First national convention:Brave girl 2 - 3/5


「はー・・・・」
「・・・ひっどい顔、あかり。」
「うるさいなもう!皆そうだろ、真理恵だってそうだろ!」
「2人とも、こんな日にまで喧嘩はやめてよっ!」
「あはは!あーあ・・・何か、今日は最終的に気合入れなおされちゃったわね。」

網代の言った事は本当だった。

夏が終わった日だというのに、解散した時に氷帝テニス部の目に燃えていたのは闘志の炎だった。

もっと出来る。
自分達はもっと強くなる。
部員がそういうのなら、自分達だってやらねばと思うのがマネージャー魂というやつだ。

(頑張ろう、明日からも・・・)

もう3年生は終わったけど、1年生の自分達にはこれからがある。
何もかも終わったわけじゃない。だから。

エネルギーが満ちていくような感覚に浸りながら歩いていると、夕暮れの歩道の向こうで誰かが道を塞ぐように出てきた。


「待っていたわ・・・やっと見つけたわよ、網代茉奈花!」


そこに居たのは、同い年くらいの少女だった。
そして可憐にとっては見覚えのある少女でもある。

「あ、あの子っ!」
「え、可憐知ってるの?」
「し、知ってるって程じゃないよっ!会場でちょっとぶつかっただけっ!」

そう、彼女は今日ぶつかった、何故かマネージャー陣をじろじろと見ていたあの子だった。
明るい茶髪をカチューシャで止めており、品の良いツーピースのスカートスタイルだが、お世辞にも本人の素行が良いとは言い難そうな印象。

可憐の隣で、指名された網代は小さくあら、と呟いた。

「由水さん、久しぶり、ね。」
「茉奈花ちゃん、知り合いっ?」
「ええ。テニススクールの時の、ね。」
「!」

可憐はちょっと目を見開いた。

可憐の中で、網代のスクール時代というのは結構アンタッチャブルな話題である。
僅かに知ってることはあるけれど、お喋り好きな網代にしては珍しく、自分からこの話題を広げよう掘り下げようとしていない事は感じていた。

しかし今、そのスクール時代の人間が目の前に居る。しかも偶々ばったりとかじゃなく、明らかに用事がある風である。

「何が久しぶりよ!こっちはそれどころじゃないのよ!散々探したのにどこにも居ないと思ったら・・・まさかプレイヤーじゃなくマネージャーになっていたとはね。」
「あはは!まあそうね、言ってなかったもの、ね。」
「相変わらずね、その人を小ばかにしたような態度。最早懐かしいから今日だけは許してあげるわ、本題はそれじゃないし。」
「本題?」
「そうよ!こっちは目的もなくあんたを探してたわけじゃないわ!」

由水という名らしい少女は、ビシ!と網代を指さして言った。


「勝負よ、網代茉奈花!今度こそ決着をつけてやるわ!」


勝負。
何の、というのもこの場合無粋だろう。まあテニスの勝負であるはずだ。
何やら因縁でもあるんだろうか・・・と可憐達3人が気づかわし気に網代を伺う。

が。
網代はあっけらかんと言った。

「嫌よ。」
「「「え?」」」
「あら、なあに?私が嫌って言うのがおかしい?」
「え、あ、いや・・・」
「おかしくはないけど・・・」

え?と思わず言ってしまったのは、由水の方ではなくて可憐達の方であった。

いやまあ。
確かに、断る権利だって普通にあるわけだけど。

「あんたねえ・・・!嫌だ嫌だって、そう言い続けてスクールでも結局私の相手を殆どしないで出て行ったじゃない!」
「そうだけど、私だって対戦相手を選ぶ権利くらいあるわよ。というか私、スクールの子と試合するの好きじゃないのよ、ね。何か、仲間同士で喧嘩してるみたいで。」
「そんなものなのっ?」
「ああ、あくまで私は、の話よ。勿論練習試合やなんかは普通にするけれど、野試合とかってどうもやる気が出ないのよねえ。」
「出しなさい!」
「無茶言わないで。出ないんだもの、どうしようもないわ。」
「負けを認めるの?」
「良いわよそれで。元々私、そんなに勝ち負けに興味はないから。」
「~~~~~~!」

