First RAINBOW FESTA:Columbus egg - 5/5


そんな。
そんな馬鹿な。

「・・・そんな。」

へたん・・・と木崎はその場に座り込んだ。

「木崎さん!」
「・・・・・・」
「・・・大丈夫?」

大丈夫じゃないだろ長太郎、と鳳は内心じゃ分かってはいる。
分かっているが、それでも大丈夫と言ってしまう性格なのだ。

(どうして、)

どうして、どうして、どうして。

納得がいかない。




『それではビードロズのリーダーの方、ステージの方にお上がり下さい!』

「ほら、呼ばれてんじゃん。」
「五十嵐、行っておいで。」
「・・・・・・・」
「五十嵐ってば。」

トン、と幸村から背中を叩かれて、紀伊梨は半分意識が飛んだ状態でステージの方へと向かった。

呼ばれた。
本当に呼ばれた。

いやでも。
普段だったら一も二もなく喜んだけど、今はちょっと。
今は。今はーーーー

「よ、呼ばれた・・・凄いです、ああ何か、あの、あの、すいません、私いざこうなるとちょっと、ちょっと混乱してて、」
「いやわかるわかるw俺もちょっとどうしたら良いかわからんw呆然としてるw」
「おい、狼狽えるな!堂々とせんかみっともない!」
「な、何か大分戸惑ってるけど大丈夫か?」
「いやだって、私らこういうので呼ばれた事ないし・・・っていうか呼ばれるような目に遭うのもこれが初だしさ。」
「そうだね、思えば催しの一環としてずっとライブをやってきたから・・・こういう状況には今までなった事がなかったな。」

先日の新入生歓迎会ライブなどでもそうだが、ビードロズが今までやってきたライブは沢山イベントがある中での一つにライブを組み込んで貰うというもの。
こんな風にバンドグループが大勢いて、引き比べられて選ばれてなんて事は実はこれが初めての経験。

「マジ?優勝とか表彰とかってされた事ねえの?」
「だから俺達のライブの時って、そういうのじゃないイベントばっかりだったんだってばw」
「あれだけ出来ていてこれが初めてというのも、何だか不思議な話ですね。」
「逆に今回よく参加する気になったもんじゃな。」
「・・・いや、そういえばそれも。」
「俺が勧めたんだよね、元はといえば。」

幸村に言われなければ、ビードロズが出ようと思ったかは疑わしい。
千百合もちょっと考えていたといえばいたが、なんだかんだ予定が想定以上に詰まってきている事を感じて多分その内探すのを辞めただろう。
5月頭のあの段階で勧めて貰ったからこうして出られた部分はある。間違いなく。

どうしよう、どうしよう。
千百合と棗でさえ内心で狼狽える中、紀伊梨は半分夢を見ているような浮ついた感覚のまま、言われるままにステージに上がった。

お足元気を付けてくださいねー!という司会のお姉さんの声も、なんだかやけに遠くに聞こえる。

「それでは、こちらがトロフィーになります。」
「・・・・・・・・」
「えー、中学生の部は今回から初めて出来ましたので、皆さんが一番最初の保持者になります。こちらのリボンにお名前・・・ビードロズさん、お間違いないですね?」
「・・・・うん。」

うん、合ってる。
いや、合ってるけど。

合ってるけど、でも。


「それでは・・・おめでとうございます。」


そう言われて差し出されて、ピカピカの音符型のオブジェを受け取ろうと紀伊梨は両手を伸ばし。

ーーーー触れる寸前で辞めた。

「・・・なんで?」
「え?」


「私達がこれ貰えるのって、おかしくなーい?」


会場中が固まった。

ぴしりと音がしたかと思うくらいだった。

時間にしてほんの一瞬。
ほんの一瞬だったが、審査員席より司会の者より会場の観客より、誰より早く木崎の声が飛んだ。


「そうよ!それは私の物よ!」


木崎の声は良く通った。
例え人ごみのかなり後方に居てもその声は最前列のステージまで届く。

そう、届くのだ。この声こそが、勝利の証。
そう信じていたのに。

「どうして!どうして私じゃないの!どうしてーーーー」


「ちょっと。」


そう言って、司会の肩を軽く押して、マイクを奪った男が一人。

「よっ!さっきぶりだな。」
「・・・・!しゃちょーのおじさん!」
「おじさんじゃない、まだ俺は35だぞ。」
「あ!あのー、えー、あれ・・・最近覚えたあのー・・・あ!ししゃごにゅー!ししゃごにゅーしたら40になるんだお!・・・あれ?あってるよね?」
「合っているけど、そもそも意味もなく四捨五入するのを辞めてくれ。35だと思われるか40だと思われるかは大人にとって大きいんだぞ。本当だぞ。」

会場がざわめき出した。
観客でも詳しい者などは、Angelsプロの・・・などと呟いていて、ステージに上がらず待っていた一同は本当に社長だったんだなあ・・・なんて場違いな思いが過った。

