First RAINBOW FESTA:Today is・・・ - 3/6


麗らかな朝。
ゆっくり朝食でもと思って神崎史郎がトーストを手に取った所で、2階からけたたましい足音が降りてくる。ああ煩い、朝から。

「おす!」
「あ、安音おはよ~。」
「母さん!俺今日、楓と遊んでくる!」
「あれ?今日はゲームセンターじゃなかったの?」
「予定変更だ!渋谷のフェスに行ってくるぜ!」
「フェス・・・?何だかよくわからないけど、気を付けてね~。」
「おう!」

嵐のように姉が家を出て行ったのを確認して、史郎はふうと息を吐いた。
おお疲れる。

「フェスって何だろうね?」
「レインボーフェスタ。渋谷でやる、中高生バンドのイベント。」
「へー!詳しいね、史郎。」
「友達から冷やかしに誘われてたから。」
「え?じゃあ史郎も行くの?」
「長居はしない・・・おい母さん、何だよそのスマホ。姉貴には言うなって。」
「え?ダメ?」
「駄目。」



「おお、安音。」
「よーっす、楓ー!」
「本当に来るとは・・・悪いね、急で。当日発売の券が買えるか、確約出来なかったもんでさ。」

はい、とチケットを手渡してくる友人は、兄がバンドをやっていて参加するのだ。
安音自身はそんなに言うほど詳しいわけでも興味津々なわけでもないけれど、ロックバンドという響きはかっこいいのでこういう時は行く。

「楓のにーさん、グループ名なんだっけ?」
「Pan cakeだよ。」
「ああ!そーだったそーだった、何か甘ったるい名前だなってのは覚えてたんだ!」
「あはは!自分も甘いのが好きなくせに。」
「言うなよ!男が甘いもん好きとかさー!」
「そもそも男じゃないし、男だとしても今時甘いのが好きだからどうのなんて言う人は居ないと思うけど。」
「俺が居る。俺が!」
「はいはい。」

なんて言いつつ、中院楓は顔を綻ばせた。

先日、氷帝学園の幼稚舎の文化祭に行きたいと言う事で行ってきた友人は、帰ってきたらなんだか変な奴がいた、と言って微妙な顔をした。

灰色の髪で、茶色い目で、同級生くらいの男子。
幼稚舎の生徒で、ピアノが得意。

そして、男らしくないと言ったら、言われても仕方がないと返してきたという。

友人ながら失礼だろうと思いつつ、言い分を否定されたわけじゃないから、安音的には良いのではないかと思ったのだが。
しかしそう言うと、自分もそう思うけど何か釈然としない、と言って安音はまた微妙な顔で黙ったのだった。

何事もあまり深く考えず、感覚と意志で行動する安音にとって、不可解な事に考え込むというのは極めて珍しかった。
だから中院は結構心配していたのだが。

(・・・元気になったみたいだね。良かった。)

「楓?」
「ああいや、何でも。行こ!」
「おう!」






「あら長太郎、出かけるの?」
「うん。今日はちょっと、渋谷に出てくるよ。友達がバンドをやってて、イベントに出るんだ。」
「そうなの。楽しんでらっしゃいね。」
「うん。」

鳳は家を出る前にもう一度、財布を覗いて札入れの部分に入れてあるチケットを見る。


『あの、これ・・・・その、よ、良かったら、来てくれたら、なんて・・・』


そう言ってチケットを渡してきた木崎に、勿論行くよ、と返事をして今日を迎えたわけだけれど、正直鳳は軽音楽というものに馴染みがない。

かといって偏見があるわけでもないから行くけれど、あまりにも知らない世界過ぎて、楽しめるかどうか一抹の不安はある。
しかもチケットは一人分だったので、他に誰も誘えなかったし。

(俺、作法とか何もよくわからないけど、大丈夫かな・・・?)

兎に角誘ってくれた木崎の恥にだけはならないようにしたい。

そう決意しつつ、鳳は財布を閉じた。




「・・・・・・」

木崎は鏡の前で深呼吸をしていた。

髪、良し。
服、良し。
化粧、良し。
喉、良し。

スマホに鳳から来れなくなった等の連絡もない。

大丈夫。
何も手抜かりはない。

後は本番で失敗さえしなければ良いのだ。
そう、それだけ。
他に何かトラブルの種なんてーーーー

「・・・・・」

もう一回、スマホの確認。
誰からも連絡はない。鳳以外からも。

・・・芹沢からも。

(・・・来るわよね、彼奴。)

正直、文化祭で見た時は心臓が止まるかと思った。
驚きはその直後、怒りに変わったけど。

もしも鳳に余計な事を言ったら、その場で引っ張って目の届かない所まで行って、力の限りぶん殴ってやろうとまで思っていた。
二度とこっちにちょっかいを出すような気がなくなるように。

それはーーーバンドとの決別の意味合いを含んでいたとしてもだ。

(ーーー違うわ、私が悪いんじゃない。そもそも私、他のメンバーなんて要らないもん!拓海が悪いのよ、勝手に他の奴を誘ったりなんかするからーーー)

それでもリーダーは笛寺で、そのリーダーが良いと言ったから、しぶしぶながら居ることを認めたけど。

でも、別に今からでも居なくなってくれて良い。
全然構わない、自分的には。

「千歳ちゃーん?そろそろ時間じゃないのー?」
「!はい、ママ!今行く!」

木崎は慌てて荷物を持って、階下に下りた。

鞄の中に入れてあるのど飴が一粒、外ポケットの中でコロコロ転がった。