「・・・・・」
「こんにちはっ!」
「こんにちは♪貴方が日吉君、ね?」
「俺らテニス部やねん。よろしゅうな。」
珍しくもポカン顔の日吉は、今は多目的室に居る。生徒の展示に対して、手を触れてる人が居ないか見たり、質問に答えたり(ちゃんとカンペは持たされている)する役である。
「・・・中等部の方が、何故幼稚舎に居るんですか?部活はどうしたんですか。」
「サ、サボってないよっ!?今日は電気系統のメンテナンスで、午前中が休みだから・・・」
「ああ、そういう。しかしそれにしても、興味をそそるものなんてありますか?小学生の文化祭なんて、面白いものは何もーーー」
「あら、あるじゃない面白いもの。私達の目の前に。」
「・・・・・」
「来年は一緒に出来るわね、よろしく~♪」
「それが主目的なんですか?」
「私はそうね。侑士君と可憐ちゃんは?」
「俺は普通に楽しみに。まあ、半分くらいは後輩に会えたらええなみたいな気持あったけど。」
「わ、私もそんな感じっ!」
「物好きですね。」
「理解でけへん?」
「はい。」
「今の内だけやで。」
忍足は穏やかに言った。
「・・・どういう意味ですか?」
「今は小学生やから、言うほど先輩やとか後輩やとかいう括りにピンとけえへんかもしれへんけど。でもその内自分が先輩になったら、今度は後輩を意識するようになんねん。そういうもんや。」
「あら、良いことを言うわね。」
「おおきに。」
「・・・まあ、覚えておきます。」
日吉は素直に頷いた。
確かに、部活という環境の中に身を置いたことがなかったのは事実だから。
「さて、じゃあそろそろ行きましょうか。」
「せやな。あんまり長居しても邪魔になるし。」
「あっ!ちょ、ちょっと待ってっ!私、千歳ちゃんの事だけ聞きたいっ!」
「ああ。」
「千歳?ちゃん?」
「木崎千歳ちゃん、っていう女の子。知らない?学年は一緒の筈よ。」
知ってるだろうな、とは3人とも思った。
木崎自身は日吉に用事なんてないだろうが、日吉と鳳に繋がりがある以上無視は出来ないはずだからだ。
と思っていたが、話は予想外の方向に転がった。
「知ってるも何も、クラスメイトですよ。」
「「クラスメイト!?」」
「偶然もあるもんやなあ。」
「まあ、他に同姓同名の別人が居るとも考えづらいですし。金髪で赤いリボンの女子でしょう?鳳に懐いている。」
「ああ、うん・・・懐いてるんだね・・・」
今日吉は「懐いている」という表現を使ったが、これは日吉の繊細さ・・・というかデリカシーゆえの気遣いであって、懐いてるを通り越して好きなのはもう知っている。勝手に好きとか言うのはまずいかと避けてくれているだけだ。
「彼奴がどうかしたんですか。」
「どうかっていうか・・・あの子もきっとテニス部入ると思うから、知っておけることは知っておきたいと思ってーーー日吉君っ?」
日吉は苦虫を噛み潰したような顔になった。
「テニス部に入れるんですか?木崎を?」
「えっ!?あ、ううんと・・・入れるかどうかはちょっと別の話だけどっ!うちは一応面接があるからーーー」
「それならそこで弾(はじ)いてください。居るだけ邪魔です。」
「言い過ぎとちゃう?」
「言いすぎじゃありません。あいつはテニスになんて興味がないんですよ。部活動やマネジ業務に対しても同様です。彼奴にとって興味があるのは鳳だけで、他はほぼ全部二の次三の次。まあ音楽をやっているようで、それに対しては多少時間や労力を割いているようですがね。」
日吉の言ってることは正論だと3人は思う。
木崎本人と直接関わった時間なんて本当にごく僅かだが、その極僅かの間でも、日吉のこの言い分が誇張でもなんでもない事実なのは察しがつくというもの。
「まあ、それと実際の業務の事については話が別だから、ね。ちゃんと働いてくれるなら、動機が何でも私は通すわよ?」
「まあ、そういう成果主義的な考え方は俺も賛同しますが。ただそれを含めても、俺はあいつがマネージャーを勤められるとは思いません。」
日吉だって別にマネージャー業務の多くを知っているわけではないけれど、例えばタオルを配ったりなどする時に、木崎はおそらく鳳以外に何もしないだろう。逆に他のマネージャーが鳳の世話をしたら怒り出す筈だ。
そういう人間なのだ、木崎千歳という女子は。
「そこまで・・・?」
「基本的に脳みそと口と手が直結しているんですよ。正直といえば正直というか、ある意味では裏表がないと言えるのかもしれませんが、あれは性格というか単純に幼いだけです。」
「まあそれは察するわ。」
「まあいずれにせよ、その辺りはあまり俺がああしろこうしろと言える立場ではないので。最終的に決めるのはそちらですし、そうなった時には指示に従いますよ。」
要は関わらなければ良いのだ。
あんまり度が過ぎたら退部が視野に入るだろうし。
あくまで他人事のスタンスでいきたい日吉は、ドライな口調でそう言った。
「・・・なー、お前何で出ていかないんだよ?」
「・・・・ごめん、ちょっとね。」
柱の陰から、先ほどの少女と少年は、隠れながら可憐達の会話を盗み聞いていた。