「そこのお嬢さん。君はツクヨミのボーカルだな?」
「・・・そうよ!」
「うん。初めまして、俺はAngelsプロダクションっていう所の代表取締役、安形だ。そして今回は、裏で特別審査員として意見させて貰った。その上で今から話をしよう。五十嵐さん、君も聞いておけよ。」
「およ?紀伊梨ちゃんも?」
「そう。それからステージ下で待ってるビードロズの他の3人、君達もだぞ。でかい仕事がまだ残ってるんだ、聞いといて貰わないとな。」

ざわ、とまた周りがざわめいて、周辺に居た人間が一斉にこっちを見た。
余りの居たたまれなさに、千百合も棗も思わず身構える。紫希なんてもう、うずくまりたい勢い。
なまじ、ただ見られているわけじゃない。
くどいようだが此処にはツクヨミが賞に相応しいと思っている者も相当数居て、そういう者達の視線にはやっぱり多かれ少なかれ敵意のような物が混じるのは仕方がない。

「じゃあ話に入ろう。先ずだ。これだけははっきり言っておくしもう皆分かってる事と思うが、


ツクヨミとビードロズを並べた場合、演奏技術は先ず間違いなくツクヨミに軍配が上がる。」


どよめきの声が上がった。

「ただ、だ。断っておくが、俺達は演奏の技術の高低だけ気にして見てるわけじゃない。それがどうでも良いとは言わないし大事な要素だが、要はバランス。総合力の話だ。その点でツクヨミはビードロズに大きく離されている。確かに君達は上手い。非常に上手い。上手いが・・・・逆に、他にこれといって大きく褒められるようなポイントはない。」
「なん、」

「きついことを言うようだが、ツクヨミは今まで演奏を楽しいと思った事があるか?」

「・・・・・!」

木崎は黙った。
あまりに図星だった。

「君達がーーーまあ敢えてこういう言い方をするが、何目的でバンドやってるのかは知らないがな。楽しいと思ってやってるのとそうでないのとでは、いくらスキルだけ磨いても限界があるんだよ。
音楽っていうのは、世界を自分で作ってそこに人間を引き込むのが仕事なんだ。でも楽しんでないと世界なんて作れない。世の中はそんなに甘くはないぞ。そういう意味で言うのなら、特別賞候補にこそならなかったが、自分達の世界はちゃんと作れてるグループは他にもあった。」

安形の言うのは、つまりは天衣無縫の概念に近いものである。

楽しいこと。
上手いこととか下手なことととかを、楽しさで飛び越えてそこに浸れる事。

そして最終的にそれこそが一番強いこと。

そういう意味でツクヨミはどうあっても最高にはなれないーーーつまりはそう言いたいわけだ。

「反面ビードロズは、演奏の腕でこそ一歩劣るが、それでもそれなり以上のレベルだ。そしてその上で、観客を沸かすために世界を作ることが出来る。まあこれは、曲がオリジナルというのも大きいが。」
「そにゃの?」
「そりゃあそうだ、当たり前だ。君達の曲は、君達のためだけに作られてる、君達を生かすためにアジャストされた曲なんだぞ。コピーよりずっと有能に決まってるよ。と言いつつ、オリジナルを作るのにはコピーの何十倍も労力が要るから、良いからと言ってサクッと出来ることでもないんだが。」

「だってさ?皆。」
「オリジな事をこんなに褒められる日がくるとはねえw」
「紀伊梨がオリジが良いって言ったから、ってだけでそうしてたようなもんだしね。」
「作曲は五十嵐さんがやっておいででしたね?」
「彼奴は音楽に関しては本当に有能じゃな。」
「作詞家も有能じゃん?」
「辞めてください辞めてください辞めて下さい・・・」

「まあ話を戻すが、何といってもビードロズが優れるのは発想力だな。」
「はっそ・・・?」
「思いつく力ってやつだ。あの足踏みさせる演出、とても良かったぞ。俺はあそこを買って、君達を押したからな。」

木崎の目つきがきりりと鋭くなった。

「馬鹿にしてるの?」

「馬鹿にしてる?」

「大道芸人じゃないのよこっちは!そもそもあんな事、やって良いともこっちは言われてーーー」

「そう、それだ。


やって良いと言われてないからやっちゃダメ。この発想から抜け出せない奴は、これから先どう頑張っても二流でしかないんだよ。」


ガン、と頭を殴られたような衝撃を味わったのは、木崎だけではなかった。

「コロンブスの卵を知ってるな?少なくとも俺は、卵を割らない人間より割って立てられる人間の方が賞に相応しいと思う。もう一度言うが、演奏のスキルだって無視してるわけじゃない。ビードロズだって相当の力があることは、聞いてた全員が分かってる筈だ。それでもツクヨミと比べるとツクヨミの方が上手ではあるが、君達は反面演奏技術以外に前に出る材料を何も持っていなかったな。」

