「ええと、こうして、こうして、これをこうして・・・よしっ!」
可憐は会場の隅の方、人気のない所に居た。
夏の日差しの下、必死こいてスマホの操作ポチポチして、一体何やってるんだろうと心の片隅で思うが、仕方がない。
やっと作業を終えて、可憐は一息ついた。
(あーあ、またドジしちゃった・・・こんな日にこんな事務作業やるつもりじゃなかったのになあっ。)
でもまあ思い出して間に合っただけ良しとしよう。
(でもこれでもう終わったよねっ!早く戻ろうっ!)
待たせちゃ悪いし、と思い、人が行き交うメインスペースに再び足を踏み入れた時だった。
「あーっ!ちょっと、危ない危ない!」
「えっ?わあっ!あ、と、と・・・!」
「あて!うーわ、つめた!冷たい!」
「うわ、何してんねんな!」
「いや見ててわからへんのんかーい・・・ってちょお待ってこれ、服の中に氷入っとる!つめた!」
「ああああっ!ご、ごめんなさいごめんなさいっ!」
可憐は後ろから聞こえてきた声に束の間意識を取られて、前を通りがかった人にぶつかった。
いや単にぶつかっただけじゃない。相手がアイスコーヒーを持っていたので、それが思いきり服にかかった。
結局背後から聞こえた危ないの声は全くの他人から他人に向けて発せられたもので、可憐には全く関係がなかったのだが、危ない!とか何やってんの!とか言われると、反射的に自分の事かと思ってしまう、悲しいドジの性。
それで結局次のドジに繋がってしまうんだから、本当に世話がないと自分でも思う。
「だ、大丈夫ですかっ!?クリーニング代出しますからっ!」
「ああ、ええてええて!どうせ俺ら、汗かくんやし汚れてもええ服しか着てへんねんし。」
「何でお前が答えんねん!俺はちゃんと自分なりにお洒落してきたっちゅー話や!・・・って、あ!ちゃう、ちゃうねんで!気にしろていう意味やないねん!」
おい、と一氏から可憐に見えない角度で背中を小突かれて、謙也はやっと一氏がわざと言った事がわかった。
「ごめんね、本当にすいませんっ!」
「ええねんええねんて!そのー・・・あのー・・・ほら、そう!俺、こう見えて服ようさん持ってるさかい!ほんまやで、従兄弟が近くに住んどるから、借りたい放題や!」
「・・・ほんまやな!そう言われてみたらそうやわ、全然問題あらへんやん。」
「せやろ?今ちょっと冷たいねんけど、まあ暑いし夏やさかいな!全然平気やて、すぐ乾く乾く!」
気にせんでええ!と元気よく言われて背中を叩かれて、可憐はちょっとホッとした。
兎に角、怒ってないというのは本当のようだし。
「ううん、でも悪いからっ!せめてアイスコーヒー代くらいは、」
「要るか?医者息子にそんなもん。」
「お前、医者息子ていうもんをなんやと思うてるんや・・・家はそこそこ裕福やけど、それとお小遣いとは必ずしもリンクしてへんっちゅー話や!せやから、後で侑士にコーヒー代貰うわ。」
「あれ?従兄弟は金持ってんのんか。」
「多分な。彼奴昔から言うほど小遣い使わへんタイプやさかい。」
(・・・・んっ?)
今日のフェスは地方からも色んな人が来ていて、それに伴って今日一日で色んな所から色んな方言を聞いたので、この2人の関西弁も関西の人なんだなあ、くらいにしか可憐は思っていなかったのだが。
関西弁。
医者息子。
従兄弟。
極めつけ、侑士。
ここまで来るともう、目の前の人がどこの誰なんだかは流石に当たりがつく。
「・・・あのっ!」
「ん?」
「もしかして、忍足謙也君ですかっ!」
「・・・・自分、サイコキネシスか!?」
「サイコメトリやっちゅーねん。」
ぱし、と一氏の左手の甲が謙也のコーヒーに濡れた腹部を軽くたたく。