First national convention:Bye&bye&bye 1 - 4/6


「・・・さて。じゃあ行ってくる。」

第一佐鳥のS3、熊谷はその名前にある漢字のとおり、熊という言葉がぴったりの大柄な男だった。

「・・・熊谷、本当に大丈夫か?」
「棄権しても良いんだぞ?」
「棄権?どうして?」
「いやだって、あっち強いし・・・」
「ふう・・・確かに負けるかもしれんけど、負けそうだからって最初から試合放棄はしないよ。負けそうだからっていちいち棄権してたら、試合なんてそもそもしなくて良くなるでしょ?ふう・・・わかんない?」
「まあそうなんだけど・・・」
「そもそも皆して、立海にビビりすぎだよ。ふう・・・実際強いわけだし勝てるとは思えなくても、せめて最後まで試合くらいしなさいよって感じ。まあ磯切のS3の人はやる気はあったみたいだけどね・・・結局スタミナ切れっぽくて動けなくなってたけど・・・」
「・・・うん、まあ、うん・・・」
「行ってらっしゃい・・・」

第一佐鳥は、幸村のこの夏の傾向に気づいていた学校でもあった。
不戦勝が多いという事を。

勿論幸村が暴力的なテニスをしてるわけじゃないのは見ていると分かるが、それはそれとしてどうも、試合をしたくなくなる類の強さを持っている。そこまで感覚で分かっていた。

だから第一佐鳥はこの男をーーー熊谷をあてがう事にしたのだ。




「プレイ!」

「ふう・・・よろしく。」
「よろしくお願いします。」

(随分大柄だな。)

単純に体格というだけで話をするなら、今大会で熊谷は誰より優れているかもしれなかった。
縦にでかく、横にもでかい。
そして丸い。ばっさりいうと、かなり太っている。
筋肉による固太りというよりは、普通に太っているような体格をしている。
そしてその大きい体を自分でもややもてあましているのか、しきりにふうふうと荒い鼻息が聞こえてくる。

パワー勝負を仕掛けてきた可能性があるな、と幸村はちらりと思った。
この全国で幸村がS3に入る傾向があるのは見ていれば分かるだろうし、初日の相手であった磯切の犬養はスピードテニスプレイヤーであった。
あれを見て、スピード自慢はあまり相性が良くないと踏んで、パワータイプの選手を当ててきた可能性はそれなりに高いな、と幸村は踏んだ。

「プレイ!」

「・・・はっ!」

「・・・フンヌ!」

(・・・重い、)

ラケットに対して、ボールが吸いついてくるような感覚。

「・・・ふっ!」


「15-0!」


幸村のショットが相手のコートに入る。

ポイントは取った。取ったけど。

「大丈夫?」
「え?」
「ふう・・・俺の球重いでしょ?よく手首やる人とか居るんだよね。」
「ああ、大丈夫です。お気遣いなく。」
「そう?何かあったら直ぐ言うんだよ?君小さいから。ふう・・・まあ1年生だし当たり前だけどさ。」
「・・・・・」

幸村は色々考える所はあったが、兎に角パワータイプなのは間違いない。それは今確信に変わった。

(さて・・・どうしようかな。)

それが分かるだけで、作戦は幾つか思いつく。
ただ、どれが最適か判断するにはもう少し材料が欲しい。

「・・・・フン!」

「ふっ!」

「ヌウン!」

「はっ!」




「・・・ゆっきー、ちょっとしんどそーだねー。」
「相手の方、大きいですよね。さっきからショットも凄い音がしますし・・・」
「不戦勝はなさそうだけど、こうなったらなったでちょっと心配だなあ。」

(・・・ラケット、両手で持ってる。)

勿論、普段の幸村は普通に片手で持っている。
それが今は両手という事は、おそらくそれだけショットに力を込めなければならないのだろう。

それでもポイントは取っているが。


「ゲーム立海!2-0!」


「・・・・・・・」
「しんどい?ふう・・・」
「・・・何の話ですか?」
「いや、俺の球返すの辛いでしょ?さっきから片手じゃ太刀打ち出来てないもんね。ふう・・・あ、俺のこの息遣いは、疲れてるとかじゃなくてただのデブだからね?多分君ほど疲弊はしてないよ。ふう・・・」
「・・・・・」




「・・・熊谷の奴、本当に変わらんなあ。」
「まあ、これで不戦敗はなくなりそうだし、それで良しとしようぜ・・・」

第一佐鳥テニス部がこの熊谷をS3に当ててきたのには理由がある。
だがそれは、パワータイプを当ててみようという事ではない。

大きいのは、熊谷のこの性格にあった。

はっきり言って熊谷は、テニス部でいじめられてなどこそしていないが、性格悪いやつとは思われていた。
とにかく常にナチュラルに、不思議と上から目線なのである。
テニスで勝ってるとか負けてるとかそんな事関係ない。負けていても何故かこの態度だけは覆らない。
口調がのんびりしているので一見穏やかで無害な人間に見えるが、中身は正に慇懃無礼という他ない人物である。

ただ。
ふてぶてしい故に、ひっくり返っても不戦敗などという事にはならなさそう、と判断されたのは事実だった。
負けるとしても、せめて試合させてほしいのは、第一佐鳥でなくても皆思う。熊谷はただ、不戦敗封じのためにS3にあてがわれたのだ。

最も、熊谷自身その事は分かっていた。
自分は不戦敗とは程遠い性格をしている。だからS3なのだ。別に幸村に勝てると思われているわけじゃない。

その事に対しても熊谷は特に何を思っているわけでもない。
そりゃあちょっとは不満だけど、逆に言うと幸村の相手が出来るのは部全体を見回してもーーーいや、今大会で自分くらいのもの。そこだけ考えてみても、皆レベルが低いなあ、なんて考えていた。
最後まで試合する。ただそれだけの事が出来ないなんて。

「・・・よし。」
「ん?」
「はい?」
「今何か言った?」
「ああ、いえ。独り言です。次の攻め方が、俺の中で決まっただけですよ。」
「ああそう・・・あ。ねえ、ちょっと良い?」
「はい?」
「幾ら力で敵わないからって、顔とか手首とかそういう所を狙うのは止めてね?マナーだよ・・・わかるでしょ?ふう・・・」
「ああ、それはご心配なく。」
「そう?それなら良いよ。ふう・・・君みたいな華奢な子は、勝てそうにないからって結構そういう事してくるからね。」
「・・・・・・」

それだけ言うと、熊谷は幸村をちらと見ることもせずベンチに引っ込んで行った。