「・・・・・・・・・・・・・」

「此処は確かに大道芸発表会じゃないが、反面クラシックの品評会でもないんだ。直向きに演奏の技術だけ上げていれば良いってものじゃない。クラシックの世界では演出が挟まる余地が狭い分、スキルがほぼ全てなのかもしれないが、軽音楽の世界では違う。他所の世界の事をこっちに持ち込んで当てはめるな。」

木崎は微かに震えてぎゅ、と唇を噛んだ。

色々思うことはあるが、一番大きいのは。

(どうして、)

どうしてこの男は、自分達の成り立ちをここまで言い当てられるのだろうか。

「俺の言いたいことは以上だ。改めて繰り返し言おう。要は考え方だ。君達は演奏の技術の上下が最たる重要要素だと思って不服を申し立てたんだろうが、生憎こっちの審査基準は違う。ツクヨミがトップの演奏技術の持ち主なのは誰もが認めるが、それを理由に無条件に特別賞にはしない。以上。」

「・・・・・」

「異論は?」

あると言っても多分覆らないだろう。
それは周りが聞いていてもよくわかった。

「で、次。君だ。」
「おろ?紀伊梨ちゃん?」
「そうだ。君も今トロフィーを突っ返そうとしただろ?」
「だってちーちゃんとこのがじょーずと思ってさー。」
「そうだと思った。あのな、今君は色々勘違いしてる上に混乱してるぞ。」
「ほ・・・?」
「良いか、先ずだな。これは君個人が貰うものじゃない、ビードロズが4人で貰うものなんだ。自分の評価だけがこれに繋がってるわけじゃない。俺が君を否定したからって、ビードロズが同時に否定されたと思うのはお門違いだぞ。」

安形は今日紀伊梨の事をコテンパンに言ってのけたが、ビードロズに対してはさしたる言及はなかった。スカウトだって、関根が言ってただけ。
あれは一応、安形のこのフェスに対する配慮だったのだ。審査員である自分が、結果発表する前からどこかのグループを褒めそやするのは良くなかろうと思って。

「今改めて君達・・・ビードロズに対する評価を言おう。」
「うにゅ・・・じゃない、はい。」
「君達はバンドグループとして、非常に優れている。演奏技術も及第点以上だが、何よりもアクティブさが良い。やりたい!やろう!そう思う力で溢れているんだ。これは学生バンドだけが持てる力ーーー友情と仲間意識と高い向上心、3つ全部揃って、初めて育まれる力だぞ。」
「・・・・・・」
「此処に来るまで、君達はきっと多くの時間と思いをバンドに割いて来たんだろう。それで良いんだ。胸を張れ。君達は誰より、今日これからのシーンに相応しい。」
「お?」

これからの。シーン。
何だそれ。どういう意味だ。

?な顔になっている紀伊梨に、安形はフッと笑った。

「忘れたのか?」
「お?」
「その顔は忘れてる顔だな、最初に言ったぞ?


賞に選ばれたら、そのグループはアンコールを受ける。君達は今日今から、もう一度演奏(や)るんだ。」


紀伊梨は目をかっ開いた。

そうだった。
そうだった、そうだった、そうだった!

「忘れてた!」
「そうだろ。順番としては高校生の方が後だから、君達がトップバッターだ。この賞を受け取ったら、すぐアナウンスが入って準備して、すぐ演奏になる。だからさっさとトロフィーを受け取れ。客は待ってるぞ?」


「「「「アンコール!」」」」


即座に飛んだ声。

「・・・びっくりしたあ。」
「はっやw即応し過ぎじゃねw」
「そ、そうですか?」
「ふふっ!当然だよ、何年もやってるんだからこの役は。」
「真田、出来てんじゃん?」
「無論だ!次回は必ずやると約束したからな。」

いつもこうだった。
仲間のアンコールが聞こえて。

そして。

「・・・アンコール。」

「「・・・アンコール!」」

「「「アンコール!」」」

「「「「アンコール!」」」」

聞こえてくる。
待つ人の声。

「ほら、お前らは行けよ。」
「大変でしょうが、頑張ってください。」
「行ってらっしゃい、千百合。」
「ん。」
「じゃあいってきまw」
「あ、そこの作詞家。君もステージだ。」
「え!?」
「袖に居ろ。君もメンバーだ、観客席には居られないよ。」

こうしてる間にもアンコールは鳴りやまない。
言われるごとに紀伊梨の中で演奏のテンションが上がっていく。

待ってる。
貴方達を待ってる。

そう言ってくれる人が居るのなら。
聞きたいと望まれたのなら、いつだって。


「・・・・!よーし!アンコール、やっちゃいまーす!」


わっと会場が湧き返す。