First national convention:Bye&bye&bye 3 - 3/7


「こらあ、あかんわ。」

渡邊が零した。
耳の良い紀伊梨がそれに即座に振り向く。

「何が?もしかしてこっち負けちゃうの!?」
「ん?ああいやいや、そういう意味やないで。寧ろ立海は勝つやろ。」
「良かったー・・・あ!じゃあじゃあ、相手のがっこーが駄目?って事すか!」
「ははは!ちゃうねんちゃうねん、完全にこっちの話や。あんまり気にせんといてや。」
「そこまで言ったなら言ってよw」
「堪忍したってえな。こっちもこっちで事情があんねんて。」

なんて会話をしつつ、渡邊の頭の中はフルスロットルで回転している。

次は自分達が此処に当たる可能性がある。
無論、氷帝に勝てたらの話だが、氷帝には勝てるだろうというのが渡邊の読みであった。確かに跡部は鬼のように強いが、逆に言うと跡部以外は幾らでも食いつく隙がある。

それよりも、今年になって3人の1年生がSの座を占めた事で、メンバーが大きく変わった立海の方が渡邊は気になっていた。
人数的にはたった3人でも、Sを務めるのなら5/3はニューフェイスという事になる。
ノーデータでそれはきつい、と思ったからこうして見にきたのだが。

(見といて正解やったなこれは。)

渡邊の背中を冷汗が伝った。
何も知らないで当たっていたら、どえらい事になっていただろう。勝つとか負けるとか以前の問題が発生している。

内心で焦る渡邊の視線の先では、辛うじて進行していた試合がとうとう止まった。



試合をしている。
という感覚が消えていった。

目の前で見えている事が、自分の事として捉えられない。
審判のコールが、自分に言われてる事として聞けない。

目の前で映画を見ているような感覚。
視界こそ自分の視点であっても、試合をしているのは別人かのような錯覚を覚える。

今試合してるのは自分じゃないんだ。
だから、俺は何もしなくて良い。

足が動かなくても。
ラケットが振れなくても。
ショットが打てなくても。
ポイントが取れなくても。

負けてるのは俺じゃない。
だから、良いんだ。
俺は、何もしなくても、良いんだ。


「レディ!」
「・・・え?」
「レディ!サーブを、吉森選手!」
「ああ・・・はい・・・」


そうか。サーブはこっちか。
頑張れよ。
まあ、俺が打つわけじゃないけど。

ああ、何だかトスを上げる感覚も夢みたいだ。
どこへ打てば良いんだっけ?あの辺だっけ?この辺だっけ?

まあ良いや。
どうせ一緒だし。
どこへ打ったって、返されることに変わりはないし。

俺、こんな試合嫌だな。
うん、俺だったら絶対やりたくない、こんな試合。


ーーーーだって、辛いばかりじゃないか。

「40-0!・・・吉森選手?」
「・・・・?」
「タイム!タイムです!君、大丈夫か!」

「吉森!」
「おい、吉森!大丈夫か!どうした!」


大丈夫?
俺は大丈夫だよ。
ちょっとボーっとしてて、試合の展開についていけてないけどな。

それよりも皆、今試合してる奴の事応援してやれよ。

ほら。
あのーーーあれ?

誰が試合してるんだっけ?

俺か?

ーーーー俺か、


「あの・・・」
「え・・・・?」

「大丈夫ですか?」

そう言って、心配そうな幸村の顔が自分を覗き込んだ後。
目の前が急に真っ暗になった吉森は、前後の事を今でもよく思い出せない。