に、棗と小鳥遊も加わって、トランプに興じていた時。

「むー・・・見えた!それ!」
「あー!ちょっと、どーしてそっち引くのよー!」
「た、小鳥遊さん、バレてしまいますよ・・・」
「顔と声に出すぎでしょw」
「何でも良いから、さっさと引かせ・・・ん?」

傍に置いてあったスマホが鳴った。

「電話ですか?」
「いや、LINE・・・!」

千百合はちょっと心臓が跳ねた。

幸村からだ。
あのプールの日以来、本当に誇張なしで一切の連絡を取っていなかった恋人から。

『お疲れ様。』

『ごめんね、突然。今、合宿に来ているんだよね?』

『千百合が良ければ、1時間後くらいに電話で話がしたいんだけど、どうかな?』

(1時間後・・・大体20時くらい、か。)

「千百合っちー?どったのー?」
「なーに、何か急ぎの用事ー?」
「ああ、いや・・・ちょっと、紫希と紀伊梨、悪いんだけど。」
「「?」」
「後1時間くらいしたら、ちょっと外行くわ。帰り遅くなるし、先に寝てて良いよ。」
「え!?何で何で!?」
「いや、ちょっと。電話。」
「でも・・・お外は辞めた方が良いんじゃないでしょうか?暗いですし、危ないですよ。」
「ホテルの近くなら大丈夫じゃなーい?って、そっか!ホテルの近くであんまり声出してると、テニス部に気づかれるケースがあるわね。」
「かと言ってなあ。ホテル内だと、どこにしろいつ何の理由で気づかれるか分からんし。」
「でも、他にどうしようもなくない?」
「・・・それなら、逆に私と紀伊梨ちゃんが外に出ましょうか?」
「え?」

紫希がこう言い出したのにはわけがあった。
多分、相手は幸村なのだ。

それならお互い貴重な時間なのだし、環境に煩わされずに話して欲しいと思う。
それに、幸村相手なら、長引くといってもそう大した時間じゃあるまい。幸村が早寝体質なのは、幼馴染なら皆知っている事実。

「いや、でもそこまで・・・」
「そんなに言うほど、無理じゃないんじゃないかと思うんです。要は人目に触れなければ良いわけですから、例えば・・・ちょっとお邪魔ですけれど、棗君の所にお邪魔させてもらったり、とか・・・」
「おお!良いね良いねー!なっちんの部屋見てみたいおー!」
「別に変わらんぞ此処とw来るのは全然良いけどさw」
「あ!待って待って、それなら私の部屋にくれば良いじゃない!広いわよー、何せダブルベッドですからね!」

一人で泊まると分かっているのに、何故ダブルなのか。
偏にSNSで、彼氏と来てまーす☆と呟くための見栄用である。
良いもん。一人で広々寝られて気分が良いから、元は取れてるもん。本当だもん。

「連日一人の晩酌も味気ないと思ってた所だし、丁度良いわ!ね、そうなさいよ!」
「やったー!お邪魔しまーす!」
「有難うございます、小鳥遊さん。」
「良いの良いの!さて、そうと決まったらジュースとお菓子が要るわね!小口君にLINEして、買ってきて貰いましょっと♪」
「あごで使う気じゃないすかw」
「だ、駄目じゃないでしょうかそれは・・・」
「良いの良いの!ほら紫希ちゃんも、欲しいものはガンガン言っちゃいなさい!」
「じゃあ俺柿ピー欲しいなw」
「あ!紀伊梨ちゃんはねー、チョコマシュマロとー、サッポロポテトのバーベキュー味とー、」

「・・・・・・・」

話が纏まってくるのと比例して、千百合の意識は段々スマホに向かい始めた。

何の話か知らないけどーーーーいや、正確に言うと話のテーマには想像がついていて、わからないのは方向性なんだけどーーーーいずれにしろ、千百合は今緊張している。
単純に恋人と電話するといううきうき感とは違う、この、審判が今から下されるような感覚。

なんだかんだ、初めての感覚だった。
今まで、幸村からの好意を疑った事なんてなかったから。

「・・・・・・」

流石にいきなりそこまではいかないだろう、普通に考えて。という気持ちもあるけれど。
別れ話じゃありませんように、と千百合は心の中で祈った。