ビードロズは中学生の部で3組目。
一度に2組まで舞台に上がるので、ツクヨミが終わればもう直後に本番である。
「きたきたきた、この緊張感w手汗がやべえw」
「スティック落とすんじゃねえぞ。」
「するかw紀伊梨のピックの方が心配だわw」
「お、落としたら拾いますから!」
「紫希ぴょん、ぜーーーったい、いっちばん前に居てね!絶対だかんね!皆と!一緒に!一番前に!居てね!」
「は、はい!」
「よーし、皆行くぞー!」
手を前に出して。
ちゃんと4人分重ねて。
「ビードロズ、発進だーーー!」
「「「おーーー!」」」
その後紫希は、急いで裏手からステージ正面に回る。
人がめちゃくちゃ沢山居るけど、最前列に行かないといけない。
(皆はどこに居るんでしょう・・・?なるべく皆で行かないと・・・)
何せ、「皆と一緒に一番前に」がリーダーのおおせだ。
ちょっと迷惑かもしれないけど、ずっと陣取るわけじゃない。今だけだから見逃してもらおう。
「す、すいません、ちょっと通してください、すみません、ちょっと・・・え?」
人をかき分けかき分けどうにか前にーーー取りあえず元皆で居た位置に進んでいると、人ごみの中から手が伸びてきて、紫希の手を捕まえて、ぐいと引っ張られた。
「よっ・・・と!」
「丸井君!」
「お疲れ。大丈夫だったか?」
「はい。でも丸井君、どうしてこんな所に・・・」
「ん?お迎え?」
「お迎え?」
「今もう俺たち最前列に移動してるんだよ。どーせ五十嵐の奴、一番前に居ろって言うだろうし?」
「ああはい、その通りです・・・」
「だろい?だからあっちで先に一番前行っといて、一人はお前のお迎え。わかんなくなるだろうしって事で。」
「そうだったんですか、すみませんわざわざ・・・有難うございます。」
「良いよ。」
因みに紫希は知らない事だが、一人とか言いつつ実質皆の中で誰が行くかは内定がとっくのとうに出てたようなものであった。
別に理由を作らなくても、お前が迎えに行けと言ったら多分丸井はあっさり了承するだろう・・・とか皆思っていたのだが、それ以前に「春日のお迎えが誰か一人欲しいね」と幸村が言った直後に、誰に水を向けられるより先に自分が行くと言い出したので、ああ・・・そう・・・な気持ちに何人かなった事は、その場に居た丸井も気づいていない。
「あいつ等どう?」
「どう?というと・・・」
「緊張とかしてる?」
「ええと・・・普通、程度に。いつもと同じです。」
「へえ?良いじゃん。」
大舞台前に普通にしていられるというのは、重大かつかなり難しい。丸井は・・・というかスポーツやってる者は大抵、それを身に染みて分かっている。
「ブン太、春日!こっちだ!」
「ああ、皆・・・」
「お。ちゃんと最前列じゃん?」
「見える所に居らんと、後々煩いじゃろうからの。」
「しかし・・・入学歓迎会の時も思ったが、思いの外、一番前というのは見づらいな。」
「こういうものは大抵そうだ。近ければ無条件に見やすいわけじゃない。この規模だと、もう6.4m程下がった方が見やすくはある。」
「ただまあ、こういうものは気持ちの問題もありますからね。今必要なのは私達が多少見づらくても、ビードロズの方から確実に視認できる位置取りでしょう。」
「はい。皆その方が喜ぶと思います・・・」
ああ、ドキドキしてきた。
自分がステージに立つわけじゃなくてもドキドキする。
ふうう・・・と深呼吸する紫希望のすぐ隣で、幸村は無言でステージを見上げていた。
(・・・ここまで来たんだね。)
元々は自分が提案したことだった。
それが本当に参加という形になり、練習して合宿して、今親友と恋人はあそこに立っている。
勿論これはトーナメントでもオーディションでもないから、勝ち負けとか合否とかそういう話じゃない。
でも、そういう話じゃなくても、ビードロズはこの日のためにずっと取り組んできた。提案して申し込みを受けた5月からずっとだ。
軽い気持ちでやったら良いよ・・・なんてもし誰かから言われた所で、ビードロズはしないだろう。そういう皆だから幸村はビードロズのファンなのだ。恋人だとか親友だとか、そういう事とは別の、純粋な尊敬。
「・・・ふふっ。」
隣で口から心臓が出そうな顔をしている紫希を見て、幸村はちょっとだけ笑った。
何事もありませんように。
ちゃんと実力を発揮できますように。
それは、内部の人間だから抱える心配だ。
自分はメンバーではないから・・・言うなれば、外の人間だから。
だから、ワクワクしかしない。
必ず今日此処に居た人間に、ビードロズの名は刻まれる。
そう信じているから。