Training camp – in Irupinet Hotel -:Unravel night - 7/8


「紫希ちゃ~ん、どう思う~!?」

その頃、紫希と小鳥遊は部屋で騒いでいた。というか、紫希は極めて大人しく、小鳥遊が一方的に騒ぎ続ける。

「酷いと思わない!?ぬぁ~にが、LINEは苦手なんだ、なのよぉ!」
「え、ええと・・・その・・・」

さっきから小鳥遊はずーーーっとこの調子である。
どうやら婚活パーティーで知り合った異性とやり取りしてるらしいのだが、酒が入りまくってべろべろなので、さっきから支離滅裂な事か愚痴しか出てこない。

「お前だって堀/北真/希からLINE来たらどーせ即リプすんだろ、って話なのよ!へっ!」
「か、却って出来ないのでは・・・」
「え、出来ない!?なんで!?」
「だ、だって・・・私なら出来ません、緊張しちゃって・・・変な事言っちゃいけないとか、こんな事言ったら笑われるかも、とか考えてしまいそうです・・・」
「・・・・・・」
「・・・・小鳥遊さん?」
「それだわ!」
「え?え?」
「成程ねー!つまり彼奴は、ひたきちゃんの魅力にメロメロになっちゃって、緊張して軽快な返事が出来なかったわけなのね!やだ、それならそうと言ってくれたら良いのにー!」
「あ、ちょ、ちょっと、」

言いながらプシュ、と缶を開けるひたきの手から、さっとビールを取って水を入れた空き缶に挿げ替える。
紫希はさっきからこういう事ばっかりしている。
もういい加減飲むのを辞めたらと言っても、全然聞いてくれやしない。

「ふう・・・」
「帰ったら早速LINE入れちゃおー!気づけて良かった、紫希ちゃん大好きー!」
「え、あの、うっ!」

いきなり抱きつかれて、持っていた本物のビール缶を取り落とす。
ベッドに大量に零れて染みになったシーツに、そのまま押さえつけられて、背中が冷たい。

「・・・!冷たい、」
「あー、なんか一気に気分良いわー!このまま寝ちゃおっかなー?」
「待ってください、もう少しお水を飲んで、服を乾いたものに着替えて・・・」
「えー、やだやだー!」
「ちょ、ちょっと暴れないで・・・きゃああっ!」

サイドテーブルに置いてあったチューハイの缶が、暴れる小鳥遊の足に当たって宙を舞った。
ああ嫌な予感、と思った時にはもう遅し。

ぱしゃ!と音がして、紫希はアルコールを頭から被った。

「ああ、千百合ちゃんの服が・・・」
「紫希ちゃん、着替えさせて~!」
「わかりました、手伝いますから一先ず離れて、」


コンコン。


ノックの音が、紫希には天の祝福に聞こえた。

「誰ですか?紀伊梨ちゃん?棗君?小口さ・・・「紫希ちゃんってば~!」だ、誰でも良いですから、お願いですちょっと手を貸して、」

「入って良い?」

丸井の声。

チューハイを被って冷えた頭が、更に冷えた。



「はあああ・・・・・」

紫希はバスタブで、濡れた両手で顔を覆っていた。

夏とはいえ、こんな冷房のガンガンかかってる部屋でびしょ濡れ状態では風邪をひく。
そう押し切られて、紫希は今バスルームで入浴して体を温めているのだ。

丸井は今、部屋に居てくれている。相当酒が入っていて、いつ急に体調を悪くするかわからない小鳥遊を見ていてくれてるのだ。

失態と言う他ない。
バレるどころか助けて貰って迷惑かけて、一体何をやってるんだろう。情けなくて涙が出そう。

(そうですよね、よく考えたら紀伊梨ちゃんや棗君だったら、そもそもノックなんかしないで入ってくるなり声をかけてくるなり・・・無言でノックされた時点で、怪しむべきだったんですよ、もう私ときたら・・・)

風呂から出たら誰にどうやって何から謝ろう。
各方面に平謝りする事をつらつら考えつつ、紫希の体温は順調に上がってきている。




『ーーーという次第で、ビードロズには存在を消して貰っていたわけだ。』
「へー。」

丸井は、小鳥遊の散らかしまくった酒の空き缶を軽く片づけつつ、柳に事のあらましを説明して貰っていた。

そもそも丸井はLINEで、仁王のビードロズ捕獲作戦に協力を仰がれた。
しかしその文面が「8~10、もしくは2~4階をうろつく事」だったので、丸井はついでにアイスの自販機を求めて、ビードロズ4人が寝泊まりしている部屋のある10階に来たのである。

しかし、本当にアイスの自販機があるのは11階のスイートルームフロア。
とどのつまり、丸井は覚え間違いの末にここに辿り着いたわけだ。

そして勘違いしたまま自販機を求めて廊下を歩いていたら、小鳥遊が大声で「紫希ちゃん」と呼んだのが聞こえたので足を止めて、今に至る。

(だから、あんな男みたいな恰好してたわけね。)

