我は汝に誓う、わが祖国よ。
なんという荘厳な題名。
逆に何かのアニソン、キャラソンじゃないの?
と騒めかれる中、ボーカルの木崎だけが沈黙してイントロが始まった。
これ。は。
「・・・ジュピターだー!」
そう。
ホルストの木星。日本では、平原綾香がJupiterと題して日本語の歌詞を付けて歌ったものが大きくヒットし、有名になった。
しかし、もともと洋楽であるこの曲は、先に英語の詞がついている。
それがこれ。我は汝に誓う、わが祖国よである。
更に更に、ロックアレンジのおまけつきだ。
「こういう方向なのかw」
「ここはクラシックアレンジ特化型のグループなのかな。」
「成程。氷帝は育ちの良い生徒が多いと聞いていますから、クラシックの方が馴染みのある曲なのかもしれませんね。」
「ああそういう理由もあんのかな。確かにね。」
「そのようなやり方は良いのか?」
「良いんじゃねえの?音楽なんて、別にルールがあるようなもんでもないだろい。」
「ロックじゃない曲をロックアレンジするのは、軽音楽ではよくやる事なんです。」
「ふむ、そういうものなのか。」
「でも、元の曲と大分違うっていう意味ではハードル高そうだけどな・・・」
桑原の言う事は皆なんとなく感じていた。
方向性が違いすぎて、下手なアレンジは逆にダサくなる。全然方向の違う音楽を混ぜると言うことは、常にそのリスクと隣合わせ。
(それでも聞き苦しさは感じない・・・これを編曲の腕が良い、とでも言うのだろうな。)
元々荘厳さのある曲だが、それを損なわずにちゃんとロックにしている。
これだけでもうレベルの高さがわかる。
紀伊梨もそう思っているかなと柳が隣に目を向けると、紀伊梨はもう周りなんて見ちゃいない。
来る。
「・・・I vow!to thee, my country!(我は誓う 我が祖国よ)
All earthly things above!(地上のあらゆるものよ)」
木崎の声は、とても良く通った。
年頃の少女らしい高い声だけれど、発音の流麗さと、観客に物怖じしない心が声音に宿っていて、曲の荘厳さをより一層増していく。
しかし、バックの楽器に負けないように高らかにーーーそう、高らかにとしか言いようのないような声で歌い上げる。
木崎がどんなにめちゃくちゃしていても、出て行けと言われない唯一にして最大の理由がこれ。
この声の代わりを、笛寺も沖野も持っていないから。
「The love that never falters!(揺るぎなき愛)
The love that pays the price!(贖いし愛)」
今まで振るってきた理不尽。めちゃくちゃ。迷惑。
それら全部帳消しにするかのような迫力で、木崎の声は会場中を突き抜けていった。
「「・・・・・・」」
「・・・迫力やなあ。」
「ほー。」
可憐はぽかーんとしていた。
あれが木崎。自分の知っている木崎千歳とあまりに違う。
凛々しくて、強くて、堂々としていて。
いつも灯っている、ヒステリックな色が今は目から消えている。
代わりに宿っているのは、絶対の自信。
「なかなかやるじゃねーか!見直したぜ、あの女!」
「なかなか、か。安音は本当に偉そうねえ。」
「なかなかどころじゃないよ、凄いよっ!」
「聞いてても、午前の高校の部と遜色あらへんかったからな。」
というか、もっと言うともう1つのグループと比べても圧倒的にツクヨミの方がレベルが高い。
「でも・・・紫希ちゃん達、大丈夫かなあっ?」
「大丈夫て?」
「あの、私が心配することじゃないってわかってるんだけどっ。でも、自分達に嫌な思いさせた相手が上手っていうのは、ちょっと・・・理不尽を感じるんじゃないかなって思って。」
氷帝テニス部はまさによくそういう理不尽を与える側に回りがちである。
何せ跡部は自分達がNo.1ですけど何か?な態度が基本なので、何だあいつ等偉そうに!とガルガルされ。そして実際強いもんだから、偉そうな上に強いとかむかつく・・・・!という、羨望と嫉妬と割り切れなさが混じった怒りをよく向けられている。
「でもま、しょーぶってのはそーいうもんっすからね!相手がどんなにむかつく奴でも、勝ちは勝ちで負けは負けっすよ!」
「そ、そうなんだけどっ!なかなか友達だけにそう割り切れないっていうか・・・安音ちゃんは凄いねっ!」
「へへん!まー、俺は勝負の世界に身を置いて長い、ベテランっすからね!」
「いや、嘘ですよ嘘。此奴、勝てなかったらずるだとかもう一回勝負しろとか、すーぐ言い出しますからね。」
「おい、余計な事言うなよ!」
「まあでも実際問題、心理的にやり難いんとちゃうかて言うのんはあるな。木崎さんの方は他のグループとかどうでもええいうか、勝手にやっとれみたいなところあると思うけど、周りは違うやろし。」
「他のグループ?鳳長太郎以外どうでも良い、の間違いでしょ?」
実にズバーっと安音は言い切った。
「グループどころか彼奴、他のメンバーだってどうでも良いと思っーーーむぐ!」
「安音ちゃんっ!しーっ、しーっ!」
「むむむー!」
「・・・・・」
「忍足先輩、どうかしたんですか?」
「一応な。本人が居ったら事やさかい。」
この神崎安音という少女は、どうしてこうノンデリカシーな事をでかい声で言うんだろうか。忍足には一生理解できなさそうな人種である。
ざっと周りを見て姿が見当たらなかったけど大丈夫だろうか。
まあ、こんなに煩いのだし、余程近くに居なければ聞こえないとは思う。けど。
その鳳は、ただただ純粋に木崎に尊敬の念を抱いていた。
勿論たまたま可憐達と至近距離の位置にいて話が丸聞こえだったとかそういう事もなく、純粋にステージを楽しみ、そして感動していた。
その力量にも感動していたけれど、何よりあの木崎があんなに堂々としている事に感動した。
(木崎さん、いつも人の後ろに居るタイプなのに・・・)
勿論本来の木崎は全然そんなタイプじゃない。が、鳳にとっての木崎千歳はそういう女の子だった。
鳳の見ている聞いている限り、木崎千歳はいつもそういう女の子だった。
でも今日の木崎は違う。
「かっこいいなあ・・・木崎さん。」
心の底から鳳はそう思った。