First RAINBOW FESTA:You are not - 1/6


「はあああああ・・・・・・」

ビードロズ+テニス部に更にAngelsプロダクションの2人を含めた一同は、会場の端っこに移動を余儀なくされてそこに居た。
原因は勿論、紀伊梨がばかでかい声で社長の安形をセクハラおじさん呼ばわりしたからである。

「では整理しますと、プールで中高生の女子を見ていたのは事実であると。ただそれはいかがわしい目的ではなく、アイドル候補のスカウトを探しての事であったので、セクハラ呼ばわりされる謂れはない。そういう事ですね?」
「そうです、わかってくれて何よりだ。」

安形は幸村の言葉にぐったりと頷いた。

「ですから社長、あのやり方良くないですってば。」
「いや、あのやり方じゃないとわからない事もあるんだって。セクハラと思われるのも承知っていえば承知だけど、まさかスピーカーに触れ回られると思ってなかった・・・声量を甘く見てたこっちのミスだな。」
「ミスねえ。」

(本当にミスなのか・・・?)
(言い訳かましてんじゃねえだろうな、とは思っちまうよなー、実際。)

特に幸村以外だと千百合と丸井と桑原だが、実際プールで現場を見ただけに本当か?と疑いの眼になってしまうのは避けられない。
真田も性格上本当かと問い詰めたいのは山々。アイドルとかスカウトとかそういう話に明るくないから、本当かもと思って黙ってるだけだ。

「で?お前はビードロズのスカウト?」
「はあ、まあ・・・・」
「どお?上手くいった?」
「・・・・・・いえ。」
「あらら。」

ふうん、と言いながら安形は顎を撫でた。

「ビードロズの諸君。」
「「「「はい。」」」」
「アイドル嫌?」
「紀伊梨ちゃんはなりたいです!」

びし!と手を上げる紀伊梨。

「ほおん。後の3人は?」
「その・・・私達、そういうつもりでバンドやってるわけでは・・・」
「芸能界興味ない。」
「これで食ってこうっていう目的じゃないんでw」
「・・・って事です。」
「ほー。なるほどな。うん・・・」

安形はじっと一人一人の目を見た。

「・・・うん、でもまあ嫌なら良いよ。勿体ないが、やる気のない人間を取ってもどうしようもないし。」
「え、待って待って!紀伊梨ちゃんはやりたいの!」
「あの、紀伊梨ちゃんはソロでも・・・」
「此奴、アイドル志望なんで。」
「バンドとか関係なく入れてやってくれませんかねw」

しかし、安形からは信じられない言葉が出てきた。


「残念だが、この4人のうち現時点で一番アイドルになれないのはそこのボーカルの子だ。」


全員が目を見開いた。
テニス部までーーー関根まで含めて全員である。

「・・・どういう事ですか!」
「それはないじゃろ、幾らなんでも。」
「同意見です。寧ろ、順位付けをするような言い方でなんですが、五十嵐さんはこの4人では一番アイドル向きかと思われますが。」

真田を皮切りに、テニス部の方から轟轟と納得できません発言が出る。
ビードロズは無言だった。びっくりしすぎて。

だって。なんで。だって。

まだ、ビードロズ全員レベル低いと言われたら悔しいながら納得はできる。
紀伊梨よりもこっちの誰それの方がより向いてる、という二番目めいた言い方でもまあわかる。
だが紀伊梨が「この中で一番」アイドルから遠いってどういう事だ。そんな事言うの、真面目に日本中探してもこの社長ぐらいしか居ないんじゃないかと思う。

「・・・ねー!」
「ん?」
「紀伊梨ちゃんアイドル向いてないの!?なんで!?」
「そりゃまあ、唯一にして致命的な欠点が君にはあるからなあ。」
「・・・ちめーてきって何ですか!」
「もしかして欠点って、この馬鹿さ加減の事?」
「いや違う。」
「馬鹿って言わないでよー!後結局ちめーてきってどーいう意味!?」
「致命的っていうのは、決定的というか・・・あまりに重大過ぎて取り返しがつかない、みたいな意味です。でも、そんな欠点一体どこに・・・」
「そんなの見ればすぐわかるさ。なあ、えー・・・五十嵐紀伊梨ちゃん?」
「はい!」


