First national convention:Player of S3 - 6/6


「いやあ、勝った勝ったー♪」

紀伊梨はルンルン気分で、今日の会場であった運動公園を歩いていた。
今日の勝利で、立海は見事3回戦ーーー準々決勝まで駒を進めた事になるわけだ。
それはご機嫌な紀伊梨だったが、ふと気づくと他の3人が皆後ろへと下がっている。

「およ?皆どったの?」
「「「・・・・・」」」
「あれ?ねーねーどったのー?」
「・・・・ううん・・・」
「何か、なあ・・・」
「え、何?何々?」
「いや、あんたわかんないわけ?」
「え、何が?」

「試合よ。いくら何でも不戦勝が多すぎないかって思わないの?」

そりゃあまあ、幸村レベルに強ければ、そういう事もあるかもしれないとは思う。

でも、普通はない事なのだ。
あったとして、せいぜいひと夏の間に1回が良い所であろう。
だが、蓋を開けてみればどうだ。まともに出来た試合の方が少ないくらい。

最初は相手が弱いからだレベル差があるからだと思っていたが、弱いどころか勝ち進むにつれて不戦勝の割合が増えて来てしまっている。

千百合も紫希も棗も、ずーっとずーっとこの事を考えていた。
偶々だと思いこもうとしたが、全国まで来てまだ不戦勝を積み重ね、いよいよこれは何かが起こっているのではないかと思うようになった。

しかし、口に出すのは躊躇われていたのだ。
何故って。

「・・・え、でもさー。ゆっきー別に何もしてなくないー?」

そう。
幸村は何もしていないのだ。

これが例えば幸村がラフプレイをばんばんやるタイプの選手で、対戦相手という対戦相手を皆ボコボコのギタギタにして病院送りにしているようなプレイヤーだったら、事の是非はさておき不戦勝に縺れ込む理由は明々白々。
だが、実際は幸村はそんな事はしておらず、そうーーー言うなれば相手が勝手に不戦敗になっている、とでも言えるかのようなこの一連の流れ。

解せない。
偶然というには余りに何かの力を感じざるを得ず、しかしあれが原因だと指を差すにはあまりに指す先が見当たらず。

「・・・わかってんだけどさー、それを差し引いてもちょっとおかしいんじゃね、っていう・・・」
「えー!でもさー、」
「わかるんです、幸村君は何もしていないっていうのも分かるんです。こんな事言われたって、幸村君の方が困ってしまうだろうなって、思うんです、けど・・・」
「でもおかしいじゃん。」
「何がおかしーのさー!」
「おかしいもんはおかしいだろ。強いからって普通此処まで不戦勝は重ならないわ。」

人一倍幸村を心配している千百合など、昔、あるいは今プロとなった・・・言わば幸村に近い戦績を持つ優れたテニスプレイヤーを調べ上げ、経歴を辿った。
するとやはり幸村レベルに強い選手は稀に見るものの、こと「不戦勝率の高さ」という点を見ると、やはり幸村はあり得ないレベルまで来ていると思う。特にここ最近。

「それこそ柳がその辺のデータ集めてくんないのかねw」
「柳君は、気づいてらっしゃるんじゃないかと思います。」
「まあ私らにわかるレベルだしね。」
「そーおー?そんなに変かなー?勝ってるんだし良いんじゃないかと思うけどなー?」

紀伊梨が何故ここまでピンと来ないのか、と言われると。
全てが終わってから振り返れば、紀伊梨の辞書に「プレッシャーによる棄権」というものがないから、だったのだろう。
メンタルをやられる事がほぼほぼ無いから、メンタルをやられる人間の気持ちが分かりづらいのだ。

ただ、今の時点でそれを知るものは居ない。
というかそもそも、幸村の相手が棄権をする理由について、メンタルという点が大きいこともビードロズは知らなかった。

この時は、まだ。






(・・・お、終わってしまったぞ・・・・)

一方の郁は、一人で帰路についていた。

(結局今日も不戦勝してしまったな、幸村君・・・いやまあ、負けるより良い事なんだろうが・・・というかあれだな、これでまた次に進むわけなんだな、うちの学校・・・)

郁は今、見たいけど見たくないという大きな矛盾を抱えていた。

見てる、と知られるのは嫌だ。
そして、その知られるリスクを軽減するためには、見に来ないに越したことはないに決まっている。

でも見たい。
その気持ちもあるから、次があるならまた見たいと思ってしまう。

いっそここで負けてくれれば、もう次の試合はないわけだから見に行かなくて済むのに、勝つもんだから次が続いて見たくなってしまう。

(い、いや!何考えてるんだ、そもそも見に来る義務なんてないんだ!別に、試合があるからって見に来なくても、普通に無視して家で過ごしていれば・・・いれば・・・)

ブンブン首を横に振りながら歩く郁を、夏の夕暮れが照らしていた。