First national convention:Wings - 3/5


「間もなく到着致します。」
「は、はいっ!」

跡部が迎えに寄越したリムジンの中で、可憐は膝の上に手を置いてかちこちであった。
リムジンに気を張っているというのもあるが、それはまあ些細なものだ。

それよりも、可憐は段々怖くなってきていた。

(私、普通に出来るかな・・・)

勿論、朝は普通に出来ると思っていた。
それは嘘じゃない、本当の事。
ただこうして近づいてくると、不安になってくる。

いざ本当に忍足を目の前にして、普通にしていられるか。
網代と一緒に活動していて、気取られないか。

それはその時になってみないと分からないことで、実際顔を合わせたら涙がまたぶわっと出てくる可能性だってあるのだ。
低いと思うけど。多分。大丈夫と思うけど。

そうこうしているうちにリムジンはとうとう会場に着いた。

「到着致しました。足元にお気を付けください。」
「僭越ながら、私めが景吾様の元まで付き添いを。」
「い、良いです良いですっ!一人で行けます、大丈夫ですっ!」

いやもう、この際迷子になってしまっても良い。執事に付き添われて公園を闊歩するよりは。
わたわたとその場を後にし、今日の荷物を持って可憐は会場へと歩を進める。

「ええと、ここがゲートボール用敷地の右側だから・・・テニスコートはこっちかなっ?」

「テニスコートなら、こっちたい。」

「え!あ、ありが・・・!?」

かけられた声に振り向いて、可憐はお礼が思わず途切れた。

(き、金髪だ・・・跡部君と違う、染めてるタイプの金髪だ・・・)

ヤンキーかもしれない。
怖い。

と一瞬固まったが。

「おい。」
「へ!?は、はいっ!」
「聞こえてるか?コートはこっちたいね。」
「あ、有難うっ!ございますっ!」

(・・・い、良い人?なのかなっ?)

外見で大分ぎょっとしてしまったが、声音はあくまで優しいし、言葉も乱暴じゃない。
思わず身構えたけど、別に身構えなくて良いかも。

「おい!」
「ふあっ!?あああ、ごめんなさいっ!何ですかっ!」
「いやだから、何なら一緒に行くかって・・・ぷっ。」
「へ?」
「ボーっとした奴ばいね、お前。大丈夫か?」

笑いがこらえられん、と言いたげな笑みを浮かべる相手は、何か豪快な温かさが感じられて。

「・・・うん!大丈夫ですっ!」
「そうか。」

可憐もなんだか肩の力が抜けた。

良かった。
皆に会っても、大丈夫そう。






「あっつーい!いやー、今日も良い天気ですなあ!」
「曇りくらいで良いんだけど。」
「まあなかなかそう都合の良い天気にはならんなあw」
「あはは・・・でも、やっぱり晴れてる方が安心ですよね。中止になるかって気を揉んだりせずに済みますし・・・」
「まあそれは。」

ビードロズは可憐よりワンテンポ遅れて会場に着いていた。
といっても、部員と違って仕事もない観客としては、大分早い方である。

しかし逆に出場者たちはもう既に結構忙しそうで、そこかしこで色んなジャージの者がうろついている。
ほら、そこにも。

「居ったか!?」
「居らん・・・彼奴どこ行ったんじゃ、こんな時に!」
「目えば離しよるから・・・ってまあ、今言っても仕方なか。」
「くそ・・・俺、あっちに行ってくったい。」
「じゃあ俺はあっちに。」
「ああ、頼んだ!」

「・・・桐生ちゃんじゃないよねw」
「いや、明らか氷帝じゃないでしょ、あのジャージ。」
「だよね、めちゃめちゃ水色だったよねwどこのか知らんけど、めっちゃ目立つじゃんw」
「方言で話されてましたよね。九州の方でしょうか・・・紀伊梨ちゃん?」

どこの誰だかは知らないけど、大変そうだなあ。
なんて思いながらすれ違った誰かを見送った一同だったが、紀伊梨は無言でその2人を見送ると。
そのままそろりそろりとどこかへ歩き出した。

「・・・え、何。」
「どうしたんですか紀伊梨ちゃーーー」
「しー。しー。」

口に人差し指を当てて、静かにのジェスチャーをしながら紀伊梨は何故か道を外れて植込みの方に行く。
足取りに迷いがない所を見るに、何かを見つけたーーーいや、聞きつけたのだろう。

時間もあるし、取り合えず3人も従い、紀伊梨が進むに任せていると、とうとうかなり深いところまで辿り着き。

「・・・・お!居た居た、こんちわー!」
「!?うわ、びっくらしたばい・・・」
「あー、猫ちゃんだ可愛いー!」

植込みの奥に潜んでいたのは、一人の男子生徒だった。
やたらに長身だったりとか何故か猫が何匹も周りに居るとか、コメントしたい所は山ほどあるけど。

「俺、なんで見つかったんね?」
「えー、だってさっき「どこだー!」って聞こえてきた時、うわ、ってちっちゃい声で言ったっしょー?えへん!紀伊梨ちゃん耳は良いんですよっ!」
「へえ、大したもんばい。」
「たいしたもんば・・・?」
「凄いっちゅう事たい。」
「おー!」
「あ、あの・・・」
「ん?」
「さっき、同じジャージを着た方たちが誰かを探してらしたんですけれど・・・」
「ああ、多分俺ん事たいね。」
「やはりかw」

そう、この男子。
さっき見かけた、すっごく目立つ水色のジャージを着ているのである。

「何隠れてんの。」
「ずうっとこうしてるわけじゃなかとよ?ただまあ、試合までまだ大分あるばってん、ちょっとくらい良かとね。」
「ねーねー、紀伊梨ちゃんも猫ちゃんと遊んで良ーい?」
「勿論ばい、ほら。」
「わーい!」

ナチュラルに紀伊梨と猫と戯れる彼は、それはもう無邪気な笑顔である。
男に向かってこう言うのもどうかと思うが、これは幸村が微笑むのとは違う。所謂「可愛い笑顔」という奴である。

また長身で体が大きめなのが余計に面白い。
体つきは大人びているのに、中身は子供みたい。ああ、憎めないタイプなんだなあ、なんて今一同は思った。多分部でもそういう扱いなんだろう。

「まあ止めやしないけど、程々で帰りなよ。」
「そうするばい。・・・あ、そうったいうちの先輩にはーーー」
「言うなってかwわかったよ、良いよw」
「助かるばい!」

それは嬉しそうに笑う天パの彼に、一同は釣られて笑ってしまった。