一方、立海テニス部一同は既に現地に着いていた。
「あいつ等ももう来てんだよな?」
「ああ。今受付が終わった所で、衣装で揉めてるらしいね。」
「衣装で揉めてる?」
「五十嵐がね。早く着てしまいたいってはしゃいでるらしいんだけど、直前じゃないと汚すから。」
「衣装などあるものなのか?確か以前のライブではーーー」
「以前のライブは、あくまで学校の行事ですからね。おまけに入学したての入学ライブですから、制服が一番向いていたのでしょう。」
「む・・・確かに、そう言われてみれば。」
「衣装って、どういう風に調達するんだ・・・?」
「レンタルじゃないんか。あくまでメインの部分は演奏じゃき。」
「まあ、昨今は探せば大抵のものはどこかにあるものだ。レンタルであっても、大概の衣装は手に入るだろうな。」
なんて話している内に、一同は参加者の待機スペースに入った。
待機スペースといっても、ここに居なくてはいけないとかそういう義務があるわけじゃない。
あくまで参加者のホームベースという役割だ。
「広いな・・・」
「確かにね。既に衣装の人も見かけるし、逸れるのは簡単そうだ。」
「で?どの辺居るわけ?」
「Gの2、って言ってたかな。」
「Gの・・・」
「む、あの辺りではないか?」
なんて、固まってちょっときょろきょろしている一同は、ビードロズを探すのに集中してるせいで、全然周りの視線に気づいていない。
「え、あの人達誰!?かっこよくない!?」
「え、参加者かな!?」
「違うんじゃない?楽器持ってないし。」
「じゃあ応援なの!?誰の!?」
「何だあの目立つ集団・・・」
「腕章がない・・・って事はギャラリー側か。」
「うーわ、怖!参加側だったら、ぜってーあっちに女子の票流れんじゃん!」
「ねーねー!あっちにすごいかっこいい男子の集団が居るんだって!」
「え、嘘ー!」
「見たい見たいー!」
「イケメンの集団か・・・」
「マジ迷惑なんだよなー!」
「フツメンの影薄めてくれるなよー!」
「・・・来たか。」
「来ましたねえw」
「や、やっぱり皆の事ですよね・・・」
「え?何が?イケメンの集団が?」
「そりゃそうでしょ。」
「寧ろあいつ等以外に、イケメンの「集団」って居るわけw」
「・・・あ!ほら、ひょーてーテニス部!」
「ああ、確かにそれはそうかもしれません・・・」
「え、テニス部の美形率改めて考えたらやばなくない?」
「やばいねwあいつ等全員揃ったら、多分ジャニーズのグループに間違われちゃうw」
テニス部なのに何故よ。
そう考えるとおかしくて棗がケラケラ笑っていると、その笑い声を目印(耳印?)にして、人波からテニス部が顔を覗かせた。
「やあ皆、おはよう。」
「皆おっはー!元気ー?紀伊梨ちゃんはめちゃんこ!元気です!あーん、早く始まんないかなー!もうさ!もうさ!午前と午後と、一回づつやりたいよねー!」
「五十嵐さんは朝からフルスロットルですね。」
今からこんなエンジン全開で、体力持つのだろうか。
持つのだろうな、紀伊梨だもん。
「この気温で午前と午後一回づつ生演奏は倒れるじゃろ。」
「えー、倒れないよー!まあ、終わったらちょーっと!眠くなる、かも!しんないけど!」
「絶対ちょっとじゃ済まないと思うけどな・・・」
「帰る体力は残しておけ。その調子で午後まで過ごすと、19時には動けなくなる確率87%だ。」
「えー!大丈夫だもーん!」
「それはお前の楽器か?」
「そう、ドラムwもうちょっとしたら、置き場所が開くから台車で運ぶけどw」
「ここまでどうやって運んだのです?」
「え、車車w親父が軽トラ借りてくれたのw」
「倒れるのではないのか?」
「実は、荷物の監督が必要な場合は人が乗っても良いのよんwブイw」
「む、そうだったのか。それは知らなかったな。」
(いつかやってみたい事の一つ・・・羨ましいですね、黒崎君。)
「どうだい、コンディションは。」
「普通。いつも通り。」
「そう、良かった。結局、いつも通りが一番だからね。」
「まあね。後は、昼を食べ過ぎないようにして・・・あ!」
「うん?」
「そうだ、精市達お昼どうするの?」
「お昼?昼食の話かい?そっちに合わせようと思っていたけど。」
