「く~や~し~い~~~~~!」
網代はトントンと踵を鳴らした。
「タッチの差で見られなかったなんてー!あーん、こういうのは大抵後ろにずれ込むもんだと思って油断したわー!」
「いやまあ、後ろにずれ込んどることはずれ込んでんで。ほんのちょっとやけど。」
「大分スムーズに回してるよねっ!私もちょっとびっくりしちゃったよっ!」
午前の野暮用を終えてやっと合流した網代は、タッチの差で見られると踏んでいたところが見られないで終わってしまったのでとても悔しかった。
確かにほぼ昼一と聞いてはいたけど、どんなに時間が押してても昼休み0にして帳尻を合わせまーす!みたいな事は出来ないから、最悪ツクヨミは見逃してもビードロズは見られると思っていたのに完全に当てが外れた。
「あーあ・・・まあしょうがないわね!この際知らない人のでも良いし、演奏を楽しむことにするわ。」
「あ、うんっ!それが良いよね、折角来たんだしっ!」
「何組か他のんも見たけど、ちゃんとそれなりにレベル高いしなあ。知らへんグループでも十分楽しいとは思うで。」
「やっぱりそうなの?実はね、それこそ折角だし私ちょっと調べて来たのよ♪どうやら前年度の情報を見るに、午後の此処と、後此処がね、」
(茉奈花ちゃん、本当に用意が良いなあ・・・)
もし立場が逆だったとしても、多分可憐はこんな事しない。
というか、出来ない。その発想もないし、情報を集めると一言で言ってもどうやれば良いのかわからないから。
こうして先手を打って、その上でもう楽しむ方向にさっと切り替えられる網代の事が、可憐はとても眩しい。
「それでね、此処がバラード調の曲が得意なんですって・・・可憐ちゃん?聞いてる?」
「えっ!?あ、うんっ!聞いてるよ、大丈夫っ!」
いけないいけない、また目の前から意識が飛んでた。
しっかりしないと。ちゃんと考えて行動しないと。
「可憐ちゃん、他どっか見たいとこあらへん?」
「うんっ!私、他のグループは全然知らないからっ!さっきまで安音ちゃんも楓ちゃんも居たから、聞いておけば良かったなあっ。」
「あら、安音ちゃんも居たの?楓ちゃんっていうのは?」
「あっ、楓ちゃんは安音ちゃんのお友達さんだよっ!お兄さんが出場してるんだって・・・って、それももう終わっちゃったけどっ。」
「ふうん・・・ところで、勧誘はした?氷帝に来るのよね?」
網代的には、中院は会ったことがないからまあ置いといて、安音は面接に来たら○をあげても良いと思う逸材だった。まあ元々そんなに落とすわけでもないのだが。
「う、ううん・・・」
「一応声はかけた事はかけたで。」
「あら。その感じじゃあ、あんまり手ごたえはなかったかしらん?」
「うん、正直・・・団体行動とか男らしくないっ!って言われちゃってっ。」
「あははははは!そうきたわけね、面白い子だわほんとに!」
「どうも神崎さんは、男らしいいう概念が独特やねんな。」
「そうねえ・・・はまると有能だと思うんだけど、ね。ああ見えて目端が効くタイプと思うわよ。」
「う、ううん・・・」
「そっか、可憐ちゃんは反対派だったわ、ね。」
「は、反対ってほどじゃないけどっ!何かこう、手綱を取り切れなさそうっていうか・・・」
「まあ、トラブルメーカーな雰囲気はしてるさかいな。」
ただでさえトラブルが多い部活なのに、これ以上進んでトラブルの種を増やすような子を入れていいものかどうかと聞かれると、慎重派の可憐はどうしても二の足を踏みがちである。
しかしまあ。
トラブルの種が云々とかいう話をし始めると。
「部長様がそもそもトラブルメーカーだから、今更と言えば今更よね。」
「うん、それもまあ・・・」
「わかってて在籍してるんやろて言われたら、何も言い返せへんさかいな。」
学園一のトラブルメーカーを抱え込んでおいて一体何を、と言われればもうどうしようもない。
安音とても跡部の前では霞んで見えるくらいなのだ。こと目立つことにおいて、跡部を上回れる人間など氷帝にはいまい。
(・・・んっ?ていうか私、跡部君って今聞いて、何かを思い出したような・・・・何だっけ、跡部君、跡部君・・・)
「・・・・!あーーー!」
「えっ!?何々!?」
「どないしたん?」
「わ、私ちょっとっ!今から帰る・・・い、いやそこまではしないとしても・・・ちょ、ちょっと会場から出るねっ!二人で見ててっ!」
「ちょっと、どうしたの急に?」
「この間の練習試合の解析ファイルっ!私作ったままアップロードするの忘れてて・・・!」
締め切りとしては今日中だからまだ怒られないだろうが、帰ったら間違いなくバタンキューで眠るだろう。後回しに出来ない。
「い、今やらないとっ!」
「今出来るもんなん?」
「まとめはもう、ちょっと手直しするだけでOKだからっ!後は見直しして、フォルダ分けしてアップして・・・だから、スマホがあればなんとかっ!」
「手伝えるんやったら、何かやろか?」
「ううんっ!私の仕事だし、大丈夫っ!兎に角二人は見ててね、私これだけやってくるからっ!」
最早目の前のことしか見えていない可憐は、忍足と網代にあっさり背を向けて、さーっと走っていってしまった。
「・・・・これは、気を使われたのかしら?」
「いや、素やろ。取りあえずあれ片づけなと思うて、それで頭パンパンなんとちゃう?」
「まあそうよね。」
可憐は気を使ってくれる時、とてもとてもわかりやすい。
「ああいうところが可愛いわよねー。ちょっと抜けてるっていうか。」
「まあ、茉奈花ちゃんはどっちかいうたら隙のないタイプやさかいな。」
「それって褒められてるかは結構微妙よねー。」
「なんで?」
「だって、隙のない女子って男子的には「可愛げのないタイプ」って言いたい時に体良く使う言葉じゃない?」
「そういうつもりで言うたんとちゃうけど。」
「そう?」
「俺はどっちか言うたら茉奈花ちゃんみたいな方が好きやで。」
別に可憐みたいなタイプが嫌いだとは言わない。
好きなことは好きだけど。
でも、怖いんだもん。恐ろしいんだもん。
ああいうタイプの女の子。