「君、恋をした事がないだろ?」


がつん、と頭を殴られたような衝撃が紀伊梨に走った。

え・・・という声にならない声が関根から漏れる。

「・・・え、その・・・社長。」
「ん?」
「何から言えば良いかわからないんですがその・・・ちょ、ちょっと待ってください、質問がとっ散らかって、」
「3つお聞きしてよろしいでしょうか?」

こういう時、誰より平静の取り戻しが早いのが幸村である。
ものの2、3秒でもう言うことを纏められる。

「先ず、そんな事があり得ると思えるんですか?」
「まあ少数派だろうけど・・・少なくとも女の子で中1になってて初恋まだっていうのは、多数派とは言えないっていうのは分かってるけどな。ただまあ、実際のところそうだろ?違うか?」

違うかと聞きつつ、違わない、という事を確信している言い回しだった。
これはダメだ、誤魔化しが聞かない。

「何故そう思われたんです?」
「歌い方かなあ。まあこれはなんというか、アイドルを日々世話してる人間の勘みたいなもんだから、具体的にここがこうだからみたいな事は言えないんだが。」

しかし、実際問題こっちの実情を当てられているので、そんな適当な事言ってとは言えない。なんとなくそう思う、という感覚が馬鹿にならないというのは、何かに打ち込んだ経験がある者なら否定出来ないものではあるし。

「最後ですが、恋愛経験がない、というのはアイドルにとってそこまで致命的なんですか?」
「それはもう。俺なら絶対自分のプロダクションには取らないよ、取るだけ損だからな。」

「ーーーー!」

ぎゅうっ、と歯を食いしばる紀伊梨にも構わず、安形は事も無げに話を続ける。

「はっきり言って、アーティスト系のアイドルを目指す以上恋愛ソングはほぼ避けて通れない。特に中高生の女子アイドルとなると、王道の顧客は本人と同年代の中高生達並びにそれより少し前後する世代の人間達だ。この客層に向かって恋愛ソング不可は話にならない。」
「ですが、恋愛ソングを歌わない方も世の中には、」
「ほら、今言ったろ?歌わない、って。そうだ、歌わないだけだ。歌えないわけじゃないよ。」
「・・・・・・」
「主義主張として恋愛を歌わないっていう方向で売ってる人間も確かに居るが、自分でそうしないと決めているのと、そうしようと思っても出来ないのとでは雲泥の差がある。」
「しかし!ーーーですが、歌っている人間の恋愛経験など、外から見ただけではわからないものであって、」
「そう思うのは素人だ。あれだけ歌えるボーカルなら、歌詞に気持ちが乗せられないことがどんなに大きいかわかるだろ?歌詞をなぞれたって、聞いてる人間はそれだけじゃついてこないさ。そんな甘い世界じゃない。」
「ぐ・・・・」

どうにか擁護しようとした真田だが、あっけなく返された。

「別にな、彼氏持ちであれとか付き合った人数0は不可とは言わないさ。ただ、片思いした事もないっていうのはもう次元が違う話になってきちまうんだよ。何せ人類普遍のテーマだからな、恋愛関係不可っていう縛りは芸能界じゃ大きすぎるぞ。」

「・・・・・・」

紀伊梨は黙って泣くのを堪えていた。
いっちばん気にしていた事を、絶対突かれたくない人間に突かれた絶望感。
他の人間ならともかく、プロダクションの経営者に言われたらもう認めるしかない。

でも。でも。
そんな事言ったって、こればっかりは努力じゃどうしようもないじゃないか。

別に初恋の経験がないのは紀伊梨がどうこうしたからとかしなかったからとかいう話でなくて、単純に運と縁の問題でしかないのに。それなのにそれでもってアイドルは無理と言われてしまったら。自分の努力のまるで及ばない理由で弾かれてしまったら、それってもうアイドルにはなれないって門前払いされてるようなものじゃないのか。

「さ、行くか。」
「えっ!ちょ・・・ど、どうするんですか?」
「え、どうも何も。4人中3人がスカウト蹴ってて、唯一の乗り気な1人はまだうちじゃ取れないんだから、この場の交渉は決裂。それでお終いだよ。」
「え、えええ・・・・・」
「惜しいと思う気持ちはわかるが、おそらく食い下がっても無駄だ。諦めろよ。」
「そんなーー「じゃあな、皆。スカウト云々は関係なく良い演奏だった。また来年聞かせてくれ。」

そう言って手を振って、軽やかな足取りの社長と重い足取りのチーフマネージャーはどこかへ去って行った。