「・・・・・・・」
忍足はじっと試合を見ている。
いや。
試合そのものを見ているというよりも、この試合を通した何かを見ている。そんな目つきだった。
「ゲーム氷帝!3-1!」
「か、勝ってる勝ってるっ!今度はいけるかも・・・忍足君っ?」
「・・・・・・」
「おい、侑士!聞いてんーーー」
「あっ、向日君良いよっ!何か考え事してるみたいだし、邪魔しちゃ悪いしっ!」
なんてやり取りを隣でしていても、忍足は気づいていないらしく、視線が全く試合から動かない。
何を考えているのかは知らないが、テニスの事でない筈がないだろう。
それなら邪魔するわけにいかない。
それに、忍足と話さない状況というのもそれはそれでホッとする。
今やホッとするようにまでなってしまったか、と思うとちょっとやるせないが。
でも、関わらなければこれ以上状況は悪化しない。
と思うと、やっぱりホッとしてしまうのだ。
「・・・・・・」
「・・・うんっ?なあに、向日君っ?」
「いーや!」
どうやら大分元気になったようだ。と向日は思った。
結局何があって何のせいであんなに塞いでいたのか知らないが、神奈川へやった跡部の判断は正しかったようだ。
(・・・ま!此奴の悩みは此奴の物、ってのは本当の事だしな。)
そう、悩みはそれぞれ、各自の物。
誰かに出来るのはせいぜい手助けまでの事。
それは向日自身も例外ではない。
「・・・・なあ、桐生。」
「うんっ?」
「お前さあ、監督と普段どれくらい喋ってる?」
「へっ?」
「良いから!」
「えええっ!?で、でもそんな事言われてもっ!普通だと思うけど・・・あ、でも事務連絡のやり取りの分、部員よりはやり取りがちょっと多いっ?かなっ?」
榊は監督としてはまめである方だが、それはそれとして多忙なので、毎日部活は見られていないのが現状である。
しかも、打合せ目的のマネージャーに対するのと違って、部員への言葉は指示と指摘が多いので、トップダウン形式。やり取りではなく、一方的に言葉だけ貰うことが多いので、部員で榊と「やり取り」を頻繁にしている生徒は実は極めて少ない。
「んー・・・・」
「・・・監督に話があるのっ?」
「・・・ちょっと。でも何て言ったら良いのかよくわかんねーし、正直こんな事相談しても、知るかよ勝手にやってろばーか、とか思われるんじゃねーかなみたいな・・・」
「ええっ!そんな事思わないよ、監督はちゃんと答えてくれるよっ!」
「そうかあ?」
「そうだよっ!確かに榊監督は厳しい所もあるけど・・・別に私達の事嫌いってわけじゃないんだしっ。寧ろ、好きでいてくれてるんだなあって思うことも多いよっ。」
可憐が榊に対して思うのは、生徒に対してとても真摯であるという事である。
冷たく見える事もあるが、あれは榊なりのメリハリで、テニス部顧問としてどうするべきかを優先しているからそう見えるのであって、一教師、一大人として榊は自分達を可愛がってくれてると思う。
榊なりに若い人間達を導こうとしているのを感じるのだ。確かに、常に手取り足取り先回りしてくれるわけじゃないけれど。
「だから、監督に相談したい事があるなら、すれば良いんじゃないかなっ。馬鹿にされそうとかそういう理由で躊躇ってるんだったら、そんな事気にしなくて良いと思うよっ。」
「そうか・・・そっかあ?そっか、そーなのか・・・」
どうも向日はいまいち信じきれない。というか、そもそも性格的に榊みたいなタイプはあんまり得意じゃないのだ。
まあ。でも。
無下にされないなら、訪ねてみようか。
(流石に、亮じゃねーけどダサすぎて、ついてきてくれとは言えねーけど・・・)
「ゲーム氷帝!5-2!」
向日や忍足が悩んでいる間にも、ゲームは進んでいく。
更にリードの差を広げて。