「丸井く~ん、こっちの缶も捨てといて~。」
「自分でしろい。」
『そっちも大変そうだが、これからどうするんだ?もう少し春日を手伝うと言うなら、同室の者には誤魔化しておこう。』
「ああ、じゃあそうする。」
『わかった。では、後でな。』
「OK。」

通話を切ると、20時15分過ぎ。
後10分経ったら紫希が出てくる。いついつまで入っていろと言わないと、紫希はカラスの行水並みのスピードで出てくるであろう事が予想されるからだ。

「・・・ね~ね~丸井く~ん。」
「ん?」
「どう思う、この音~?」

何か急にニヤニヤ笑いになっている小鳥遊。

「この音?って、どの音?」
「これよ、これ!ほら聞こえるでしょ、シャワーの音~。」
「だから?」
「鈍いわね、も~お!女の子が壁一枚向こうでお風呂に入ってるのよ?思春期ならドキドキするでしょうよ~!」
「はあ・・・」

本当に面倒くさい。
居酒屋で若い女の子に絡むオヤジの、女性バージョンそのもの。
せめてもう少ししおらしくしていろよ。

(大体、風呂に入ってるからどうだっていう話なんだよ。)

さっきも同じ話振られたけどさ。
言わんとすることは決してわからないじゃないし、興味0というと嘘になるけど、入浴なんて別に誰だってしてる事だし。


シャアアアアア・・・・


・・・してる事だし。


ピシャ、ピシャ・・・


事だし・・・・


サアア・・・キュッ!パシャン・・・


「・・・・・・」
「あれ?あれあれ?」
「・・・なんだよ。」
「ど~~~おしたのかな~?急に黙っちゃってえ~?うん?うん?」
「別に、」
「言われたら急に意識しちゃいましたか~?そーなんですかあ~?」
「うるせえんだよ、静かにしてろい!」

そうする事によって顔の熱が引いていくと信じているかのように、もくもくと空き缶をビニールに突っ込んでいく丸井。

ああくそ。
なんだか意味もなく恥ずかしい。

さっきチームメイトに話を振られて、しれっと躱したのが嘘みたいだ。
何でだろう、知ってる女の子だからか。いや、マネジだって知ってる女の子だろ。
どうしてなのかわからないけど、どうしてなのか深く考える気にもなれない。
ああ熱い熱い。顔が。

「やだ、なぁ~にぃ~?怒ったの~?短気な男はもてないわよ~。」
「モテない奴からモテないとか言われてもな。」
「はああ!?ぬぁ~んですってえ、ちょっとこっち来なさい!」
「やだね。」
「やだじゃないの!ちょっと顔が良いからって、人の痛い所突いといて逃げられると思うんじゃないわよ!」

全然怖くない。
口じゃ大きい事を言ってるが、小鳥遊はもう全身に酒が回ってて、へろへろのふらふらである。殴るふりをして挙げているその手も、腕が上がってない以前にもう拳が握れてない。

「ちょっとお、聞いてるの~?」
「はいはい。」
「ねえってば、こっち向きなさいよ~!」
「はいはい。」
「生返事するな~!」

クン、と服の端が引っ張られる感覚。
ああ鬱陶しい。

「あの、なあ!こっちは今、そっちのやらかした始末してやってんだか、ら・・・・」

パッと振りほどいて振り返ると、後ろにいたのは散らかし放題の酔っぱらいの顔・・・ではなかった。
濡れた髪を乾かすのもそこそこに、急いで風呂から上がってホテルのパジャマを着た紫希の顔は、自分が怒られたのだと思い込んで、入浴直後だというのになんだか青い。

「すいません・・・・!」
「いや、違う。違うからな、お前に言ったんじゃなくて、」
「うーわ可哀想~!あ~んな素っ気なく振り払わなくって良いじゃないのよ、ね~紫希ちゃ~ん?若くてピチピチのお手てが痛んじゃうわよ、ね~?」

いい加減にシーツででも簀巻きにしたくなってきた所で、救世主が扉を開けて来てくれた。

「ただいまー!え、あれ!?ブンブンだー!」
「ちょっと待ってwどういう状況なのこれはw」
「うわ、くさ。酒くさ。窓開けてるのにこれとか、馬鹿じゃないの。」
「丁度良かった、後始末代わってくれよい。」

やったぜ、ラッキー。
と言わんばかりに、丸井は空き缶がたんまり入ったビニールを棗に押し付ける。

「後春日借りて良い?」
「え、」
「良いよw」
「えー。」
「えー!」
「まあまあ大目に見てあげようよwこの状況見たら、二人してこの大人の面倒に手焼いてたのはわかるでしょw」
「手を焼く!?紫希ぴょんとブンブン火傷してるの!?」
「そ、そういう意味じゃなくてですね・・・というか、私も片づけを、」
「良いから良いから、ほらw行った行ったw」
「そのかっこじゃあれなんじゃないの。せめて上着着たら。」
「あ!紀伊梨ちゃん服まだあるお!貸したげるー!」

わちゃわちゃと会話する中学生’sを見て。

「・・・あふ。むにゃ・・・」

迷惑な大人は話し声を子守歌に、やっと静かに眠り始めた。