First national convention:Bye&bye&bye 2 - 4/5


毛利の件はさておき、今年に入って妙な人に会う率が高くなってきているのは事実である。

例えば、真田の甥の左助を誘拐しようとした人さらい。
城西湘南のスカウト志向の顧問。
飲んだくれでスキャンダルに目がない三十路の雑誌記者。
中学生に売春目的で金を出してくるリーマンの男、等々。

だからジャージで所属が丸わかりな毛利のような人間はさておき、どこの誰とも分からん人に進んで近づくのは確かにちょっと警戒が必要かもね。
かもね。

とか、思っていたのに。

「・・・・ねえ紀伊梨、あんたゴミ捨てに行ったんじゃなかったの。」
「うん!」
「じゃあその連れてるの誰よ。」
「あのねー、迷子になってたから!」
「大の大人がか!」
「あっはっはっはっはwあっはっはっはっはw」
「紀伊梨ちゃん・・・」

紀伊梨は、昼に言われた事をスポンと忘れてーーーいや、忘れてはいないのだろうが、紀伊梨の場合「怪しい人」認定する範囲が狭すぎて忘れたように見えてしまうのだが。まあ兎に角、知らない大人を一人連れていた。

男なのに薔薇柄のピンクのシャツ。
長袖なのはまあ、しばしば気温に関係なく年中長袖のタイプもいるから良いとしても、それにしてもその丈の長いジャケットは無いんじゃないだろうか。どう見ても秋とか春用である。
そこに薔薇の柄をしたチューリップハットを合わせるセンスなのに、何故か靴は、ここでブーツを出すでもなくスニーカー。

昼に観客席にマスク・グラサン・つば広帽子の3点セット女子が居ると聞いたが、薔薇柄帽子・薔薇柄シャツ・秋物ジャケット・スニーカーの取り合わせの大人の男はどうなんだろうか。怪しくないか。いや、怪しいだろう。

「元の所返してきな。」
「えー!」
「えーじゃない。」
「ハッハ!なんや俺、拾われた犬とか猫みたいやな。まあよろしゅうに。」
「ついてくる気満々じゃんw引っ込まないのw」
「まーまー、そう言わんといてえな。ちょっと昼寝しとったらえらい時間になってもうてなあ、試合に間に合わんかもしれへんねん。人助けやと思うて。な?」
「あの、四天宝寺のブロックのコートなら、もうすぐそこで・・・・」
「ああいやいや、俺四天宝寺を見たいんとちゃうんや?」
「え?あ・・・そうだったんですか。失礼しました。」

関西弁だからてっきり四天宝寺の観客かと思ったのだが、どうやら違うらしい。

「そーそー、オサムちゃん立海が見たいんだってー。」
「「「オサムちゃん?」」」
「渡邊オサムやで!あんじょうよろしゅう。」

ぴーす、なんて言って笑ってVサインしてみせる渡邊に、いけないと思いつつ毒気を抜かれて、3人ははあ、と息を吐いた。



「いやあ、親切な人が居って良かったわ。世間様はあったかいで、ほんまに。」
「中学生に感謝するおじさんってどうなんすかねw」
「な、棗君失礼では・・・」
「せやせや、俺はまだおじさん言われる年とちゃうでえ。なんせまだ25や。」
「「「25・・・」」」

確かに25に向かっておじさんは気の毒と思うが、それはそれとしてその年の割にどうもおじさん感があるのは何故だろうか。
この絶妙なファッションセンスのせいか。今時喫煙しているせいか。髭があるせいか。ポケットに入れてるラジオから競馬の中継がうっすら聞こえるせいか。
全部だろうな、多分。

「紫希ちゃんは庇ってくれてええ子やな。一コケシやろう。」
「いえ・・・コケシ?」
「あ!紀伊梨ちゃんも貰ったお、コケシ!」

渡邊と紀伊梨が取り出したのは、コケシだった。
本物のコケシだ。比喩とかじゃなくて、ただの普通のコケシ。
問題は、ただの普通のコケシが何故当たり前のように出てくるのかという所だが。

