その後S3は6-2で余裕の勝利を納め、S2でも6-4であっさり勝った氷帝は、二回戦突破(一回戦は元々無い)を決めて、バスで一度学校に戻り解散した。
跡部が解散の号令をかけて、皆各々、心なしかゆっくりと動き出す。
いつになく静かである。
勝った。
勝ったんだ。
自分達は勝てるんだ。
そういう空気に、氷帝は今浸っているのである。
「二回戦突破、かあ・・・」
夕日に照らされて後片付けをしながら、可憐はそう呟いた。
すると、隣で作業していた金町がくふふ・・・と笑い出した。
「えっ?何何っ?」
「どうしたの、あかり?」
「あ、ごめん、今可憐が二回戦突破って言うから・・・」
「えっ!?私、そんな変な事言ったっ!?」
「いやそうじゃないよ!じゃなくてさ、そう口に出して言われると、マジで全国の二回戦突破したんだなーっていう・・・こう・・・」
ね?と言う金町の顔は、緩んでいるとしか言いようのない感じの笑顔。
そしてそれを見ている可憐達も、同じようにゆるゆると笑みが広がる。
「・・・そうだねっ!全国まで来て勝ってるんだもん、凄いよねっ!」
「ふふふっ!そうよ、私達凄いんだから♪」
「何か、跡部君にこんなとこ見られたら、これくらいで浮かれてんじゃねえって言われそうだけどね。」
「良いじゃん今くらいはー!」
ふふふ、あはは、と締まりのない笑い声がマネージャー達の間で囁かれる。
「・・・何かさ。」
新城が言った。
「あたし正直さ、立海に負けた時、何かこう・・・これから先、未来永劫一つも勝てないような何かそんな気がして・・・」
「ううんっ。分かるよ・・・私もそんな感じがしたもんっ。」
「そう、ね。何か今やっと我に返った感じがするわ。」
可憐は今やっと、立海という呪縛を完全に振りほどいた気がする。
勿論負けたことはまだ覚えているし、もう一回やったら今度は勝てるよなんて気軽に言ったり出来ないような力量差があるのは分かるが。
でも、今度やれと言われたら、少なくともまた全力でぶつかれる。
妙な萎縮をしたり絶望したりしないでいられる。そんな気がする。
(跡部君は、早くこうなれって言ってたのかなあ・・・)
恐怖で敵を勝手に大きくするなというのは、こういう事だったのかもしれない。
そもそも全力で思いきりぶつかれないのに、勝ちの目もへったくれもあったもんじゃない。
早くまた戦えるようになれ、という意味だったのかもしれないが、それにしてもやっぱりそれがさっと出来るのは跡部だからじゃないだろうか、と思って可憐は苦笑した。
あの王はいちいち臣下に対して要求のハードルが高くて困ってしまう。
「あれ?ボール入れの籠どこ?」
「あ!ごめん、私持ってくるの忘れた!」
「あっ、じゃあ私行ってくるよっ!」
「いや、良いよ!私が忘れたんだし、私が、」
「ううんっ!私もスコアボード取りにいかないとって思ってたところだし、ついでだよっ!行ってくるねっ!」
そう言って夕日の中に駆けだしていく可憐の背中を、網代達は見送った。
「・・・マジで思った以上に元に戻ったね。」
「良かった~・・・いや、解決したのかどうだかは知らないけどさ。」
「初めての夏ですもの、ね。マネージャーとしても、折角の全国を気もそぞろな状態で過ごして欲しくないし。」
何にせよ元気になってよかった、とホッと胸を撫でおろす新城と金町に対して、思うところがあるのは網代。
「・・・・・・」
当たり前なのだが、網代だってフェスに居たのだから何故可憐の様子がおかしかったのかなんてある程度の推測はつく。
特に、忍足謙也。嘘に不向きの彼が、しどろもどろに用事を思い出したらしいと言うその様は、もう何かありましたと顔に書いてあるも同然であった。
勿論、自分に全く関係ない可能性だってそれなりに高いが、関係ある可能性も無視できない程度には高い。
「・・・・・・」
まあいずれにしろ。
自分には関係ない。
というより、自分にはどうしようもない。
仮に自分が関係していたとしても、そこまでコントロールできない。人の心はどうにもならないし、相談してこない限り何もしてあげられない。
私は私で、貴方は貴方。
この、ある意味ドライな友情の捉え方も網代の性格の特徴である。
あるが。
「ねえ茉奈花、次の対戦校のさー。」
「・・・・・」
「あれ、茉奈花!」
「ん。あらごめんなさい、なあに?」
そういう性格だから。
という事を言い訳にしている自覚も、網代にはある。
ちゃんと、ある。