First RAINBOW FESTA:You are not - 4/6


ここは会場の端。
人通りはそこそこだが、立ち止まってても邪魔にならない場所。

紀伊梨は黙りこくっていた。
色々ーーー本当に色々、良いものであれ悪いものであれ、衝撃が大きかったのだろう。あんなに普段煩いーーー悲しい事があってもなお煩い紀伊梨が黙って考える、という行動を取っているのを見れば周りもわかる。
そしてそれは無理もないだろうとも思う。
夢が一度眼前まで来たと思ったら、次の瞬間限りなく遠くへ行って、挙句自分の足首には今以上に進めないようにと枷が付けられたのだから。

「・・・・・・・」

「・・・・・・・」

この場に居るのは、紀伊梨。
それから真田、柳、仁王。

その中でも真田は、さっきから紀伊梨に何か言いたそうにしている。
そうして近づこうと足を一歩踏み出し、そして思案気な顔をしてまた元の位置に戻るという動作を繰り返している。

何か言ってやりたい。
友人として、ファンとして。
でも言ってやれるような事が無い。自分は音楽やアイドルの世界の事なんて全然知らないから。

大切な友達だから言葉を送りたいけど、大切な友達だから迂闊な事や適当な事が言えなくて結局黙る。
真田の思考回路は柳と仁王から見ても極めてわかりやすかった。この男はその性格故、放っておいてやるという事に向いてないのだ。まして紀伊梨のような、「面倒見てやらねばならない奴」認定を内心でしている物に対しては猶更そう。

(俺も離脱するべきじゃったか)

正直仁王は結構今この場が居づらかったりする。
面倒とかそういう事じゃなくて、身動きできなさ過ぎて息が詰まる。
沈黙は別に嫌いな方じゃないけれど、リラックスできる静寂とは今はかけ離れすぎていて。

いやしかし、離脱したらしたであの照り返しの下を歩かないといけないし・・・と、夏に弱い男の称号を色んな人から貰っている仁王が考えていると、とうとう柳が動いた。

「五十嵐。」
「・・・・なーに。」
「落ち込むな、とは言わない。ただ、いつまでもパニックで居ることを良しとするな。」

ぴく、と体育座りする紀伊梨の指先が動く。

(パニック?)
(寧ろ落ち着いとるんじゃないんか)

落ち着いていて、冷静な上で落ち込んでいるからどうにもしてやれない。
真田と仁王は2人ともそう認識していたが、柳はどうやら違うらしかった。

「・・・・・別に私パニくってないもん。」
「泣いて騒ぐだけがパニックというわけじゃない。行動だけは静かでも、今のお前は間違いなくパニックだ。」
「・・・・・・・」
「落ち着いて周りをよく見ろ。」
「・・・見ても好きな人とか居ないもん。」

そういう意味じゃねえよ、と普段なら真田も仁王も突っ込むところだが、今日はそんな気になれない。
紀伊梨の事だから半分は本気でそう思ってるのかもしれないが、少なくとももう半分かそれ以上はやけくそが入っている。真田も仁王も、その事は感じる。

情けない話、2人はどうしたら良いのかわからないのだ。こんな状態の紀伊梨は初めて見るし、こうなった紀伊梨なんて想像もしていなかったから。

今この場で平然としているのは柳だけだった。

「そういうのをパニックになっている、と言うんだ。落ち着け。」
「~~~~~~!」

キッと紀伊梨は顔を上げて柳を睨んだ。

「出来ないよ!そんなの出来ないよ!これ以上どーやって落ち着くのさ!」
「五十嵐、」
「私、別にパニックじゃないじゃん!ちゃんと考えてるじゃん!ちゃんと聞いてるじゃん!」

そうだ。
実にその通りだと、真田も仁王も思っている。

ちゃんと聞いて、ちゃんと考えて、ちゃんと現実を見ると、後に残っているのは悲しい通告だけ。アイドルたる資格なし、という冷たい一言が横たわっているだけだ。

紀伊梨はアイドルに対して紀伊梨なりに真剣だった。
だから今だって、いっそ逃避できれば楽なものを、えげつない程に現実を見ているーーーというか、見えてしまっている。

「私頑張ってるもん!これ以上どーやって頑張ればいいのかわかんないよ!あんな事言われても知らないよ、出来ないもん!出来ないもん!」
「五十嵐・・・」

そもそも。
恋なんて、頑張ってしようとかそういうものじゃない。心のままにするものなのであって、それは努力とか、自分で発揮できる力の外にあるものだ。

紀伊梨だって、いやこの場にいる全員が其の事をわかっている。
だから真田と仁王は励まそうにも励ませなかった。今回のこの件は、紀伊梨が一人でどうにか出来る事じゃないから。そんな人間に向かって、頑張れなどとは決して言えないからだ。

勿論、柳だってそれが分からないじゃない。
だから、柳も紀伊梨に向かって頑張れとかやれば出来るとか、そういう事を言う気はない。

ただ。


「・・・あ、あの・・・」
「あのう・・・」


「ふえ・・・?」

ふと気づくと、女子高生らしき2人組がこっちを見ていた。