いなされている。
思ったように乗ってこないのが苛立つのだろう、由水はダンダンと足を2、3度踏み鳴らした。

が、流石に元スクール仲間(仲間かどうかは微妙だが便宜上)というべきか、ある程度は網代が話を流してくるのも想定していたらしい。

はあっ!と大仰に溜息を吐くと、指さししていた手を下ろして、前のめり気味になっていた姿勢を真っすぐに正した。

「まあ良いわ。あんたの所在はわかったし、今その気になれないっていうなら、いつかその気にさせるだけよ。」
「いつになるかわからないわよ?」
「交渉が出来るだけマシだわ。そもそも会えない連絡出来ないじゃ、勝負するわよって言う事すら出来ないじゃない。」

まあ、それはそう。
まさかたったこれだけの事を避けるために転校も考えにくいし、氷帝学園生と知られた時点で捕まったとは思わねばなるまい。
網代もそう思っているのか、苦笑が口の端に上った。

「相変わらずねえ、そういう所。」
「相変わらずなのはお互い様よ。兎に角今日は見逃してあげるけど、また近いうちに出向くから。じゃあね。」

試合に応じて貰えないまでも、言いたいことは言って気が済んだのか、由水はふんと鼻を鳴らして去って行った。

「・・・うーわ、すごい。」
「真理恵より一方的。」
「あかりより偉そう。」
「「あ”あ”!?」」
「もう辞めてってばっ!それより茉奈花ちゃん、今の子、そのう・・・」
「あの子ね、由水明日香ちゃん、って言うの。さっきも言ったけれど、スクールの子よ。」
「同級生?」
「ええ。学校は違ったから、スクールでの事しか知らないけど、ね。」
「でもさ、何だってあんなつっかかってくるわけ?」
「そうそう、何かやたら勝負したがってたけどあれは何?」
「うーん・・・そうねえ、分かりやすくザックリ言うと、私一方的にライバル視されてるのよ、ね。」
「・・・ライバル視。」
「そう。こう言うと手前みそになっちゃうけど、私スクールで負けたことなかったのよ、ね。」
「「「えええ!?」」」

さらりと言っているが、それって相当凄いんじゃないだろうか。

「で、あの由水さんも相当強いのよ。私以外皆負かしてたから。」
「ああ、そこで、茉奈花にだけ勝てなかったのか・・・」
「じゃ、じゃあ今度こそ茉奈花ちゃんに勝とうと思ってあんな事をっ?」
「多分、ね。由水さんのやりそうな事だわ。って、まさかスクールをやめても探されてたとは思いもよらなかったけど。」

常日頃困ったことがあっても大体余裕の笑みを浮かべている網代だが、今回は本当に参っているらしく、珍しく苦笑を浮かべている。

「ふうん・・・でも茉奈花ちゃん、試合しないんだよねっ?」
「ええ。勝つにしろ負けるにしろ一回やれば諦めてくれるかもって線もあるけど・・・由水さんの性格上、多分手を抜いたらばれるわ。でもやる気でないのよねえ、どうしても。」
「まあ嫌なもんは嫌だよな。気持ちの問題だし。」
「っていうかさ・・・ずるくない?」

新城がぽつりと言った。

「ずるいっ?何がっ?」
「だってさ、憶測だけど、多分あの子まだスクールに居るんでしょ?勝負吹っ掛けてきたってことはさ、かつては普通に負けてたけど、今なら勝てる的な自信があるって事じゃん?」
「ああまあねー。茉奈花は今マネジやっててブランクあるからなー。」
「そっか・・・ある意味勝てて当たり前って事だよねっ?」
「そう!茉奈花が今もうテニスしてないって、わかってるわけでしょ?それを踏まえて勝負しろってあんた・・・勝てるかもだけど、そりゃ勝つでしょとしか。」
「まあねー。でも因縁ってそういうもんじゃん?」
「ああ、一回で良いから勝ちたい的な?」
「勝たないと自分へのけじめが収まらない的な。」
「あー、ありそう。」

新城と金町は、ああでもないこうでもないと話しながらまた歩き出す。
可憐と網代は、当人そっちのけで好き勝手推測を並べる2人を見て苦笑気味に後に続いていたが。

(一回で良いから勝ちたい、かあ・・・)

でも仮にもライバル視していたのなら、こんな風に勝ったところで気が収まるかは微妙かもしれない。無視している網代はある意味賢いのかも。

そんな事を考えながら、ふと隣の網代の顔を見ると。

「・・・・?」

網代は、今まで可憐が見たことのないような顔をしていた。

でも、あまり良い顔では無い事は確かだった。
その一瞬後には可憐に気づいて、もう普通の顔に戻ってしまったけど。

「どうしたの、可憐ちゃん?」
「あっ!な、何でもないよっ!」
「そう?」