「あ、そう。いや実はね、私達今日の昼は奢って貰う予定があって、」
「よ!おはよ。」
「おはよう御座います。今日は来てくださって、有難うございます。」
「おう、頑張れよ!って、まだちょっと応援には早いか。」
「ふふふ!そうですね、演奏は午後なので。でも、有難うございます。」
「午後か・・・衣装って結局、まだ着てねえんだな。」
「はい。やっぱり、汚すといけないので。」
「お前の分は?」
「え?」
「あんの?ほら、演奏しねえから、別に無くてm「要るよ!何言ってんのさブンブン、要るよ!うちの!メンバーなんだから!衣装も登録もみーんな一緒なのー!」何だよ、わかった、わかったって!」
「どうしたんだい?」
「いやごめんね、ちょっとw今あいつ、メンバーとかメンバーじゃないとか、そういう話に神経過敏になってるからw」
丸井自身も、ステージに立たないから要らないよね方向というよりは、立たないけどあった方が良いよね方向に話をしたかったのだが、紀伊梨の剣幕に押された。
「喧嘩でもしたんか。」
「いやいや、全然そういうわけじゃw」
「ちょ、ちょっと手続きの話で色々・・・・」
「まあ、別に心配してくれるような話じゃないから。それよりあんた達、これからどうすんの?昼一緒としても、昼までも結構間があるけど。」
「え、ステージ見るっしょー?見るよね?」
「確かに、ただ待つよりは他のステージを見ていた方が有意義ですね。」
「ああ、折角来たんだしな。」
「ん・・・・・」
「柳?どうした?」
「いや。お前達。余計な世話なら聞き流してくれて良いんだが・・・・」
「「「「?」」」」
「以前会場の下見に行った際に暴言を吐かれたと言っていたグループは、やはり参加しているのか?見るのか?」
何人かの口が「あ」の字に軽く開いた。
半分以上忘れてた者も居るし、柳生あたりはそもそも知らないのだが、ビードロズは全員覚えている。紀伊梨でさえも、あの一件はがっちり覚えている。
「見るよ!ちゃんとチラシにも名前書いてあるもんね!でもそれはそれとして、今度酷いこと言ったらちゃんと!今度こそ!謝ってもらいやす!」
「今度と言わず、今行けば良いのではないか?それこそ演奏前に気になることは片づけて置いた方がーーーー」
「ま、まあまあ・・・余計揉めるかもしれないから、後にした方が良いと思うぜ?」
「む・・・・それもそうか。」
「本人らはどこに居るんじゃ。」
「えーと、A4・・・もっとずっとあっちすねw」
「・・・すみません、話が見えないのですが、何かあったのですか?」
「ああ、そうねwお前は知らないねw」
「俺から説明しておく。柳生、実は今年のGWの事なんだが、」
「春日は大丈夫かい?」
「はい。すっかり平気・・・・というと、嘘になりますけど。」
「やっぱり、まだ気になるよね。特に言われた内容からすると、今日もそっくり同じことを言われかねないし。」
「はい・・・でも。」
「うん?」
「・・・お返事をするために、今頑張ってる最中なんです。ですから・・・今度はもっと、返事が出来ると、思います。」
今度会ったら、そして同じ事を言われたら、その時は伝えたい。
作詞にはちゃんと意味も力もある事を。
「そう。ふふふっ!大きく出たね、凄いや。春日が人に言い返すなんて。」
「い、言い返すつもりはないんです!寧ろその、お礼を言っても良いかな、なんて・・・・」
「お礼?どうして?」
「自分を見つめなおすきっかけになったと思うので・・・」
「お人よしだよなあ、あいつ。」
「・・・・・・」
「痛!何だよ・・・何?」
「いや、ちょっとイラついて。」
「は?」
「お前、兄貴と一緒に抜け駆けしてキーボード見てたんだろ。」
「そりゃしょうがねえだろい、偶々だし誰にも言えねえし。」
「お前さあ、前から思ってたけど、なんでそんな運が良いの?」
「運?」
「偶々居合わせた事例が多くないかって話をしたいの。別に今回の事に限らないけどさ、」
「それ偶々じゃないかんねw」
今まで別の話をしていた棗が、割って入ってきた。
「どういう事?」
「何か後で桑原に話聞いたらさwブンブン君、居合わせたんじゃなくてひっついてきたんでしょw」
