Training camp – in Irupinet Hotel -:Unravel night - 5/8


一方、時間を巻き戻して、解散直後。

紀伊梨は棗と一緒に、バスタオルを取りに一階へ向かった。
元々部屋にバスタオルはあるのだが、今日の午前中中華街で汗をかいたので、一同は午後練習の前に皆シャワーを浴びた。なのでもう使ってしまったのだ。

「念のため言っておくけど、お前は喋るなよw」
「えー!」
「しょうがないでしょwもうテニス部も自由時間だから、どこに誰がふらついてるかわからんw」
「そーだけどー!むーん・・・」

なんて会話してる間に、ばっちり変装済みの紀伊梨と棗はもう一階に辿り着いた。

「・・・・・」
「・・・・・」

エレベーターを出て、周囲の確認。
誰も居ないーーーいや。

(テニス部居るなw)
(知らない人だお?大丈夫じゃにゃい?)
(大丈夫じゃねえわwライブのせいで、俺達面が割れてるんだぞw)
(つららが割れてる・・・?)
(後でね、後でw)

立海のジャージを着て、スマホを弄っている部員が一人、ロビーに座っている。
とはいっても、スマホに集中している間は、多分顔なんて上げないと思うけど・・・なんて思いつつ、フロントへ。

「・・・さーせん、バスタオル下さーい。4枚ね。」
「はい、少々お待ちください。」

(なっちん変な声上手ー!)
(変な声言うなw結構苦しいんだぞw)


「ああ、居た・・・四ツ谷!」


びく!と紀伊梨と棗は肩を震わせた。

思い切り知り合いの声。
桑原だ。

「桑原!悪いな、呼び出して。」
「いや、良い・・・んだけど、何だ?何の用事なんだ?」
「まあ、ちょっとな。取りあえずそこ座れよ。」
「ああ・・・・」

(やばいやばいやばいやばいw)
(ぎゃおーす!早く早くー!)

「こちらになります。」
「どもっすー。」

言うが早いか、バスタオルを抱えてそそくさとエレベーターに乗り込む2人。
こんな時に限ってなかなか来ないのだ、しかし。

「でも、悪い。呼び出しといてなんだけど、先にちょっとLINEだけ打って良いか?」
「ああ、良いぜ別に。時間あるしな。」
「そうか、助かる。」

こっちは全然助からない。
さっさとどっか行って欲しい。勝手だけど。

(早くー、早くー、)
(もーちょっと!もーちょっと!・・・よし、到着ー!)

チン、と音がしてエレベーターが着いた。
怪しくないように、出来るだけゆっくり乗って。
階数ボタンを押して、扉を閉めるのボタンを押した。

瞬間。


ピリリリリ!


「!?くっそ、」
「お!?お!?」


棗の携帯が鳴った。
発信者、仁王。

それが確認できた瞬間、エレベーターは完全に閉じ、動き出したが。

「・・・え!?何!?」
「・・・やられた。」
「え!?」
「あのロビーに居た奴、仁王だわw」
「・・・・え、ええええええ!?」

閉まりきる瞬間、確かにこっちを見ていた。
そして笑って、スマホを見せびらかすように振っていた。

やられた。完全にやられた。
最初からこのつもりで張っていたのだ。あの男ならそれくらいする。面白そうだから、という理由で。

「どーすんの!?え、どーすんの!?」
「シラを切りとおすよwこうなったらどうしようもないでしょw」

棗は、全部の階数のボタンを端から押した。




一方、ロビーに残された桑原は、何が何だかわからないでいた。
部屋で寛いでいたら、いきなり仁王から一人で一階に来いと呼び出しをくらい。四ツ谷に変装してるからその体で話せと言われ、わけがわからないまま従っていたら、いきなり見ず知らずの男女だと思っていた2人組から。
紀伊梨と、棗の声が。

「・・・え?何だ?どういう事だ?」
「居るんじゃろ、此処に。あいつ等が。」
「え・・・あいつ等って・・・え?」

あいつ等って。いや、分かるけどさ、誰を指してるのか。
でもさ。

「・・・何で、名乗り出ないんだ?しかもあんな、らしくない恰好までして・・・」
「何ぞあるんじゃろ。俺らに来とると思われたくない理由がな。」
「・・・でもそれなら、知らないふりをしといてやった方が良いんじゃないか?」
「そういうのを暴くのが面白いんじゃ。」
「・・・・・・」

此奴。
自分の事は、あんな頑なにひた隠すくせにだな。

「さて、他はどうかの。」
「他?」
「逃げるのは想定内じゃき、一応怪しいフロアに人をやっとるんじゃ。」

よくもまあそこまで出来るな。
見上げた根性だ、自分には絶対無理。

(これ、止めてやった方が・・・いや、もう無理か。)

この手の事で、自分に仁王を出し抜けるとは桑原は思わない。
というか、止めた所でやるだろう此奴は。よほどの強制力がない限りは。

柳生に連絡を取っている仁王を見ながら、桑原はせめてもと、棗に自分と仁王はまだ一階です、の連絡をする。