『どうしてですか!』
関根晶はスマホを耳から離した。
歌唱力のある人間の怒鳴り声は大きくて敵わない。
「どうしても何も、仕方がないだろ?向こうがお前を断ってきたんだから。これでも食い下がったんだぞ。」
『嘘です!』
「おい、嘘ってーーーー」
『谷松さんなら取ってくれました!チーフマネージャーの関根さんが取れない筈がありません!』
「あのな!彼奴と俺を一緒にするな、俺はお前だけを他所に推すわけにいかないんだ!プロダクション全体の事を考えてだなーーーーーー・・・っくっそ!あいつ切りやがったな!」
固定電話の子機だったら叩きつけてやるのに、と憤懣やる方ない思いで自分のスマホを見つめる。
「おーい、関根。行くぞーって、何?どうした、すごい顔しちゃって。」
「ああ、社長・・・すみません、今行きます。」
「良いけど、それより今のは何よ?」
「ああいや・・・亜佐美の奴が。」
「亜佐美。亜佐美がどうかしたのか?」
「キレてんですよ。彼奴、ピアンタテクニカのイメージタレントに推してくれなかった、とか言って。」
「ああ、君島育斗と共演する奴か。」
「です。彼奴、俺が働いてないみたいな言い方しやがって・・・・」
「はっはっは。まあそうだなー、関根は偶に全体を見過ぎて、個人を見てないところあっからな。」
「そんな!俺は・・・」
言ってる関根の目の前で、社長と呼ばれた男はどこかに電話をし始めた。
「俺だ。元気にしてたか?・・・あっはっは!良いじゃねえか、若い証拠だよ・・・いや、実はちょっと頼みたい事があるんだ。CMの・・・じゃ、ない方。ピアンタテクニカが今度マンゴスチンのPRするだろ?それのCM。あれにさ、うちの神無月亜佐美を出して貰えねえか?」
(マジかよ・・・)
関根は身支度を整えて部屋の鍵を閉めながら、電話で軽快に話す社長を見ていた。
「・・・おし。通った。」
「マジっすか!?」
「元々こんなの、通りやすいも通りやすいガバガバ案件だよ。別に亜佐美の他に候補が居るわけじゃない、ちょっと売ってやればすぐさ。」
「それが出来るのはあんただけですよ。」
「お前だってやれば出来るだろ?」
「そりゃ、相当無理すれば・・・でもいちいちそんな事ばっかりしてたら、」
「いちいちしなくて良いが、今度のは絶対に取ってやるべきだ。メインはマンゴスチンであり君島育斗だが、環境保全PRも兼ねてるんだから亜佐美は欲しがるさ。是が非でもな。」
「・・・・そう言われればそうかもですけど。」
何か釈然としない気持ちもあるが、これの正体は結局自分の数倍有能なこの若社長に対する嫉妬だとわかっているので、関根は無視をした。
もっと正直に言うと、ちょっと怠慢気味な自覚もある。
何せーーーー
「お前は亜佐美と折り合い悪りーもんなあ。」
・・・うん、そう。
それ。
「・・・彼奴、気難しくないすか。」
「人間は皆自分の思い通りになんてならねえよ。別に亜佐美に限った話じゃない。お前は、亜佐美だけが特別聞かん気に見えてるのかもしれねえけどな。」
「・・・・・」
「そーいう顔してっと、今日のフェスで新しいアイドル候補に逃げられるぞ?」
「あんたにだけは言われたくない。」