「そうだっけ?そっか・・・っぶねえ!何すんだよ!」
「そういう所が好かないんだよ、しばかせろ。」
「ど、どうしたんですか!?一体何の話ーーー」
「紫希ぴょーん!千百合っち達、どったの?きゅーに喧嘩なの?」
「あ、いえ、私にもよく・・・・」
「そーなの・・・!」
紀伊梨はバッと後ろを振り向いた。
今、声が聞こえた。
「たくみん!」
紀伊梨が立ち上がって、ビシ!と指さした先。
そこには、芹沢と一緒に歩いていたツクヨミの沖野が居た。
「たーくみーん!」
「誰?」
「ええと、今話していたグループのメンバーの方で、」
「む!ということは、彼奴がこちらに無礼を働いて来た奴か?」
「いや、そうじゃないと思うよ。確か、女子だったって聞いたからね。」
「隣のやつ誰だろ。」
「知らないよねw腕章してるし、知り合いグループとかかなw」
近づいてくる紀伊梨に、沖野は面倒だからさっさと立ち去りたい気持ちと、初対面の時も思ったけどやっぱり可愛いと思う気持ちがいっぺんに天秤にかかって、結局足が止まってしまった。
「たくみん、おっひさー!」
「・・・・久しぶり。」
「誰?」
「フェスの出場者。下見の時に会ったことあって。えーと、グループが・・・」
「ビードロズ!です!」
「そう、それ。」
「へええ・・・」
芹沢はちょっとにやつきそうになりながら沖野を見た。
沖野と芹沢は友人同士だが、女子に対して顔を赤くしている沖野なんて見たことない。
「そっちの人はー?」
「ああ!えと、俺は芹沢正樹。最近メンバーに入ったんだ。よろしく。」
「よろよろー!ねー、他の人はー?」
「ああ、他はあっちで待機してる。と、思う。」
「ふーん。ちーちゃん居る?」
「ああ、居るよ。」
今度は芹沢はぎょっとした。
沖野の個人的な知り合いじゃなくて、木崎の事を知っているのか。
マジか。よく知った上で関わろうとか思えるな、自分ならしたくない。
「ほんとーは紫希ぴょんにこないだの事謝ってほしーんですけど!」
「いや、悪いけどそれはーーー」
「でも紫希ぴょんが良いよって言ってるから、それはもう最悪出来なくてもいーよ!」
「あ、そう・・・?」
「でも!もう!やらないでね!」
「・・・・」
「・・・何があったのか細かくは知らないけど・・・・」
「・・・正直、保証しかねる・・・」
「ほしょー?しかねる?」
「わかったって返事できません、って意味。」
「なんで!?」
「無理だよ、彼奴に人に向かって謝らせるとか反省させたりとかなんて・・・」
例え紫希が全面的に謝罪を受け入れる態勢になってくれていて、ごめんと一言言えばにっこり微笑んで気にしてませんよ大丈夫、と言ってくれるレベルだとしても、木崎は謝らないだろう。
そういう性格なのだ。よく知ってる。従兄弟だもん。
「えー!」
「俺に言わないでくれよ、悪いとは思ってるけど無理なもんは無理なんだよ。」
「・・・・ねえ、えーと・・・ビードロズ、さん?」
「んにょ?」
「基本的には無理だけど、もしかしたらタイミングが合えば謝るかもしれないから。その時は、謝らせようか。」
「え、ほんと!?」
「はああ!?」
信じられない、な顔でこっちを見てくる沖野に、芹沢は苦笑した。
いや、わかる。気持ちは分かるけど。
「大丈夫、大丈夫。考えあっての事だから、多分成功するって。それに、タイミング次第って言っただろ?絶対とは最初から言ってないさ。」
「そうだけど・・・・」
「もしも謝って貰えそうな時、近くに居たら呼ぶからさ。それまでは、悪いけど。」
「ほいほい、おけー!」
芹沢の考えは、勿論彼。
鳳長太郎である。
木崎の入れ込みようからして、まず間違いなく鳳を呼んでいる。
今朝も帰りたいとか言ってなかったし、誘いにOKが出たのであろうことも想像がつく。
木崎が鳳の前では努めて優しい女子で居ようと振る舞っているのは、先日の文化祭でもうわかった。
足元を見るような形になってしまうが、鳳の前であれば木崎に謝らせるのは簡単だろう。
「・・・・・・」
もっとも、この考えは芹沢の持つある考えと表裏一体なのだが。
隣の沖野さえも、まだそこには思い至らないのだった。