First national convention:Brave girl 2 - 2/5


「これで、」

跡部が話し出すのを、全部員が見ていた。

此処は氷帝学園である。
皆もう撤収して戻ってきたわけだが、今日は流石に即座の解散は出来ない。

「今大会は終わった、という事になる。結果としては全国大会進出。そして4回戦敗退だ。まあまさかそんな事を思ってる奴は居ねえとは思うが、とても満足のいく結果じゃねえ。」

うん、と頷く動作をした者が何人も居た。
可憐は前を向いていたが、それでも気配でそれがわかった。

「とは言っても、勿論満足出来なかったからといって、現実は変わらねえ。負けは負けだ。今年の夏は終わった。だが、立ち止まるわけにはいかない。次の夏こそ頂点に立つためにな。」

(うん・・・そうだよね。)

落ち込んでなんていられない。
そんな暇はない。

もう負けたくないからーーー強くそう思うからこそ、いつも前を見ていなくてはいけないのだ。

「では、明日からもそれを念頭に置いて各自一層精進に励め。以上。」
「「「「「はい!」」」」
「よし。では解散・・・と言いてえ所だが、今日はもう一つ話がある。」

(え?)

「どうしても話したいというもんでな。許可したんだ。」

跡部が首をふい、と動かして促すと、ある部員が前へ一人出てきた。

「あ・・・・」

彼は元、テニス部部長の結城ーーーつまり、跡部が居なければ部長になっていたであろう先輩だった。

跡部と入れ替わりに前へ出ると、ごほんと一つ咳ばらい。

「ええと・・・こうして前に出てきたけど、あんまり偉そうな事言う気はないんだ。俺は跡部より弱いし、今や別に部長でもないし。ただ、3年生の代表として言っておきたい事があって。」

彼はふう、と一つ息を吐いて。
前を向く。


「今此処に居る2年生の事。1年生の事。俺達3年生は、本当に誇らしく思うよ。」


可憐の目が大きく見開いた。

「レギュラーに入ってるとか、入っていないとかそういう事じゃないんだ。此処に居る全員が居たから、ここまで来れたんだ。俺達は今日で引退だけど、俺達が抜けた穴なんてきっと直ぐに塞がるんだろうなって思うよ。そう思えるくらい、お前達皆強いんだよ。

今跡部が満足するなって言ったけど、多分去年までの俺達だったら満足してたよ。でも今は皆もう満足出来ないって顔ばっかりで、そうなったのは特に、跡部や今の1年生たちが部の空気をそういう風にしてくれたからなんだ。

思い出を有難うとか、てっぺんへ行けなくてごめんとか、そういう事は言わない。行けなかったのにそんなの、かっこ悪いもんな。そうじゃなくて・・・ええと、その・・・ああ、俺跡部と違ってこういうスピーチみたいなの得意じゃないんだよ。上手く言えないけど・・・うん。


来年。
絶対優勝できるよな、って信じてるからな。」


見ようによっては、これは無責任なプレッシャーかもしれない。
出来るって信じてる、と言われると、出来ないなんて言えなくなる。相手が自分の中でそれなりに大切な人なら猶更だ。

でも、彼は分かっていてそれを言った。
このくらいのプレッシャーは今の氷帝テニス部なら耐えられるという確信があるし、それにーーーきっと今のテニス部なら、こうして重いものを背負わせた方がきっとより強くなれる。
そう思ったからこう言ったのだ。

そしてその信頼が、可憐には嬉しかった。

今まで誰かに、こんな風に信じられた事なんてなかった。
可憐個人に信頼を預けたわけじゃないけど、だからこそ大きいと感じる。

これは3年生が、1、2年生である自分達皆に向けている信頼。

そして、そうやって信じられて、初めて可憐は思い知った気がした。

「・・・・っ!」

確かに跡部は部を作り変えたけど、跡部だけ居れば部が成り立つわけじゃない。
レギュラーとして戦ったのは、後輩の指導をしたのは、負けると分かっていて相手のデータをもぎ取ったのは、紛れもなく3年生だった。

してもらった事の大きさを感じて。それと同時に、それを失う寂しさも感じて。
とても大きなものを与えて、与えられていたんだという事には、全てが終わって初めて気づくのだ。

鼻の奥が痛くて下を向いたら、零すつもりじゃなかった涙がぽろ、と一粒零れて落ちた。