「良いなあー!」
「あはは・・・あ、もうこんな時間っ!行ってきますっ!」
「はーい、行ってらっしゃー「きゃあっ!あたたたた・・・」・・・い。」
相変わらず転びやすい娘に苦笑しつつ、遥は朝食に焼いていたベーコンをひっくり返した。
「ふあ・・・おはよう。あれ?可憐は?」
「あ、お父さん!おはよう!」
「おねーちゃんはフェスだってー。」
「フェス?」
「レインボーフェスタっていう、バンドのイベント!おねーちゃんの友達が出るんだって。あーあ、美梨も行きたかったー!」
「駄目!美梨は今日、算数の宿題終わらせる約束でしょ?守ってもらいます!」
「むー!」
「そもそも普段からやってれば、今日だって遊びに行けたの!美梨はその気になれば早いんだからさっさとやって、今度の夏休みこそちゃんと宿題を耳揃えて提出しなさい!」
「・・・はあい!」
「ははは・・・」
健二は苦笑しながらポタージュを飲んだ。
「でもバンドのイベントか・・・大丈夫かな、トラブルとか・・・楽器もあるし・・・」
「忍足さんが一緒だって言ってたし、だいじょーぶなんじゃない?」
「ああ、忍足君一緒なんだね!それならお母さん安心!」
「・・・・・・」
それはそれで複雑な気分になる。
家族じゃない男に娘を預けるという、微妙な父親心。
「大丈夫だよ?」
「え?」
「忍足さんは多分、他の人が好きっぽいから大丈夫だよってば。」
「そ、それもそれで微妙だ・・・!」
「え、そうなの!?お母さんそれ初耳だよ!?」
「あれ?これ言っちゃダメなんだっけ?当事者じゃないからOKだったっけ?」
可憐はもう、この頃には外を歩いていたので、家族がこんな会話をしているのを知らないで居られた。
「なあ侑ちゃん、どうしてもあかん?」
「あかん。希望に添えへん未来しか見えへんさかい。」
「やっぱりあかんかぁー・・・」
はあ、と肩を落とす恵里奈は、忍足に今「フェスで自分好みっぽい男子が居たらバンド名覚えといて」と頼んでいたところであった。
忍足からしてみたら冗談じゃない。好みっぽいとか、そんなもんわかるか。
「今日は謙ちゃん来んねんな?一緒に回るん?」
「いや。彼奴は彼奴で友達と来るさかい、日中は別々やな。合流はもうフェス終わってからになるわ。」
「ふうん・・・その謙ちゃんのお友達さんはお夕飯来おへんのん?」
「らしいわ。」
「来たらええのにから。」
「俺もそう言うてんけどな。でもまあ、気を使ってるとか言うよりは、最近塞ぎがちで早よ帰りたいんちゃうか、て話しやったけど。」
「あら。まあ年頃やし悩みには事欠かへんやろな。まあまた誘ったりいな。」
「・・・謙也が居ったらな。」
そんなん関係なく誘ったりいな、という姉は自分の人見知り加減をまだわかってくれていないのだろうか。いや、分かってて言ってるのか。
「え?でもじゃあ、侑ちゃんは誰と行くん?」
「俺は基本可憐ちゃんと。」
「可憐ちゃん・・・て、副リーダーの方の子やっけ?」
「せやで。」
ドジな方、という覚え方をしない辺りが、忍足家の育ちの良いところである。
それはそれとして、内心でドジな方の子やんね、とインプットはされてるけれど。
「そもそも可憐ちゃんのつてでチケット貰うてるさかい。」
「そっか、そういえばそうやっけ。あれ、リーダーの方の子は?」
「茉奈花ちゃんは用事があって、遅うなるらしいわ。来る気はあるさかいチケットは渡してるけど、最悪間に合わへんかもしれへんて。」
「あらまあ、間に合うとええね。でもまあ、それはそれとしてそれなら気付けたりや?バンドのフェスなんて、人が沢山で楽器も沢山、おまけに食べ物や飲み物みたいな零すものも沢山やで。」
「それは俺も思うてる。」
そういう意味では、今回謙也が別行動になったのは僥倖という他なかった。
可憐に注意しながら謙也の相手なんて、体が2つないと無理。過労死しちゃう。
ただでさえ、今日も暑くて体力使いそうなのに。
(夏やなあ。)
ああ、暑い。暑い、暑い。