First national convention:Player of S3 - 3/6


その後、ラリーを続けて基本幸村がポイントを取り、犬養が稀にポイントを取り。
そうして試合の時間が伸びていく中で、犬養の中ではある考えが纏まりだしていた。

(1年坊主だ1年坊主だと思っていたがーーーそうだ。1年生だからといって、別にテニス始めて1年ってわけじゃねえ。)

犬養は部員が集めてくれたデータで、幸村の事を思い返していた。
確か、スクールに通っていたらしい。
成程、ボールの対応には慣れているわけだ。それなら、スピードボールの効果はそれだけである程度削られてしまう。テニス玄人ほど、ボールを見慣れているからスピードテニスに怯まない。

「ゲーム立海!2-0!」

(2-0か。仕方ねえ・・・まさか1ゲームも取れないうちから次の手を使うことになるとはな。)

「・・・よし。」

犬養は深く息を吸った。




その後、ゲームの様子がおかしいと見てわかるレベルになりだしたのは間もなくであった。

幸村が優勢ではある。
ポイントも取っている。取っているが。


「はっ!」

「フン!」

「ふっ!」

「おらよ!」


「・・・・にゃんかけっこー長いねー。」
「何か急にラリー続くようになったよねw」
「相手の方が、そう仕向けているんでしょうか・・・?」
「多分ね。」

ただ、それでもジリ貧気味にポイント取られているから、正直ギャラリー的には引き伸ばしにしか見えておらず。
苦しむ時間が伸びてるだけなんじゃないかなあ・・・などと考えている中、幸村は事態の変化に気づいていた。

「・・・・・・・」

(・・・何かな。何だろう、これは。)

どうもさっきから、違和感のようなものがある。
何か仕掛けられてるとかそういう心理的な類ではなくて、身体的な違和感を覚える。

別に今日はラフプレイの被害にあったりなどしていないし、勿論試合前に転んだとかそういう事もない。
コンディションは万全の筈だ。

ただ、何かがおかしい。
何かと言われると、敢えて言うならそうーーー

(・・・・これは、そう・・・倦怠感、かな。)

どうも怠さを感じる。
ただ、怠さを感じる程のような事は起きていない。

つまり、これは相手がそうなるように仕掛けてきているのだ。

「ラア!」

「っ!・・・・!?」

いけない。
と思った時にはもう遅かった。


「アウト!30-30!」


周りから一気にあがるどよめきの声。

あの幸村精市が、アウトを取られるなんて。

しかし、一回のアウトと引き換えに、幸村はある事に気づいた。

「・・・タイムをお願いします。」




「ゆっきー大丈夫!?ねー!どーしたの、風邪ひいてるの!?」
「げ、元気そうだったと思うんですけれど・・・」
「やべえな、これが全国区か・・・」
「・・・・・」

相手がアウトになったことは何度も見たことがあるが、幸村がアウトになった場面などビードロズは初めて見る。
幸村のテニスは基本的に超が幾つついても足りないほど丁寧で、徒に相手にポイントくれてやったりなどそういうスタイルからはほど遠いのだ。

明らかに何かがいつもと違う、という事を観客ながら感じる4人と違い、一人後方で郁は混乱していた。

(な、なんだ・・・というか、アウトっていうのがそもそもなんなんだ?こっちが負けてるのか?勝ってるのか?何に驚いてるんだ、皆・・・・)

誰か教えてくれないかな、いや教えてくれなくても良いから、どういう事なのか独り言的な感じで聞かせてくれるとかでも、なんて思いながら郁はちょっときょろきょろする。

その頃ベンチでは、幸村が自分の異変を説明していた。

「バックハンドを使わせて貰えない・・・だと?」
「うん。おそらくね。」

「そんな事が可能なのか?」
「理論上は。とはいえ、簡単ではありませんが。」
「敵もさるもの・・・ってやつか。」

通常テニスというやつは、普通にラリーしていると何回かに一回かのペースでバックハンドを使うことになる。
かなり極端な例を言うと、常に相手のコートの空いている所にショットを打とうと思うなら、左右に振ることになる。つまり右→左→また右という風にボールがくるわけだが、それに対して人間利き手は基本片方なので、利き手と逆の方に来たボールはバックハンドの方が処理しやすい。この場合、フォア→バック→フォアで打てることになるわけだ。

どうやら犬養は打球の方向を上手くコントロールして、幸村にバックハンドを使わせていないらしい。

「そのせいなんだろうけれど、さっきから右腕の倦怠感が酷いんだ。同じ方向にばっかり負荷がかかっているから、バランスが崩れてるんだろう。」
「そうか。対策は?」
「それを迷ってるんだ。付き合うか・・・それとも、やや強引にでも良いからバックハンドを織り交ぜていくか。」
「でもなあ、付き合うって言っても・・・ずっとは付き合えないだろ、その内アウトを頻発するようになるぞ。」
「しかし、フォアハンドで返すべき場面で、無理にバックハンドを使うのも難しい事には変わりがないでしょう。返せはするでしょうが・・・」
「甘い球になって打ち返してくる、か。」

犬養のこの戦法の上手い所は、ハードルの低さと即効性にあった。

何も、腕が疲れ切ってもう振れないラケットを握れないなんて、そこまでさせなくて良いのだ。
ちょっと怠いな、と思われるだけで良い。
その怠さは甘い返球や無理な返球へと繋がり、それが引いては自分のポイントになる。

相手に無理やり雑なテニスをさせる。
これが犬養のもう一つの作戦だった。

そしてこれは、テニス歴が長いほど悩まされる。
こういうコースならこう打った方が良い、というお作法が体にしみついているので、何も知らない初心者の方がこの場合実は疲れにくい。

基本的にきっちりしたテニスの志向であり、自分のプレイスタイルが既に固まりつつある幸村にとって、これは正に天敵とでも言うべき戦法であった。
所謂決め球がないのもこれに拍車をかける。ラリーが始まるとこちらから流れを切りづらく、決め球を警戒してあっちが攻撃の手を緩めざるを得ない、みたいな展開も望めない。

「・・・よし。」

決めた。