First national convention:Bye&bye&bye 3 - 1/7


そんな悶着があったせいかもしれないーーーというと、名誉に関わりかねないが。
全国大会準決勝。此処に来て、立海はとうとうD2を落とした。

元々城西湘南にやられてからこちら、ここまで急造コンビでやってきて、負けなしだっただけでももう十分驚異なのだ。
しかし流石に全国というか、それが通用するのもここまで。そういう試合展開だった。
地力は拮抗していたし、なんならちょっと立海側が上回っている部分もあったが、有出はそれをコンビネーションの力で埋めてきた。

D1は勝ちはしたが、それもまあ、何とかすんでの所で感があった。
次やれと言われたら勝てるか微妙である。多分、5回の内2回は負けるだろう。

そんな状況で回ってきたS3である。
元々棄権する気などなかったが、幸村の相手となる吉森昂輝はますます棄権などするわけにいかないと感じた。
ここで1勝取れれば大きい。負けるかもしれなくても、何もしないで1勝進んで差し出すなんて、そんな真似は出来ない。

「お願いします。」
「・・・ああ。」

手ごわそうだ。
と、幸村は思った。

揉めているのは目の前で見たものの、吉森の今の心持には隙がない。

幸村を侮らない。しかし、恐れもしない。
ただ、目の前の相手に対峙して勝つ事を考えている。

何気にこの夏で初めて当たるタイプかもしれなかった。今まで大概、侮るか恐れるかのどちらかにふれていたから。

「プレイ!」

「・・・はっ!」

「ふっ!」


『柳、あの吉森さんという選手はどういうプレイヤーだい?スピード型?パワー型?』
『いや。スタミナタイプのオールラウンダーだな。』
『ほう、体力に自信があるか。』
『ああ。兎に角足で拾い続けるプレイスタイルだ。今大会ではあまり見かけない分、貴重な機会だな。』


柳に言われたことがリフレインする。
成程。確かに、ラリーが続く。続けようと殊更思っているわけではないが、返球がくる。

「・・・・はあっ!」

「ゲーム立海!1-0!」


「・・・・ふう。」

これでやっと1ゲーム。
長い。あからさまに長い。

決め球がないとはそういう事である。
当たり前だが、相手の取れるボールを返してもまた返ってくるだけだ。相手に返せないショットを打たなければいけないとなると、決め球を持つか、相手が返せないショットが打てるその瞬間を待つかしか選択肢がなくなる。

それでも、決め球が欲しいとか、必要だとかは思わない。
テニスは得意なショットが多い方が勝つゲームじゃない。

返してさえ居れば良い。
自分のコートにボールさえ落ちなければ負けない。そういうゲームだ。

ある意味、自分と吉森は似てるのかもしれない。
そう思いながら、幸村は吉森の方へ視線を向けた。

「どうだ、吉森・・・」
「平気だよ。ゲーム取られたけど、普通に負けてるだけだ。やっぱり、勝たせてくれそうにはないけどな。」

固い。
幸村に対する吉森の印象はそれだった。

固いというとなんだか殴り合いのゲームか何かみたいだが、本当にそういう印象なのだから仕方がない。
この1ゲームの中で吉森は色々手を変え品を変え攻撃して出方を伺ってみたが、幸村は悩む様子もなくさらりと返す。
あの体力。足の速さ。ショットの正確さ。経験の豊富さ。
正にどれをとっても一級品である。攻撃する隙が無い。防御力が高すぎて歯が立たない。

「ま・・・それならそれで考えはあるさ。」

どこか1点で良い。
突き崩せればそこを突ける。
これは根競べだ。どっちがより先に隙を見せて総崩れになるか、そういう話だ。

と、吉森は思っていた。
この時は、まだ。



吉森がおかしい、と思い始めたのは3ゲーム取られた辺りからだった。

(どうしてだ・・・)

入らない。
ボールがコートに入らない。

ドンマイ。次だ次。
そう自分に言い聞かせ続けて試合を続けてきたが、流石に3ゲームの間で2、3回しか自分のショットが入らないと、いくら何でもおかしいと思い始める。

吉森だって、今まで何度も人に負けた事はある。
あるけど、それでももっとポイントは取っていた。

どこへどう打っても返ってくる。
底なしの防御力、と言っても良いかもしれない。
吉森だってさっきから色々やっているのだ。
スマッシュ。ジャンピングスマッシュ。
意表を突いた筈のボレー。がら空きのクロスを狙ったり、ライン際を狙ったり、偶々結果的にそうなってしまったが、一球だけもろに幸村の顔の方に打ってしまった事さえあった。

でも返される。
幸村には返される。

さりとて何もしないわけにはいかないから、吉森は打ち続けるが。
だが、段々と心には暗い雲が忍び寄ってくる。

これも返されるんじゃないか?
あれが駄目だったのに、このショットが通るなんて事があるか?
これで駄目なら、次に打てる手が幾つ残ってるんだ?

「・・・・たあっ!」

「来いーーーー」

幸村のショットが来る。
返さなくてはと振りかぶる。

その瞬間。

ひたり、と背中にもう一人の自分が張り付いて、そっと吉森に囁いた。


ーーーそれ、さっきも打ったぜ。


「・・・・っ!」

「アウト!」

一瞬だった。
一瞬だけ、体の動きが止まってしまった。

(ーーー今、俺ーーー)

リフレインした。
さっきのゲームで、このショットは打った。
そして返された。だから、次に打っても返ってくることは分かってる。

そう思ったら、一瞬体から力が抜けたのだ。
するだけ無駄だ、他の手を使えという思いと、もうモーションがここまで来たら分かっていても打つしかない、そう簡単にショットは切り替えられない、という矛盾が吉森を静止させた。

「・・・・・タイム。」

取ってどうする。
そういう自分からの囁きは、聞こえないふりをした。