「はあ、はあ、はあ、はあ・・・!」
木崎は全力疾走していた。
ここ最近で間違いなく、一番必死に走った。
途中何度か人にぶつかったが、勿論謝らない。
「・・・・!あ、あの、鳳、君、」
「ん?あ!木崎さん!」
そうなのだった。
木崎はさきほど、鳳からもうすぐ会場につく、のLINEを受け取って迎えにきたのだ。
「はあ、はあ、はあ・・・・!」
「大丈夫?ごめんね、急がせちゃって。」
「う、ううん!大丈夫、これ、大丈夫なやつだから!」
「そう?それに、今は抜け出して大丈夫だったの?もうそろそろ出番だよね?」
「平気、平気!結構時間余裕あるから!」
「そうなの?なら良かった!」
嘘である。
時間はギリギリだったが、鳳の誘いとあらば木崎はどんな用事を放り出してでも向かうだろう。
もし出番の途中でも、呼ばれたらマイクを放り出してステージから飛び降りることを躊躇わない。木崎はそういう性格だ。
「ごめんね、本当はもっと早く着けると思ったんだけど、遅くなっちゃって・・・はい、これ。」
「これ・・・・」
「差し入れ。シュークリームだよ。凄く美味しいって評判で・・・ああでも、そのせいで並んで遅くなっちゃったんだけどーーーー」
「ううん、そんなの良い!そんなの全然良いの!嬉しい!私これ大好きなの!」
「そうなんだ!それなら良かった。」
ホッとした様子で微笑む鳳に、木崎は胸に温かいものが広がるのを感じた。
ああ。やっぱり鳳は優しい。
この意地悪な人間ばっかりの世界で、鳳のなんと輝くことか。
「もうすぐだよね?頑張って!」
「うん!頑張る!」
木崎は心からそう返事した。
頑張るとも。
貴方が頑張れと言うのなら。