「ふえ~~~~スッとしたあ!」
泣き腫らして真っ赤な目に、涙に濡れまくって真っ赤になった頬。
それでもこの短時間で立ち直って、ほぼ自力で目に光まで取り戻すのは、流石のメンタルというか。余り長い間暗いことを考えていられない性格故というか。
「紀伊梨ちゃん・・・」
「だいじょーぶだお!紀伊梨ちゃんはもう!平気です!でもちょっと喉乾きました!」
「そう言うだろうと思って、追加で飲み物を買っておいた。」
「やたー!ありがとー!」
「用意が良いなw」
「まああれだけ泣いた後じゃき。」
「良かった、立ち直って。」
「ふふっ。五十嵐が大人しいと、何だか落ち着かないよね。」
「しかし、結局解決はしていないのではないか?」
「まあ元々、解決しようにも努力じゃどうにもならないからな・・・」
「運の問題ですからね、こればかりは。」
「まあそれ以前に、考えるにしても今日みたいな日じゃなくて良くねえ?」
丸井の言うことは実に正論。
今日は折角大舞台でライブが上手くいって、心地よい疲労感と達成感に包まれて、後はもう満足するまで会場で楽しんだら打ち上げして帰るだけ状態だったのに、まさかこんな事になるなんて。
よりにもよって今日という日に水を差されたという悔しさは確かに紀伊梨も感じていたし、それ故に余計イラついてしまった所もある。
「マジで余計だったんだけど彼奴ら。スカウトに来てけなして帰るって何。」
「まあスカウトとけなしは別人だけどねw所属が一緒って意味では一緒かw」
「あ、あの、もうその話は一旦止めにしませんか・・・」
真田の言う通り、解決はしていない以上、今気分が上向き始めていてもまた落ちる可能性がある。
気づかわし気に紀伊梨を伺う紫希だが、紀伊梨自身は運良くテニス部との会話に夢中になっていた。もしかしたら半分無意識に、わざと別な事を考えようと努めているのかもしれないが。
「何か気づいたら、ちょー色んなグループ見逃しまくってるんですけどー!」
「それはもう仕方がないでしょう、諦めて下さい。」
「心配せんでも大した奴らは居らんかったぜよ。」
「おい、そういう言い方は・・・」
「事実だろう?本当の事を言って何が悪い。」
真田はこういう時とてもあけすけである。というか、本人的にはあけすけであるという自覚もあんまりない。元来自分にも他人にも厳しい真田は、誰よりも誰の方が上だとか彼奴の方が優れてるとか劣ってるとか、そういう事を実にはっきり言ってしまう。
また、そうすべきであると常に思っているから、他人にもそうするようにと言い含めてしまう時も多い。今が良い例である。
「お前達と同じレベルに来れている者が居るとすれば、それこそお前達の直前に演奏していたあのグループくらいのものだろう。というより、単に演奏の実力からするとーーーむ、」
「弦一郎、その辺りで。」
「え、何?何々?」
「何でもねえよ、気にすんな。」
「それよりも五十嵐、お前達門限はいつなんだ。」
鮮やかに話題を変える柳を含むテニス部は、ビードロズと違ってあくまで一般客に混じって此処に居るため、嫌でも周りの言うことがよく聞こえるのだ。
だから、ビードロズが凄い凄いと高評価を得ていることは知っている。
そして同時に、ツクヨミの方が僅かに演奏の質だけを取れば上回っている、と言われている事も。
これに関しては実はテニス部メンバー内でも意見が割れていて、盛り上がってたのは明らかにこっちの方だろという意見と、あくまで演出で乗せたのであって実力はあっちが上という見方の意見が今両方出ている。
いずれにしろ今紀伊梨にそれを言うのはリスキーとして、皆そこに話が向かうのを避けてはいるが。真田以外。
「門限?」
「まあ今日に限ってはあってないようなものだろうが、要はいつまで此処に居ていいという事になっているのか、という話だ。」
「あーそっか。閉会式が結構遅いんだっけ。」
「全部終わると、19時になるかならないかくらいですよね。そこから移動して・・・ううん、閉会式までずっと居るのは難しいかもしれないです・・・」
「えー!最後まで居たいよー!」
「それもそうだけど、やっぱ我々中学生だし夕飯の都合もあるしねwで?門限がどうかしましたかw」
「可能なら居た方が良いと思ったんだ。凡そ88.5%の確率でーーーー」
「あ、居た居た!そこの君達ー!」
スタッフTシャツを着た若い青年が駆けてきた。
汗ばんでいるのは、気温のせいかこの人込みで人探しをしていたせいか。
「良かった、見つけたー!ビードロズの皆だよね?」
「はいはーい!」
「ああ、やっぱり。実はね、ちょっと残って欲しくて。」
「ほ?」
「今、裏の方でもう中学部門の特別賞の選定が始まってるんだけどね。選ばれるかもしれないから、閉会式まで居てくれないかな?」
4人がはいと一も二もなく返事したことは言うまでもない。