Training camp – in Irupinet Hotel -:Unravel night - 8/8


「じゃあ、そもそもはアイスが欲しくて、ここまでいらしたんですね。」
「そ。見当たらねえし、あっちの端っこかと思ってたんだけど、もっと上なんだな。」

紫希と丸井は、連れだって廊下を歩く。
紫希は取り敢えず着替えただけなので、下は自前のフェミニンなロングスカートなのに、上は紀伊梨から借りたパンク系デザインのTシャツというちぐはぐな恰好。

「本当にすみませんでした、自由時間なのに助けて頂いて、巻き込んでしまって・・・」
「いや、それは・・・まあ、流石にあの酔っぱらいの相手は堪えたけど。寧ろお前、よく一人で暫く持たせてたな。」
「助けてもらう直前までは、比較的大人しかったんです。婚活に関する事をずっと話されていたんで、それに受け答えしてるだけで良かったんですけど・・・」
「それも大概きつくねえ?」

自分だったら間違いなく途中で嫌になる。
あの短時間でも既に嫌だったのに。

「それにほら!そもそもはこっちが悪いんだろい?柳から聞いたけどさ。変装までして。」
「ああ、それは・・・はい、まあ・・・」
「やっぱ、昨日コンビニに居たのってお前?」
「・・・・・」
「ビンゴ♪」
「どうしてわかるんですか・・・!」
「ははは!ま、なんとなく?」

やっぱりなんとなくで返された。
という事はつまり、天性の勘というわけだ。そんなもんどうやって欺くんだよ。一応さっき着てたのと昨日着てたのは違う服なのに。

「私やっぱりどこか、手抜かりみたいな所があったんじゃないでしょうか・・・」
「いや?マジでなんとなくそう思っただけなんだって。女子かも、って。」

見て分かれよ男子だろ、と桑原からも小口からも言われたけど、丸井はどうもそうは思えなかった。
まあ納得する材料以外なかったから、取り敢えずうんと言ったけど。

「でもこうして結局バレるんだったら、あの時帽子取っとけば良かったな。」
「え?」
「ああいうかっこしてるのも見てみたかったなって。普段の服も好きだけどさ。」
「そ・・・・あ、有難う、ございます・・・」

服に対してと分かっているけど、それでもしれっと好きとか言われると緊張してしまう。他意がないのは本当に良く分かっているんだけど。

なんて会話している間に、もう2人はエレベーターの前に到着した。

「あの、今日は本当に有難うございました。本当に助かりました。」
「良いって。えーと?6階だから、下押して、と。」
「あ、あの!」
「うん?」
「あの・・・結局、お話っていうのは何だったんですか?」
「へ?」
「私、何かご用事があって呼ばれてるんだと思ったんですけど・・・」

借りていく、と言われた時に絶対何か特別な用件があるのだと思った。
ところが別に廊下を歩いている間も、丸井は特別変わった話題とか重大そうな話題を振ってくることもなく。

「いや?別にこれって用事があったわけじゃねえけど。」
「え?そうなんですか・・・?」
「そ。ただ俺が喋りたかっただけ。」

それこそ小鳥遊がもう少ししゃんとしてれば、廊下に避難してから会話を楽しむなんて真似をしなくても良かったのに。
まあそもそも小鳥遊がへべれけだったから見つけられた部分もあるけれど。

「じゃあーーーー」
「あ、ま、待って、」
「ん?」
「あの。私・・・私も、丸井君とお話し出来て良かったです。本当に偶々偶然でしたけど、今回はもう絶対こうして普通にお話なんて出来ないと思ってたので、

ですから・・・本当に、嬉しいです。有難う、御座います。」

コンビニで財布を拾った時、バレないようにという緊張でいっぱいだったけど、車に逃れて一息吐いた後生まれてきたのは寂しさだった。

こういう状況じゃなかったら、丸井君桑原君偶然ですね、と言っていつものようにお喋りが出来たのに、今回はそれは絶対に叶わない。
そう思っていたから。

・・・結果的に、迷惑かける形でという事になってしまったけど。

「・・・うん。俺も。」
「はい。」
「じゃ、おやすみ!」
「はい、おやすみなさい。」

エレベーターの扉が閉まる際、紫希はお辞儀をした。
完全に一人になって下に向かいだす箱の中で、丸井はエレベーターガールかよ、と思っておかしくて一人で笑った。

(・・・やっぱ、こっちのが良いじゃん?)

今紫希と話して思った。
やっぱり、幸村に提案したのは間違いじゃなかった。

丸1日一緒にいて、その後はずーっとまた会えないより、1日一緒じゃなくても良いから沢山会いたいと思う。
10分で良い。その10分はほら、こんなに自分を満ち足りた気分にさせてくれる。

「ただいま。」
「ああ、ブン太。遅かったな。」
「おう、ちょっとな。」
「あれ?」
「ん?」
「アイスは?買いに行ったんじゃなかったのか?柳からそう聞いてたんだが。」
「え?ああ・・・」

どう言おう。

「・・・いや、どこにあるかわかんなくて?迷ってる間にこんな時間になっちまってさ。アイスは食いてえけど、消灯過ぎて説教は流石にごめんだろい。
「ああ、そうだったのか。残念だった・・・」
「ん?何?」
「・・・ブン太、アイスは食えなかったんだよな?」
「うん。」
「そうだよな。いや何か、その割にやたら楽しそうというか、満足そうな顔してるから・・・」
「・・・そう?別に普通じゃねえ?」

普通じゃない事は自分で分かってるけど、ほら。
これは、秘密だから。