「ど、どうも・・・」
「え、紫希辞めときなよ。触ったら何か呪われるかもよ。」
「えー!千百合っち、怖い事言うの辞めてYO!」
「ちっちっち。これはなあ、ラッキーアイテムやねんで?持っとったらええ事あるで。」
「推しのお馬さんが勝ったりとかっすかw」
「それはまだあらへんけど、この間はここぞっちゅう時に鬼ヅモしてなあ、跳満かましたったんや?いやあ、気分良かったであの裏ドラ・・・・」
「あんた、もしかして結構駄目な大人なんじゃないの。」
「ハッハー。まあ、駄目じゃない大人とは言われへんかもしれんなあ。」
「裏ドラ??裏のドラえもん的な事?」
「全然違うわ。」
「っていうか、裏のドラえもんって何よw」

なんて言いながら観客席に座る4人。
渡邊がもし居なければ、件のフルセット女子はどこか、なんて気にしたかもしれないが、ビードロズ達は今この変な大人にすっかり意識を持っていかれて、その事をすっかり忘れていた。

が、勿論郁の方はがっちり4人を見ているわけで。

(な、なんだあの大人は・・・誰かの親か?いや、それにしても、いや・・・・)

こう言っちゃなんだが、あまり隣に居たくないタイプのファッション。なんて思う郁は、自分の事は棚に上げまくりである。

(か、確率的に極めて低いと言えば低いけど、あれが丸井の親であるっていう事も・・・上手く付き合っていけるんだろうか僕は・・・って!だから違うだろ!なんですぐ思考がそっちに行くんだ!)

ぶんぶん、と首を横に振る郁は、自分が部員席から見られていることに気づかなかった。



「また首振ってるな・・・」
「え?ああ、彼奴?・・・っつうか、彼奴ら何あれ?誰だよあの変な服の親父。」
「これはこれは、また奇抜な格好の方を連れておいでですね。」
「怪しい奴には寄るなって話じゃなかったのか・・・」

何て言い合いながら桑原も柳生も観客席を見る。
それに丸井も加わっていると、後ろから肩をトントン、と指で突かれた。

「仁王?」
「のう、あのフルセット女子の事なんじゃが。」
「?」
「彼奴、一条じゃないんか。」
「・・・・へ?」
「考えたんじゃが、変な恰好しとるじゃろ、彼奴。」
「おう。」
「あれが、顔を隠したいがためのもんとすると、どうじゃ。」

なんとびっくり。ドンピシャの大正解である。
いつも似たようなことをセルフで考えている仁王ならではの発想の飛躍と言えよう。

「マジ?」
「マジかどうかは知らんぜよ。そうじゃないんか、っちゅうだけの話じゃき。」
「ふうん。んー・・・」

言われてみれば、そうかもしれない。年も背格好も、多分そのくらいだろう。

「ま、そうだとしたら可愛いとこあんな。」
「え?可愛い?」
「何の話をしておいでですか?」

唐突に可愛いだのなんだのと聞こえて、ビードロズ側がひと段落した桑原と柳生が会話に入ってきた。
本当に何の気なしに。

そしたらである。

「一条が可愛いかもって話。」
「「え・・・・」」

いつの間に何がどうしてそんな話に。
おい、とでも言いたげな視線を仁王に送る2人だが、仁王だってそんな目で見られても困る。

「・・・常々思っていましたが、丸井君は何ですね。」
「ん?」
「よく女性に対して、気負いなく可愛いと仰っておいでですよね。」
「そう?俺可愛いと思った時にしか言わねえけど?」
「ええ・・・」
「柳生。柳生。」

首を横に振る桑原は、言っても無駄な事を良く知っている。親友だもん。

「仁王も妙な話をけしかけるなよ・・・」
「面白かろう?」
「またそんな・・・」
「そんな神経張るような事でもないじゃろ。」

仁王はこの件に関して、桑原と柳生は心配し過ぎだと考えている。

多少丸井が女子に向かって可愛いと言ったからなんだと言うんだろうか。
可愛いと言ってるとか言ってないとか、そんな問題じゃないくらい特定の誰かさんに向かってはあれなのに、と思う。

しかし、珍しくもこれは仁王の読みが甘い。
仁王よりも桑原の方が、丸井ブン太という人間をよくよく知っている。

だから桑原は心配なのだ。
丸井は運が強くて、自分でやった事なのに自分で害を被ることは殆どない。

でも多くの場合、代わりに他の誰かがそれを引っ被ることになるのだ。
それが友人達じゃありませんように、とりわけあの大人しい本好きの女の子じゃありませんようにと桑原は願っている。