First RAINBOW FESTA:Evaluation - 7/7


一方その頃、鳳は木崎を待って、別れた地点からごく近いベンチに居た。
本当に近い。別れた地点が余裕で視認できる所。

あんな成り行きで別れることになると思っていなかったので、待つ準備が出来ておらずーーーつまり、飲み物とか何も持ってないし冷えたタオルとかも持ってなくて凄く暑いのだが、万一にも勝手に動いて木崎が分からなくなったらいけないから・・・という理由で、律儀にずっと待っている。鳳はそういう性格だった。

「暑いなあ・・・」

こんなに暑い中、木崎はやってのけたのだ。
鳳は改めて尊敬の念を抱いた。

そしてそのせいもあって、背後から寄ってくる影に気づかない。

「・・・ていや!」
「ひいっ!?な、何!?誰・・・神崎さん!」
「お!覚えていたとは殊勝じゃねーか、感心感心!うん!」
「何目線の発言?」

首筋に何か冷たいものがと思ったが、安音の手を見るに、どうやらラムネの瓶を当てられたらしかった。
因みに空。くれたりとかそういうのは安音はしない。

「っていうか、誰?」
「楓、此奴があれだぞ!あのー、文化祭の時に居た鳳長太郎だ!」
「ああ、鳳君か。あんたまた、よりにもよってこんな大人しそうな子捕まえて。」
「ええと・・・君は?」
「初めまして、私中院楓。こっちの安音と同じで、外部受験で氷帝に入学予定なんだ。」
「ああ、そうなんだ!俺は鳳長太郎。よろしくね。氷帝の幼稚舎なんだ。」
「うん、その辺の事は大体聞いてる。」

穏やかな物腰。
柔らかな笑顔。
成程。安音と並べると水と油ばりに正反対。

「変な奴だけど、付き合ってみると悪いところばっかりでもないからさ。仲良くしてやってね。」
「ああうん、勿論だよ!俺の方こそ、よろしくね。」
「うん、よろしく。」
「で?お前はこのカンカン照りの中で何ぼーっとしてんだよ?」
「木崎さんを待ってるんだ。話してたんだけど、呼ばれて行っちゃって。」
「ああ、あの女。」

鳳は安音の発言を聞いて、ちょっと悲し気に眉を下げた。

「・・・神崎さん。」
「あ?」
「前も思ったけれど、人に向かって「男」とか「女」とか、そういう言い方は良くないんじゃないかな?もっとこう、女の子とか女子とか、そういう言い方を・・・」
「なんで?」
「なんでって・・・なんで・・・ううん・・・」

何故、と言われると鳳は一瞬ちょっと詰まる。

育ちの良い鳳は乱暴な言葉を使わないのなんて当たり前で、何故とか何故じゃないとかなんて考えてみた事もなかった。

「・・・だって、相手が不快に思うかもしれないよ?」
「ほー?んじゃあ、そいつがOKしたらOKって事?」
「そりゃあそうだけど・・・でも、世の中には嫌だと思ってても言い出せない人も居るし、」
「そんなもん知るかよ!嫌なら嫌って言えば良いんだよ。」
「う・・・・」
「おい鳳君、騙されちゃダメだよ。安音は詭弁が得意なんだから、いちいち真に受けてちゃ、それこそ言いたいことも言えないよ。」

中院は安音と古い付き合いなのでよく分かっている。
真面目で実直な者ほど、安音の良いようにあしらわれてしまうのだ。

安音は成績はさほどでもないが、テストで測れない賢さという意味では、これで結構聡いところもあるのである。いつもじゃないけど。

「あーっ、楓!お前どっちの味方なんだよ!」
「私は安音の友達ではあるけど、味方するかは別に別の問題だからなあ。」
「はああ!?そんなのありか!」

「・・・・・・・」

安音と中院が話している傍ら、鳳はかなり真剣に考えていた。
真剣に考えるなよと今しがた言われたけど、それでも真剣に考えてしまうのが鳳という男。

「・・・でも、俺はやっぱり良いことに思えないよ。」
「だーかーら、」
「嫌なら言えば良いっていう神崎さんの意見も分かるよ。でも、嫌だって言えない人は実際現実に居るだろう?流石にそんな人どこにも居ないなんて言わないよね?」
「・・・・それはまあ。」
「だよね。でも俺はそういう人達に向かって、そっちがそういう性格なのがいけないんだ、なんて言えないよ。世の中には色んな人が居て、要らない人なんてどこにも居ないんだから、俺はそういう人達とも上手くやっていきたいと思うんだ。」

(何かすごい壮大な話になってるなあ。)

最初は二人称の話をしていた筈だったのに、いつの間にか世間で要る人が要らない人がみたいな話になっている。
真面目なタイプだとは思ったが、ここまで真面目だったとは。中院は、持っていたラムネを一口飲みながらちょっと感心した。

しかもだ。
ただ真面目なんじゃない。鳳長太郎という人間は、大真面目に他人のためにはどうあるべきかという姿勢で物を考えている。

その結果。

「神崎さんだって、そういう人達皆居なくなれば良いなんて思ってないだろう?・・・思ってる?」
「う・・・いや、そこまでは思ってねーけど・・・」
「良かった・・・そうだよね。」
「おー。」
「おーじゃねーんだよ!楓、加勢しろよ!」
「だから、私味方はしないって。鳳君の方がまともな事言ってるもん。」
「はああ!?く・・・!」

(安音が大人しい子にやりこめられてるって、滅多に見ない光景だなー。)

大体往々にして、大人しい子と言うのは安音に対して言い返せなくて、折れてしまうのである。
勿論穏やかな顔して折れない・・・所謂魔王タイプの人間の世の中には居るし安音はそういう手合いが不得手だが、鳳は別に魔王タイプというわけでもない。

彼はただひたすら大真面目に、そうした方が世の為人の為だからという理由で安音に言葉を返している。

正義感という程押しつけがましいわけでもなく、プライドというほど強いものでもない。
ただただ、分かってほしくてあくまで真面目に言葉を重ねていっている。
なかなか稀有な人種である。

「・・・さてと。安音、帰ろ。」
「は?」
「いや、そろそろ木崎さん帰ってくると思うし。こんなとこで悶着するの嫌でしょ?っていうか木崎さんが可哀想だよ、今日頑張ったんだからさ。」
「む・・・・」
「ぶつかるの分かってるんだから、今日はもう辞めとこ。じゃあ鳳君、私達行くから。受験通ったら、来年からよろしくねー。」
「ああ、うん!俺こそよろしくね。」
「ちょっと待て!俺はまだ、」
「はいはい、時間切れだからね。」

これ以上食い下がっても、安音はおそらく言い返せないで終わるだろう。
人同士の会話にこんな表現もおかしな話だが、敢えて言うなら今の会話は安音の「負け」になる。
これ以上やっても勝てる未来なんてありそうにないし、さっさと引き上げさせてやるのがそれこそ友情というもの、と中院は考えているくらい。

(こりゃあ目付けられちゃうなあ。)

安音の中で鳳長太郎という人間が、今までに居なかったタイプの・・・まあ言うなれば「敵」である。
その事を中院は目で見て、今初めて実感した。