First national convention:Wings - 4/5


「ほら、見えたぞテニスコート。」
「有難うっ!わあ、本当だ皆もう集まってるっ!」

観客は選手の邪魔にならないよう観客席に引っ込む為、テニスコートの周辺でばたばたしているのは他校自校入り混じったテニス部員達である。

氷帝どこかな・・・とちょっと辺りを見回すと、氷帝より先に付き添ってくれた男子に声がかけられた。

「橘ー!」
「先輩?」
「橘助けてくれんね、千歳がまた居なく・・・あれ?誰ばい?」
「ああ、ちょっと道に迷ってたんで。」
「あっ、もう大丈夫だよっ!ごめんなさい、有難うございましたっ!」
「別に、そんな大した事しとらんばい。間に合って良かったな。」

そう言って笑って軽く手を振る橘は、どこまでもホッとするような笑顔で、可憐も笑って手を振った。

さて。
本題だ。こっちはこっちで氷帝を探さなくちゃいけないが、どの辺に居るのだろうか。
一人でも見つかれば後は分かるから、先ず見慣れたジャージを探せばーーー


「可憐ちゃん。」


トク、と心臓が大きな音を立てた。

でもその直後、ふう・・・と息を長く吐くと落ち着いていった。

大丈夫。
沢山沢山シミュレーションしたから、振り向いても大丈夫。


「・・・・ただいま、忍足君っ。」
「お帰り、可憐ちゃん。お疲れさん。」


可憐は微笑んだ。
顔をまともに見られると思えるのは久しぶりだった。





可憐の辿り着いた所は、選手たちがうろついているゾーンの中でも結構氷帝から離れているらしい。
勿論それに対して橘を責める気など全くないけど。

「ほんなら、その橘言う奴に送ってもろたんやな。」
「うんっ。危うく逆方向へ行っちゃうところで・・・あはは。」
「良かったな。」
「うんっ・・・うんっ?」
「ええ奴が居ってくれて。」
「ああ、うんっ。」

勿論、ドジするようになったから良かったな、の意味合いも今のにはある。口には出さないけど。

昨日ピークは越したのだろう。可憐の中で。
越した後何処へ行くのかは、忍足にも可憐自身にも分からないけど。

「あの・・・跡部君、皆に何て言ってくれてたのっ?」
「ああ、何や神奈川に行かせたて言うだけやったで。」
「そっか・・・」
「一応言うとくけど。」
「?」
「別に、誰も責めたりとか悪う思ったりしてへんさかい。普通にしとき。皆多分その方が喜ぶで。」
「・・・そうっ?そうかなっ?」
「俺はそう思うわ。」
「・・・そっかっ。」

不思議な感覚を可憐は覚えていた。

普通の会話だけど、どこか普通じゃない。
お互いの心理状態が普通じゃない事を、お互いに分かった上で会話しているような。
そして更にその上で、例え表面上でも普通でいられる事に安堵しているような。

そんな空気が今自分と忍足の間には流れていて、2人ともそれを壊したくないと思っている。
誰も今、割って入ってきて欲しくない。
このままで居たい。

もし外から何か少しでも刺激を与えられたら、水風船に針を刺すように一気に何かが零れるかもしれないから。
それでもいつかは皆の居る所に辿り着くしかないから、永遠にこのままでは居られないけど、少しでも長く。

「・・・そうだ忍足君っ。」
「どないしたん?」
「皆の居る所から遠いんだよねっ?でもじゃあ、どうしてあんな所に居たのっ?」

忍足はそれを聞いて、少し目線を外して。
んん、と小さく呟いて言った。

「居るかて思うて。」
「えっ?」

「そろそろ帰ってくるんとちゃうやろか、て思うたさかい。」

ゆら、と何かが可憐の中でまた揺らいだ気がした。
けど。

「桐生!」
「え?あー!ほんとだ、可憐!」

「あ・・・皆ただいまっ!」

これだけの事で気づかないふりが出来る。
そのくらいには今、可憐は上向きになっていた。